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第四話 魔王軍という組織

「この軍、全体像を把握したい」


 俺は椅子に腰掛けたまま、正面に立つリリアに視線を向ける。


「組織の構造を教えてくれ」

「かしこまりました、ノワール様」


 リリアは静かに一礼すると、指先を軽く掲げた。

 その瞬間、空中に淡い光が集まり、幾何学的な線が編まれていく。

 やがてそれは一つの図となり、俺たちの前に浮かび上がった。


「これが現在の魔王軍の基本構造でございます」

「……便利だな、その魔法」

「説明に適しておりますので」


 さらっと言うが、完全にプレゼン機能じゃねえか。

 ブラック企業時代に欲しかった。

 いや、あったらもっと仕事増やされてたか。

 どっちにしろ地獄だな。

 そんなことを考えながら、俺は図に目を向ける。


「頂点にノワール様」


 リリアが指で示す。

 図の最上部、他よりも一回り大きく描かれた位置。


「その直下に、我々四天王」


 さらに下へと線が伸びる。


「そして各部門ごとに指揮官が存在し、その配下に兵士が配置されております」

「……ピラミッド型の階層構造か」

「はい、その通りでございます」


 構造だけ見れば、極めて普通。

 むしろ分かりやすい部類だ。

 だが――


「問題は運用だな」


 小さく呟く。


「で、それぞれの役割は?」

「まず、私からご説明いたします」


 リリアが一歩前に出る。


「私は全軍の統括及び管理を担当しております。人員配置、命令の整理、各部門間の調整、そしてノワール様の補佐が主な役割でございます」

「……なるほど」


 いわゆる“本社機能”。

 ここが詰まれば全部止まる。

 そして――


 たぶん詰まってる。


「俺は戦闘だ!!」


 グラドが勢いよく口を挟んだ。


「前線で敵をぶっ壊す!! それが俺の仕事だ!!」


 声がでかい。

 会議室(仮)なのに戦場みたいな音量だ。


「戦闘部隊は最も人数が多く、魔王軍の主力でございます」


 リリアが補足する。


「最前線での戦闘、領土防衛、侵攻作戦の実行を担当しております」

「要するに主力部隊か」

「そういうことだ!!」


 グラドが満足そうに頷く。

 単純だが、こういうやつは現場で強い。


「クロウは?」


 視線を横に向ける。


「……技術開発」


 相変わらず短い。


「武器、装備、魔道具の設計と開発。あと戦術の最適化とデータ分析」


 少しだけ付け加える。


「戦闘を裏から支える部門でございます」


 リリアが続ける。


「効率や再現性を重視した戦力強化を担っております」

「なるほどな……」


 完全に研究開発部だ。ここも重要度は高い。

 むしろ現代的には最重要まである。


「ルナは?」

「はーい!」


 ルナが元気よく手を挙げる。


「わたしはねー、どーんってするの!」

「雑すぎるだろ」

「広範囲魔法による殲滅戦を担当しております」


 リリアが即座に補足する。


「魔術部隊は単独で戦局を変えるほどの火力を持ちますが――」

「扱いが難しい、と」

「はい」


 ルナはにこにこしている。

 たぶん何も考えてない。

 だが、こういうやつが一番危ない。

 力の使い方を間違えたら終わるタイプだ。


「……一通り分かった」


 腕を組む。構造はシンプル。

 役割分担も一応できている。

 だが――


「で?」


 ゆっくりと口を開く。


「問題点は?」


 一瞬、空気が止まった。


「……多すぎるな」


 最初に口を開いたのはクロウだった。


「まず、部門間の連携がない」

「ま、俺たちは俺たちで戦うからな!」


 グラドが胸を張る。

 お前、そんなに誇らしげに言うことじゃないよ。


「情報共有がほぼ行われておりません」


 リリアが続ける。


「各部門が独立して動いている状態です」

「……縦割りか」


 最悪だな。


「命令系統も非効率だ」


 クロウが言う。


「基本的にリリアを経由するから、伝達が遅れる。さらに重複報告が多い。同じ内容が何度も上がってくる」

「……うわ」


 完全にブラック企業だ。

 しかも無駄に真面目なタイプの。


「あとねー」


 ルナが手を挙げる。


「みんなずーっとはたらいてる!」

「それも問題だな」


 むしろそれが根本原因だ。

 疲労が溜まると、判断が鈍る。すると事故が増え、効率が落ちる。悪循環だ。


「まとめるぞ」


 俺は指を折る。


「連携なし。非効率な命令系統。長時間労働――終わってるな」

「……否定はできません」


 リリアが静かに頷く。


「よし」


 俺は立ち上がる。


「全部変える」


 四人の視線が一斉に集まる。


「まずは連携だ。部門同士を繋ぐ。戦闘、技術、魔術、全部を一つの流れにする」

「……どうやって?」


 クロウが聞く。


「会議をする。定期的にな」

「かいぎー?」


 ルナが首をかしげる。


「情報共有の場だ。全員で状況を把握する。無駄な報告は減らし、必要な情報だけ回す」

「……なるほど」


 リリアが納得する。

 クロウがゆっくり頷く。


「理にかなっている」


「で、次。勤務時間の管理シフト制を他の部隊でも導入する」

「それ、さっきのやつか!」


 グラドが言う。


「そうだ。休ませることで戦力を維持する。無理に働かせるより、よっぽど強くなる」

「面白えな……」


 グラドがニヤリと笑う。


「最後に、評価制度を変える。成果を出したやつを評価し、無駄に働くだけのやつは評価しない」

「……革命だな」


 クロウが呟く。


「だねー!」


 ルナが嬉しそうに笑う。


「まだ始まりだ」


 俺は四人を見渡す。


「この軍は、もっと強くなる。そのために――働き方から変える」


 一瞬の静寂。


「ガッハッハ!! 面白え!!」

「……やってみる価値はあるな」

「わくわくしてきたー!」


 三人とも、もう止める気はない。


「リリア」

「はい」

「準備しろ。改革を本格的に始める」

「かしこまりました、ノワール様」


 その目は、わずかに楽しそうに見えた。 



 ――魔王軍は、動き出した。

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