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第82話 実戦授業とプラズマの槍

 国立魔法学校、高等部第二演習場。

 静まり返った空気の中、対峙する二つの影があった。


「……いくぞ、一之瀬!」


 鋭い掛け声と共に、実技担当のベテラン教師が杖を振るう。

 展開されるのは中級の風魔法。不可視の鎌いたちが、俺の首元を狙って疾走する。

 速い。一般の生徒なら反応すらできずに直撃コースだ。


 ――でも、俺には止まって見える。


「遅いです、先生」


 俺は一歩も動かず、左手だけを軽く前に出した。

 無詠唱。

 指先から放たれたのは、コインほどのサイズの極小の『水弾』だ。

 ただし、その水は極限まで圧縮され、鋼鉄以上の硬度を持っている。


 パァンッ!!


 乾いた破裂音。

 俺の放った水弾は、迫りくる風の刃を正面から撃ち落とし、霧散させた。


「なっ……魔法を、魔法で相殺しただと!?」


 教師が驚愕に目を見開く隙に、俺は空間の座標をイメージする。

 距離、五メートル。背後。


 視界が歪む。

 次の瞬間、俺は教師の背後に立っていた。


「チェックメイトです」


 俺は教師の首元に、寸止めで手刀を突きつけた。


「……参った」


 教師が杖を下ろすと、周囲で見守っていたクラスメイトたちから、どよめきと溜息が漏れた。


「また一之瀬の秒殺かよ……」

「今の『ショートワープ』だろ? 反則すぎるって」

「先生が可哀想になってきた」


 教師は苦笑いしながら俺の肩を叩いた。


「一之瀬……お前にはもう、学校で教えられることは何もないかもしれんな」


「そんなことないですよ。座学は苦手ですし」


 俺は謙遜して答えたが、内心では少し物足りなさを感じていた。

 精霊たちと組手をしているせいか、人間相手の魔法戦はスローモーションに見えてしまうのだ。

 手加減をするのも、それはそれで骨が折れる。


◇◇◇


 放課後。

 俺は人目のつかない裏山の特別演習場にいた。

 ここなら、多少派手なことをやっても結界が防いでくれる。


「フレア、準備はいい?」


『ええ、いつでもよろしくてよ』


 俺の隣には、人の姿をしたフレアが立っている。

 実験のターゲットとして用意したのは、演習場の倉庫から借りてきた分厚い合金板だ。

 対魔法戦車の装甲にも使われる、学校にある防壁素材の中で最も硬いものだ。


「よし、いくぞ」


 俺は右手にフレアの火魔法を集束させる。

 通常なら『火球』として放つエネルギーを、空間魔法で作った見えない「檻」に閉じ込める。


 圧縮、圧縮、さらに圧縮。


 逃げ場を失った熱エネルギーは、圧力によって温度を急上昇させ――やがて、物質の相転移を起こす。

 気体分子が電離し、青白く輝く『第四の状態』へ。


「――『プラズマ・ランス』」


 ヒュン。


 音はなかった。

 俺の指先から放たれた青白い光線が、合金板に触れた瞬間。


 ジュッ……。


 まるで熱したナイフでバターを切るように、分厚い装甲板に直径五センチほどの綺麗な穴が開いた。

 溶けたのではない。あまりの高熱とエネルギー密度によって、触れた部分の物質が瞬時に蒸発・消滅したのだ。


「……うん、威力は申し分ないな」


『さすがですわヒロ。私の炎をここまで昇華させるとは』


 フレアが感心したように頷く。

 成功だ。でも、これじゃ危険すぎて実戦……特に対人戦では絶対に使えない。

 かすっただけで身体の一部が蒸発するなんて、殺傷能力が高すぎる。


「封印指定だな、これは」


 俺が苦笑していると、バチバチッ! と背後で空気が震えた。


『ふん、悪くない威力だ』


 振り返ると、そこには雷を纏ったイカヅチが、ふわりと宙に浮いていた。

 子犬の姿ではない。金色の毛並みをなびかせた、本来の威厳ある姿に近い。

 彼は鼻を鳴らし、少し不満げに俺を見下ろした。


『だがヒロよ。まさかそれで満足しているのではあるまいな?』


「満足なんてしてないよ。ただの実験だし」


『ならばよい!』


 イカヅチが身を乗り出し、目を爛々と輝かせた。


『次は我だ! 我の番だぞ!

 その「ぷらずま」とやらも派手だが、我の雷を使えばより強大で美しい奥義ができるはずだ!

 ヒロよ、我の雷速をもってすれば、防御される前に殲滅できるぞ?』


 どうやら、フレアばかり構っていたのが面白くないらしい。

 「我の方がすごい」とアピールしてくるあたり、相変わらず負けず嫌いだ。


「はいはい、分かってるって。

 イカヅチの雷を使った新技も考えてあるから」


『うむ! ならば早急に取り掛かるぞ!

 善は急げと言うからな!』


 急かしてくるイカヅチをなだめつつ、俺は小さく笑った。

 平和だ。

 こんな穏やかな放課後が、ずっと続けばいいと思っていた。

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