第9話 風の精霊との日常
おじいちゃん家から帰ってきて、僕の毎日は少しだけ変わった。
「あ!! ヒラタクワガタ採りに行くの忘れてた!!」
ヒューイのことで頭がいっぱいで、クワガタを捕まえに行ったはずなのに、すっかり忘れていた。
ヒューイはいつでもいるわけじゃない。
僕が呼んだら、どこからともなく現れる。
「俺は普段、五島の山とか、ほかの精霊達と一緒にいるんだよ。でも呼ばれたら、ヒロの召喚空間を通って来れるんだ」
そんなことを言っていた。
召喚空間というのは、僕と召喚物を繋ぐ“間の世界”みたいなものらしい。
難しいことはよくわからないけど、ヒューイが教えてくれたのが嬉しかった。
「ねぇヒューイ。産まれたときからそこら中に僕だけに見えている、この光の子ってやっぱり精霊なの?」
僕がそう聞くと、ヒューイは違う違うと手を振った。
「お前さんが光の子って言ってるのは“微精霊”ってやつだ。精霊になる前……っていっても相当時間がかかるだろうけど、まぁちっこい存在だな」
「微精霊……」
「地球人が魔法を使えるのは、アイツらが魔力の流れを整えてやってるからだ。微精霊がいなきゃ地球人は魔法を発動できねぇよ」
「えっ、そうなの?」
「そうなの。だからご飯を食べるときに“いただきます”って言うように、魔法を使うときは“ありがとう”って言うんだよ。それがまぁ詠唱ってとこかな、簡単に言うとな」
僕の肩の上で赤い光の子がぴょんぴょん跳ねていた。
なんだか誇らしげだった。
「ヒロ、繰り返しになるけどお前は“精霊の目”を持っている」
「そのせいれいのめってなんなのさ」
「精霊や微精霊が見える眼のことだ。そういう奴が現れたとき、俺らの判断で守護するようになってたんだ」
「守護……?」
「そう。俺たち風の精霊は“衣となり刃となる”って役割を持つように古から言われてたんだ」
ヒューイは少し照れくさそうに笑った。
「まぁなんで守るのかは詳しくは知らねぇけど、王の中の王がそう決めたらしい。……まぁなんだ、ヒロと一緒にいると心地が良いんだよ」
「よし、ヒロ。風魔法の練習すっぞ!」
「うん!」
ヒューイを召喚している間は、
ヒューイのアドバイスを聞きながら想像するだけで魔法を使える。
「風を集めて……ほら、手のひらの前に渦を作るイメージだ」
「こう……?」
ふわっ。
小さな風の渦が生まれた。
「おお! やるじゃねぇか!」
「やった!」
でも、何度もやっていると――。
「……あれ、なんかクラクラする……」
「おっと、魔力切れだな。俺を召喚してるだけでも魔力使うからな」
どうやら僕は、
ヒューイを召喚できるのは一日で三十分くらいらしい。
「無理すんなよ。魔力切れは倒れるからな」
「うん……」
ヒューイは心配そうに僕の肩に乗った。
その日の夜、お兄ちゃんからテレビ通話がかかってきた。
「ヒロー! 元気かー!」
「元気だよ! ヒューイもいるよ!」
「ヒューイ?」
「ほら!」
僕が手を前に出すと、風が巻き起こり、ヒューイが現れた。
「よっ、兄ちゃん! 俺がヒューイだ!」
「うわっ!? なにこれ!?」
「ヒューイだよ! 僕の風の精霊! 召喚したんだ!」
「召喚!? ヒロ、お前召喚魔法なんか使えるようになったのか!」
「うん!」
「すげぇ……! 冬には絶対帰るから、また見せてくれよ!」
お兄ちゃんは興奮していた。
僕も嬉しくて、
ヒューイもなんだか得意げだった。
それから毎日、
僕はヒューイと一緒に魔法の練習をした。
光の子たちとヒューイが追いかけっこしたり、
ヒューイが僕の宿題を覗き込んだり、
風の渦を作って遊んだり。
お兄ちゃんがいなくて寂しいはずなのに、
気づけば笑っている時間の方が多かった。
ヒューイは、
僕の毎日に風を吹かせてくれる存在だった。




