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第7話 精霊風の夜

 今年の夏、お兄ちゃんは帰ってこなかった。


 どうやら寮で仲良くなったお友達と、

 そのまま寮で過ごすらしい。


 魔法学校ってそんなに楽しいのかな。


 ちょっとだけ寂しいけど……

 でも、僕にも楽しみがあった。



 お盆になり、僕とお父さんとお母さんは

 長崎のおじいちゃんの家に遊びに行くことになった。


 実は、僕はおじいちゃんが少し苦手だ。


 時々、何を言っているのかわからない言葉で喋るんだ。


 いつもはお兄ちゃんが間に入ってくれるけど、

 今回はいない。


 でも――。


「何やら珍しいヒラタクワガタがいるらしいぞ」


 お父さんがそう言った瞬間、

 僕の胸はワクワクでいっぱいになった。


 ゴトウヒラタクワガタ。

 このあたりにしかいない特別なクワガタらしい。


 夏におじいちゃんの家に行くのは初めてだけど、

 絶対に捕まえるんだ。



 おじいちゃんの家には夕方に到着した。

 潮の匂いがして、風が強い。

 空が広くて、どこか懐かしい感じがした。


 夕飯はごちそうだった。

 お刺身も、煮物も、全部おいしい。


「このあたりのヒラタクワガタはな、

 ゴトウヒラタクワガタっち言われちょるとぞ」


「へぇー! 捕まえたいなぁ!」


 僕がそう言うと、おじいちゃんは笑った。


 その日の夜、

 僕はおじいちゃんに呼ばれた。


「ヒロくん、ちょっとこっちさ座れ」


 少し緊張しながら座る。



「……ほら、今、スウッと首筋を冷たい風が通ったやろ?」


 たしかに、ひやっとした。


「クーラーの風じゃなかぞ。

 あれが 『精霊風しょうろうかぜ』 っちいうもんだ」


「しょうろう……かぜ?」


「よお聞いときな。

 お盆のこの時期、五島の海の上にはな、

 目に見えん“道”ができるとぞ。

 そこを、仏さんたちが風に乗って通って行かす」


 おじいちゃんの声は、

 いつもより少しだけ静かだった。


「昔から言われちょっ。

 お盆に吹く急な突風は、ただの風じゃなか。

 あの中には、たくさんの 精霊しょうろうさん が混じっちょっけんね」


「精霊さん……?」


 僕は、家の周りをふわふわ飛んでいる

 緑色の光の子たちを指さした。


「この緑色の子たちかなぁ。

 なんかねー、おじいちゃん家の周りは緑色の子が多い気がする。

 前来たときより絶対多いよ!」


「緑色の子……?

 もしかして、精霊さんが見えちょっとか?」


「うーん……その辺にいるのと同じような気がするから、

 精霊さんじゃないと思う」


 おじいちゃんはしばらく黙って、

 それからゆっくり笑った。


「ヒロくんは、不思議な子やなぁ……」


 おじいちゃんの話は、

 やっぱりわからない言葉があったけど、

 なんだかワクワクした。


 その日はもう遅いから、

 みんなで寝ることになった。



 夜中、ふと目が覚めた。


「う〜……おしっこぉ……」


 むくっと起き上がると、

 網戸の向こうから冷たい風が吹いてきた。


 ――ぴゅ〜〜。


 さっきおじいちゃんが言っていた

 “精霊風”みたいな風だった。


 そのとき。


「……こっちだよ」


 どこからか、声が聞こえた。


 小さくて、風みたいに軽い声。


 僕は思わず、網戸に近づいた。


 外は真っ暗なのに、

 風だけが僕を呼んでいるみたいだった。


 そっと網戸を開ける。


 そして――

 僕は一人で外に出た。

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