第三話 勤務時間とかいう概念
「これから忙しくなるぞ」
そう言った俺に対して――
「ガッハッハ!! 望むところだ!」
「……まあ、付き合ってやる」
「えー、なにするのー!」
三者三様の反応。
……よし、悪くない。
「まずは制度を作る」
俺は全員を見渡す。
「制度?」
クロウが眉をひそめる。
「ルールのことだ。、今までは“気合いと根性”で回してただろ…それをやめる」
「……具体的には?」
いい質問だ。
「勤務時間を決める」
一瞬の沈黙。
「……は?」
またこの反応か。
「1日の労働時間は最大10時間。それ以上は働かせない。強制的に休ませる」
「無理だろ」
即座にクロウが切り捨てる。
「戦況は常に変化する。時間で区切れるほど甘くない」
「分かってる」
俺は頷く。
「だから“シフト制”にする」
「……シフト?」
グラドが首をかしげる。
「交代制だ。部隊を複数に分けて、順番に働かせる。常に誰かは動いてるが、全員が働き続ける必要はない」
三人の表情が変わる。
「なるほどな……」
クロウが小さく呟く。
「理屈は通っている」
「だろ?」
「だが問題は人員だ」
さすが頭脳担当。
「今の戦力で回るのか?」
「回す」
言い切る。
「無駄を削るからな」
「無駄?」
グラドが聞き返す。
「報告の重複、無意味な訓練、長時間の待機。そういうの全部削る。必要なことだけやる、それで時間を作る」
「……」
クロウが黙り込む。
計算してるな。
「理論上は可能だ」
やっぱりな。
「だが――」
来るぞ。
「現場がついてくるとは限らない。むしろ反発の方が大きいだろう」
「だろうな」
即答する。
「だから――」
一歩前に出る。
「強制する」
「……ほう」
グラドがニヤリと笑う。
「やっぱり力じゃねえか」
「違う」
首を横に振る。
「ルールとして“当たり前”にする。従わないと損をする仕組みにする」
「どうやってー?」
ルナが興味津々で聞いてくる。
「簡単だ」
指を一本立てる。
「ちゃんと休んだやつは、戦果を優先的に回すし、評価も上げる逆に、無理して勝手に動いたやつは評価を下げる」
「……あー」
クロウが納得したように頷く。
「行動をコントロールするわけか」
「そういうこと」
「面白いねー!」
ルナがぱちぱちと手を叩く。
「遊びみたい!」
いや遊びじゃない。
……まあ、近いけど。
「よし」
手を叩く。
「まずは第三軍団で試し、成功例を作る。それを全体に広げる」
「分かった」
クロウが頷く。
「データは俺が取る」
「いいね」
優秀すぎる。
「俺はどうする?」
グラドが腕を組む。
「お前は現場をまとめろ。反発するやつも多いはずだ。押さえつけろ」
「任せとけ!!」
頼もしいな。
「ルナ」
「はーい」
「お前は――」
少し考える。
「暇な時に様子見てくれ」
「えー、それだけ?」
不満そうだ。
「何かあったら、すぐ動け」
「……ふーん」
少し考えて――
にこっと笑った。
「じゃあ、好きにしていい?」
嫌な予感。
「……範囲内でな」
「やったー!」
絶対ロクなことしない。
――数時間後。
「ノワール様」
リリアが報告に来る。
「第三軍団、シフト制の導入が完了しました」
「早いな」
「強制力が効いておりますので」
まあそうだろうな。
さらに数時間後。
「……おい」
グラドが声をかけてくる。
「なんだ」
「妙だ」
「妙?」
「回ってる」
「は?」
「普通に戦線が維持できてる」
「当たり前だろ」
「いや、違う」
グラドは首を振る。
「さっきより、動きがいい」
「……」
クロウが口を開く。
「疲労度が下がっているし、命中率も上がっているな。明らかに無駄な動きが減ってる」
「つまり?」
俺が聞くと――
「戦力が上がってる」
クロウがはっきり言った。
「……マジか」
想像以上だ。
「ねえねえ!」
ルナが駆け寄ってくる。
「さっきの部隊、すっごい動きよくなってたよ!前より強くなってる!」
やっぱりな。
「どういうことだ……」
グラドが呟く。
「休ませただけで、ここまで変わるのか?」
「当たり前だ」
俺は肩をすくめる。
「今までが異常だったんだよ」
静寂。
そして――
「……面白え」
グラドが笑う。
「本当に変わるかもしれねえな、この軍」
「……認めざるを得ないな」
クロウも頷く。
「理論も、結果も通っている」
「えへへっ!」
ルナが満面の笑みを浮かべる。
「もっとやろうよ!もっと面白くしよ!」
三人とも、もう否定はしていなかった。
「……よし」
小さく息を吐く。第一段階、成功。
だが――
「まだ終わりじゃない」
呟く。
「ここからが本番だ」
魔王軍を変える。
その戦いは、まだ始まったばかりだった。




