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第54話 夏休み、帰郷とうどんと守護者たち

 期末テストも無事に終わり、いよいよ待ちに待った夏休みがやってきた。

 僕とお兄ちゃんは、実家に帰省するために飛行機に乗っていた。


 窓の外には、真っ青な空と雲海が広がっている。


「お兄ちゃん見て。あれ、学校じゃない?」


 僕が窓の下を指差すと、お兄ちゃんが覗き込んだ。

 遥か眼下に、広大な敷地を持つ国立魔法学校が小さく見える。


「ああ、そうだな。空から見るとデカさが分かるな」


「うん。……あそこで4ヶ月過ごしたんだなぁ」


 飛行機は快適だ。

 魔法で空を飛ぶのとは違って、身を委ねていれば目的地に着く。

 僕たちはジュースを飲みながら、のんびりと空の旅を楽しんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 地元の空港に到着すると、到着ロビーでお父さんとお母さんが手を振っていた。


「ヒロ! カイト! こっちよー!」


「二人とも、お疲れ様。元気だったか?」


 久しぶりの両親の顔。

 なんだかホッとする。


 車に荷物を積み込むと、運転席のお父さんがバックミラー越しに聞いてきた。


「ちょうど昼時だし、何か食べて帰るか? 何か食べたいものはあるか?」


 僕は迷わず答えた。


「……うどん」


「ははは! やっぱりそう来るか!」


 お父さんが豪快に笑う。

 お兄ちゃんも深く頷いた。


「いいじゃん。やっぱ帰ってきたら、こっちのうどんだよな」


 向かったのは、昔から通っている地元のうどん屋さんだ。

 

 運ばれてきたのは、透き通った黄金色の出汁に、少し細めの麺が泳ぐ一杯。

 関東のコシが強い剛麺もいいけど、やっぱりこれだ。


 ズズッ。


「んー……!」


 煮干しの効いた優しい出汁が、五臓六腑に染み渡る。

 麺は柔らかすぎず、でもツルツルと喉越しの良い絶妙な食感。

 揚げ玉とネギだけのシンプルな味が、最高のご馳走だ。


「生き返る……」


「そんなに懐かしい? まだ家を出て4ヶ月よ?」


 お母さんが笑いながらお茶をすすった。


「4ヶ月だけど……僕にとっては3年くらいの気分だよ」


「大げさだなぁ」


「大げさじゃないよ。母さん、ヒロが入学早々に『災害』認定されて、ついでに『聖女』まで撃退した話、したっけ?」


 お兄ちゃんがニヤニヤしながら爆弾を投下した。


「聖女? なんだいそれは」


 お父さんが箸を止める。

 お兄ちゃんは、先日学校に来た聖女アリスの一件と、学校側が宗教に対して断固拒否のスタンスであることを説明した。

 それを聞いて、両親は心底ホッとしたようだった。


「そうかそうか。学校がそういう方針なら安心だな」


「変な宗教に巻き込まれるのが一番怖いからねぇ」


「でもそのせいで、俺まで高等部で『災害の兄』とか『猛獣使い』って呼ばれるようになったんだぞ。ヒロ、責任取れよな」


「えー、あの時はお兄ちゃんが戦ってくれなかったからじゃん。僕ばっかり貧乏くじだよ」


 僕がぶーたれると、車内が笑いに包まれた。

 この何気ない会話が、実家に帰ってきたことを実感させてくれる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 お腹も満たされ、車は山あいの道を走る。

 しばらくして、見慣れた実家に到着した。


「ついたー!」


 僕は車のドアを開けて、大きく伸びをした。

 やっぱりこっちは空気が美味しい。


 荷物を持って玄関に向かおうとした、その時だった。


「……ん?」


 縁側の方から、懐かしい気配を感じた。

 僕は庭の方へ回り込んでみた。


 そこには――。


 縁側でプカプカと浮かんでくつろいでいるヒューイと、寝そべって日向ぼっこをしているイカヅチの姿があった。


「えっ? なんで僕より先に帰ってるのさ!」


 僕が声を上げると、お母さんが後ろから顔を出した。


「あら? ヒロ、誰と話してるの? ……もしかして、ヒューイちゃんたちが来てるの?」


「うん。もう縁側でくつろいでるよ」


「まあ! 久しぶりに会いたいわ。ヒロ、見えるようにしてちょうだい」


 僕は苦笑しながら、二人を顕現させた。


「出ておいで」


 ポンッ。


 緑色の風の精霊と、四足歩行の雷獣が姿を現した。


「やっほー、お帰りヒロ」


『うむ。遅かったな』


「『遅かったな』じゃないよ。寮では滅多に姿を見せないくせに、なんで実家だと先回りしてるんだよ」


 僕が突っ込むと、ヒューイは空中でくるりと回った。


「なんとなく? 風に乗ってたら着いちゃった」


『……ふん』


 イカヅチは片目を開けて、周囲の山々を見渡した。


『この土地は、微かに「神の気」が混じっておる。

 変な輩が寄ってこぬよう、一応、警戒しておるのだ』


 イカヅチがもっともらしいことを言っている。

 確かにこの辺りは神話の伝承が多い土地だけど……。


「要するに、心配性なだけでしょ?」


『たわけ。ヒロを守護することは、我らの務めだ』


 イカヅチはプイッと顔を背けたけど、その尻尾はパタパタと動いている。

 絶対、久しぶりの実家で羽を伸ばしたいだけだ。


「まあまあ、二人ともゆっくりしていってね。後で冷えたスイカ切るから」


 お母さんが嬉しそうに言うと、ヒューイが「やった!」と歓声を上げた。

 イカヅチも『……もらうとするか』と満更でもなさそうだ。


 やれやれ。

 僕の夏休みは、精霊たちのおかげで賑やかになりそうだ。


 僕は縁側に座り込み、ヒューイたちと一緒に、どこまでも青い夏の空を見上げた。

 最高の夏休みが、ここから始まる。

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