第55話 真夏の海、火の精霊の水着、密漁ダメ絶対
夏休み初日。 実家の畳の上でゴロゴロしていると、スマホがピコンと鳴った。
クラスのグループチャットだ。 開いてみると、クラスでもちょっと派手な男子グループが海に行っている写真がアップされていた。
『海の家で焼きそばなう!』
『見て見て、あそこのお姉さんたち超美人!』
『お前やめろよ、盗撮すんな』
『男子サイテー』
女子たちから総スカンを食らっているけど、楽しそうだなぁ。
でも、写真を見て僕は首を傾げた。
「ねえお兄ちゃん。海でお祭りやってるのかな?」
「ん?」
隣でマンガを読んでいたお兄ちゃんが顔を上げる。
「ほら、屋台みたいなのがいっぱい出てる」
「……ヒロ、あれは『海の家』だ。
都会の海には、夏の間だけああいうお店が出るんだよ」
「えっ、家なのにお店なの? しかも期間限定? 変わってるなぁ」
僕の素朴な感想に、お兄ちゃんは「お前なぁ……」と苦笑いした。
こっちの海には、そんな洒落たものはないからね。
「でも、いいなぁ海。僕たちも行きたいね」
「そうだな。せっかく帰ってきたんだし、泳ぎに行くか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の夕食時。
「明日は海に行きたいんだけど」
僕が提案すると、お母さんは困った顔をした。
「うーん……明日はお父さんも私も仕事なのよ。子供だけで海に行くのはダメよ」
「えー、もう中学生だよ?」
「ダメ。このご時世、子供だけで遊んでたら通報されちゃうわ」
「大丈夫だよ、イカヅチたちもいるし」
「傍から見たら、大きいワンちゃんと散歩してる子供でしょ? 余計に目立つわよ」
ぐうの音も出ない。
すると、晩酌をしていたお父さんが提案した。
「じゃあ、フレアさんはどうだ? 彼女なら人型だし、保護者に見えるだろう」
その言葉に、お母さんの目がキラーンと輝いた。
「それだわ!!」
お母さんは僕に向かって勢いよく言った。
「ヒロ! 今すぐフレアさんを呼んでちょうだい!」
「え、今?」
「いいから早く!」
僕は押され気味に、フレアを召喚した。
「出ておいで、フレア」
ボッ。
小さな炎と共に、フレアが顕現した。 相変わらずの美女だ。
『お呼びかしら?』
「フレアさん、明日この子たちと海に行ってくれる?」
『ええ、構わないわよ』
「ありがとう! じゃあ、今すぐデパートに行くわよ! 貴女の水着を買わなきゃ!」
お母さんはウキウキで車の鍵を掴んだ。 着せ替え人形にする気満々だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数時間後。デパートの試着室前。
「じゃーん! どうかしら!」
カーテンが開くと、そこには――。
布面積の極端に少ない、真っ赤なビキニを纏ったフレアが立っていた。 白い肌、豊かな曲線、そしてモデルのような脚線美。
『あら、涼しくて動きやすそうね』
本人は涼しい顔をしているけれど、破壊力が凄まじい。
「ぶふっ……!」 「……ッ!!」
僕とお兄ちゃんは同時に顔を背けた。 12歳と17歳には、刺激が強すぎる……!
「か、母さん! さすがにそれは……! 俺たちの心臓が持たない!」 「そうだよ! 目のやり場に困るよ!」
「えー? 可愛いのにー」
お母さんは不満そうだったけど、僕たちの必死の抗議により、妥協案が採用された。 上から白いラッシュガード(Tシャツみたいなやつ)を羽織ることになったのだ。
それでも。
『これでいいのかしら?』
濡れたら透けそうだし、伸びる美脚は隠せていない。 むしろ「隠すことで増す色気」みたいなのが出ている。
「あら、なにこれ……着てても美しいわ……」
お母さんがうっとりしている。 恐ろしい子……!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝。 快晴。絶好の海水浴日和だ。
仕事に行くお父さんが、玄関で真剣な顔をして言った。
「いいか、二人とも。
岩場で伊勢海老とかアワビを見つけても、絶対に捕まえるなよ?」
「え、なんで?」
「密漁になるからだ。シャレにならんぞ」
「……なんでそんな具体的なのさ」
変な注意を受けつつ、僕たちは地元の海水浴場へと向かった。
田舎の海だから、人はまばらだ。
もちろん、チャラい海の家なんてない。
あるのは、近くの小さな「すり身(揚げかまぼこ)屋」さんくらいだ。
フレアは砂浜にパラソルを立て、サマーベッドに優雅に寝そべった。
サングラスをかけ、お母さんに渡されたペットボトルの麦茶を持っているだけなのに、なぜか高級リゾートのトロピカルジュースに見える。
『私はここで見ているわ。溺れないようにね』
絵になりすぎて、周りの数少ない海水浴客がチラチラ見ている。
あんまり直視しちゃいけない気がする。
僕とお兄ちゃんは海に飛び込んだ。
冷たい水が気持ちいい! ヒューイとイカヅチも一緒だ。
ひとしきり泳いだ後、お兄ちゃんが近くの店で「揚げたてのすり身」を買ってきてくれた。 僕たちは砂浜に座って、それを齧った。
「んー、うまい」
揚げたての魚の旨味が口いっぱいに広がる。
都会の焼きそばもいいけど、こっちにはこっちの良さがあるよね。
すり身をモグモグ食べながら、ふとイカヅチに聞いてみた。
「ねえイカヅチ。そういえばさ」
『ぬ?』
「火の試験の対策の時……フレアに会いに行こうってイカヅチが提案したじゃん?
あの時、なんで水の精霊には会いにいかなかったの?
まぁ僕も水魔法は使えたけど…」
火の試験対策でフレアに会いに行ったのに、
水の精霊に会いに行く話なんてかけらも出なかった。
「水の精霊と契約すれば楽勝だったんじゃない?」
僕の問いに、近くに浮いていたヒューイが呆れたように言った。
「いや、お前のあれ、水魔法じゃねーし」
「えぇー」
「普通の水の精霊は、あんな爆発的な魔法は使わねーよ」
ヒューイがバッサリと言い放つ。 フレアもクスクスと笑っている。 すると、すり身を丸呑みしたイカヅチが口を開いた。
『あんな小さな水玉が、ド派手に爆発するような魔法、我の知る水の精霊はやらん』
やっぱり、精霊から見ても異質らしい。
僕の水魔法は、自然界の理とはちょっと違うみたいだ。
『だが』
イカヅチはニヤリと笑った。
『お前がそれを水魔法だと言うなら、水魔法でいいではないか。
威力は申し分ない。胸を張れ、ヒロよ』
「……そっか」
そうだね。
僕には僕のやり方がある。
精霊に頼らず、思い付きで生み出す魔法。
それもまた、一つの「魔法」だ。
「よし、じゃあもうひと泳ぎするかな!」
僕は立ち上がった。 お兄ちゃんも続く。
真夏の太陽と、冷たい海。
そして頼れる仲間たち。
なんだかんだで、最高の夏休みだ。




