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第六話 勇者

 ――エルディア王国、王都郊外。


 乾いた風が、草原を撫でる。


「はぁぁぁっ!!」


 鋭い掛け声とともに、一閃。

 銀の剣が振り抜かれ、目の前の魔物を両断する。

 血飛沫が舞い、巨体が地に崩れ落ちた。


「……ふぅ」


 剣を振った青年は、小さく息を吐く。

 金色の髪に整った顔立ち。

 その姿はまさに“勇者”。


「さすがです、アレン様!」


 騎士たちが歓声を上げる。


「今の魔物、単独で倒すなんて……」

「大したことじゃない」


 アレンは淡々と答える。


「この程度、脅威にもならない」


 その言葉に迷いはない。


(……弱い)


 内心で呟く。


(これが魔王軍だというのか?)


 拍子抜けだった。

 これまでの敵は単調で、連携もない。

 ただ数で押してくるだけの存在。


「……勇者様」


 騎士の一人が駆け寄る。


「王都より伝令です」

「内容は?」

「至急帰還せよとのことです。“魔王軍の異変”と」

「……異変?」


 アレンの目がわずかに鋭くなる。


(ようやく、か)


 どこか期待するような感情。


「分かった。すぐ戻る」



 ――数日後、王都作戦会議室。


「魔王軍は変化しています」


 報告が続く。

 統制、補給、交代制。

 これまでとはまるで違う戦い方。


「……なるほど」


 アレンは短く呟く。


「どう思う」


 国王が問う。


「問題ありません」


 即答だった。


「指揮官を討てば崩れます。魔王を倒せば終わりです」


 単純明快。

 だが、それが彼の強さでもある。


「では命じるり勇者アレンよ、新たな魔王を討て」

「はっ」


 迷いはない。

 それが勇者という存在だった。



 ――その頃、魔王城。


「えーっと……これでいいのか?」


 大きな机の前で、ノワールは腕を組んでいた。

 机の上には、大量の紙。


 部隊編成表、勤務時間表、補給計画――


 いわば“会社の資料”のようなものだ。


「はい、とても素晴らしい内容です」


 リリアが静かに答える。


「各部隊の稼働時間も適切ですし、無駄もありません」

「そうか……」


 ノワールは小さく息を吐く。


(普通にシフト組んだだけなんだけどな……)


 前世の経験。

 それをそのまま使っているだけだ。

 だがこの世界では、それが異常だった。


「ノワール様」

「ん?」


「既に前線では効果が出始めています。被害は減少、戦闘効率は向上、兵たちの不満も減っています」

「マジか……」


 思わず本音が漏れる。


(ブラック企業よりよっぽど健全だな……)


「引き続き、この方針で進めましょう」

「ああ、そうだな」


 ノワールは頷く。

 その時――


「失礼します!」


 扉が勢いよく開く。

 入ってきたのは、四天王の一人、グラドだった。


「ノワール様!」

「おう、どうした?」

「人間側に動きありです!」

「……何?」


 表情が少しだけ引き締まる。


「勇者が動く可能性が高いとのこと!」

「勇者……」


 その言葉に、空気が変わる。

 リリアが静かに口を開く。


「ついに来ましたね」

「……だな」


 ノワールは少し考える。


(勇者か……テンプレだな)


 だが、油断はできない。

 この世界での“勇者”がどれほどの存在かは未知数だ。


「迎え撃つ準備をする」

「はい」


 リリアが即座に応じる。


「ただし――」


 俺は続ける。


「無理はさせるな」

「……と言いますと?」

「シフトは守れ、休むときは休ませろ、疲れてる状態で戦わせるな」


 一瞬、沈黙。


 そして――


「……承知いたしました」


 リリアはわずかに微笑む。


「ノワール様らしいご判断です」

「いや普通だろ……」


 俺は苦笑する。

 だがその“普通”こそが、この世界では異常だった。


「面白くなってきたな!」


 グラドが豪快に笑う。


「勇者だろうが何だろうが、叩き潰してやる!」

「……ほどほどにな」


 ノワールは小さく呟く。


(できれば戦わずに済めばいいんだけどな……)


 だが、そうもいかないだろう。

 勇者は来る。

 確実に。


 そして――


 その衝突は、避けられない。



 勇者は討つために進み。

 魔王は守るために備える。

 二つの存在は、確実に近づいていた。


 ――やがて訪れる、衝突の時へと。

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