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第二話 残業、禁止

「……は?」


 三人の声が、綺麗に重なった。

 予想通りだ。


「聞こえなかったか?」


 あえてもう一度言う。


「残業は禁止だ」


 一瞬の静寂。

 次の瞬間――


「ガッハッハ!!」


 大柄な男が腹を抱えて笑い出した。


「面白いことを言うじゃねえか、魔王様!冗談だよな?戦場で残業禁止だと? そんなもん、成立するわけねえだろ!」


 まあ、そうなるよな。


「……はぁ」


 猫背の男がため息をつく。


「やっぱり外れか。前の魔王の方が、まだマシだったな」


 おい、それは言いすぎだろ。


「えー、それほんと? おもしろそう!」


 小柄な少女だけが、目を輝かせていた。

 温度差がすごい。


「ノワール様」


 リリアが静かに口を開く。


「ご覧の通り、現場の理解は得られておりません」

「だろうな」


 むしろ予想よりマシだ。殴りかかってこないだけ平和だろう。


「……で?」


 大柄な男がニヤリと笑う。


「どうすんだ、魔王様。口だけか?」


 挑発。

 分かりやすい。


「いいや」


 俺は首を横に振る。


「ちゃんと結果は出す」

「ほう?」

「その前に、一つ聞かせろ」


 三人を見渡す。


「お前ら、今のやり方で“勝ててる”のか?」


 一瞬、空気が変わった。


「……どういう意味だ」


 猫背の男が低い声で聞く。


「そのままの意味だよ。長時間労働、無茶な命令、使い捨ての兵士。それで戦力は維持できてるのか?」


 誰も答えない。

 いや、答えられない。


「できてねえだろ」


 代わりに言ってやる。


「兵士は疲弊して、数は減って、士気も落ちる。そんな状態で、まともに戦えるわけがない」

「……っ」


 大柄な男が歯を食いしばる。

 図星か。


「じゃあ聞くけどよ」


 男が睨んでくる。


「長時間戦うことなくして、どうやって戦力を維持する?」

「簡単だ」


 即答する。


「効率を上げる」

「……は?」


 全員の顔に「何言ってんだこいつ」と書いてある。


「ダラダラ長く働くから効率が落ちるんだよ。時間を区切り、休ませる。それだけで、パフォーマンスは上がる」

「理想論だな」


 猫背の男が吐き捨てる。


「実証できるのか?」

「できる」


 俺は頷く。


「今すぐにでもな」

「……ほう」


 大柄な男が腕を組む。


「じゃあ見せてみろよ。結果を出せば、従う。出せなければ――」


 ニヤリと笑う。


「お前の言う“改革”は全部却下だ」


 いいだろう。


「リリア」

「はい」

「今、一番消耗してる部隊はどこだ?」

「第三軍団です。連戦が続いており、疲労が限界に近いかと」

「よし」


 決まりだ。


「そこに行く」


 

 ――数分後。


 俺たちは、前線の拠点にいた。


「……ひどいな」


 思わず呟く。

 兵士たちはボロボロだった。


 座り込んでいる者。

 武器を持ったまま眠りかけている者。


 目に光がない。


「これが、現状か」

「…はい」


 リリアが答える。


「……よし」


 俺は前に出る。


「聞け!!」


 声を張り上げる。

 兵士たちの視線が、ゆっくりと集まる。 


「今日から、この部隊のルールを変える!」


 ざわつく。


「まず――」


 一拍置いて、言い放つ。


「今から六時間、全員休め」


 静寂。


「……は?」


 誰かが呟いた。


「冗談、ですよね……?」

「いいや、本気だ。武器を置け。寝ろ。食え。以上だ」


 混乱が広がる。


「ちょ、ちょっと待て!!」


 大柄な男が叫ぶ。


「こんな状況で休ませたら、敵に攻め込まれるぞ!!」

「来ない」


 俺は即答する。


「……なんで言い切れる?」

「相手も同じだからだ」

 

 一瞬、沈黙。


「向こうも疲弊してる。だから攻めきれない。なら、その隙に立て直す方が得だ」

「……っ」


 誰も反論できない。


「とにかく休め。これは命令だ」


 強く言い切る。

 しばらくの沈黙の後――

 一人の兵士が、ゆっくりと座り込んだ。

 そして。

 そのまま、倒れるように眠った。


「……っ」


 次々と、武器が落ちる。

 兵士たちが、その場で眠り始めた。

 限界だったんだ。誰もが。


「……本当に、寝やがった」


 大柄な男が呟く。


「当然だ。人間だろうが魔族だろうが、休まなきゃ動けない。それだけの話だ」


 静かな時間が流れる。



 そして、数時間後――


「……すげえ」


 誰かが呟いた。

 兵士たちの顔色が、明らかに変わっていた。

 目に、光が戻っている。


「体が……軽い……」

「武器、ちゃんと持てる……」


 ざわめきが広がる。


「どうだ」


 俺は振り返る。


「これが“休ませる”効果だ」


 三人は、言葉を失っていた。


「……まだ序の口だ」


 俺は続ける。


「これから、もっと効率を上げる。もっと強くする。無駄な犠牲なんて、一つも出させない」


 言い切る。


 その時――


「……くくっ」


 小さな笑い声がした。


「すごーい!」


 小柄な少女が、楽しそうに笑う。


「ほんとに変わるんだね!」


 その目は、完全に“面白いものを見る目”だった。


 そして――


「……認めるしかねえな」


大柄な男が、ゆっくりと口を開く。


「今のは、確かに結果だ」


その言葉に、他の二人も黙って頷いた。

空気が変わる。

さっきまでの“疑い”が、少しだけ“興味”に変わっていた。


「なら――」


俺は腕を組む。三人を見渡す。


「名前と役割、教えてくれ」


一瞬の沈黙。

そして――


「ガッハッハ!!」


大柄な男が豪快に笑う。


「いいだろう!」


一歩前に出る。

床がわずかに揺れる。


「俺は四天王が一人、戦闘部隊総指揮官!」


胸をドンと叩く。


「グラド・バルガスだ!!」


声がでかい。

というか、存在感がうるさい。


「力こそパワー! 正面からぶち壊すのが俺のやり方だ!」


分かりやすい脳筋タイプだ。

だが――

こういうやつは扱いやすい。


「次」


視線を横にずらす。


「……はぁ」


猫背の男が、面倒くさそうに前に出た。


「四天王の一人、技術開発部門統括」


ぼそりと呟く。


「クロウ・エンジスだ」


声が小さい。

やる気もなさそうだ。

だが――目だけは違う。

鋭い。


「戦争は効率だ」


眼鏡を軽く押し上げる。


「無駄が一番嫌いでね」


なるほど。

こいつは頭脳タイプか。


「最後」


視線を向ける。

小柄な少女が、ぴょこっと前に出た。


「えーっとね!」


無邪気に笑う。


「わたしはルナ!」


それだけかよ。


「……役割は?」


聞くと、少女は少しだけ考えて――

にこっと笑った。


「いろいろできるよ?」


雑すぎる。


「一応、魔術部隊のトップですよ」


軽い口調で、リリアがとんでもないことを言う。


「さっきの、ちょっと面白かった!」


やっぱりこいつ、楽しんでるな。


「もっとやるの?」


目をキラキラさせてくる。

子供みたいに。


「やるよ」


即答する。


「この魔王軍、全部変える」


一瞬の静寂。

そして――


「ガッハッハ!! いいじゃねえか!!」


グラドが笑う。


「気に入ったぜ、魔王様!」

「……まあ、悪くない」


クロウが小さく呟く。


「少なくとも、前よりはマシになりそうだ」

「えへへっ!」


ルナが楽しそうに笑う。


「なんかワクワクしてきた!」


三者三様。だが――

さっきまでとは明らかに違う。


「……よし」


小さく息を吐く。

第一歩は成功だ。


「これから忙しくなるぞ」


そう言うと――

三人は、同時に笑った。

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