表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/80

第53話 猛暑対策と魔力変換

 7月中旬。

 期末テストも終わり、あとは夏休みを待つだけとなったある日の午後。


 1年2組の教室は、死屍累々としていた。


「あー……暑い……」

「溶ける……」


 窓の外ではセミが全力で鳴いている。

 一応、教室には空調魔法またはエアコンが効いているはずなんだけど、日本の夏特有の「湿気」を含んだ熱気には勝てないらしい。


 僕も机に突っ伏して、ぐったりしていた。

 この蒸し暑さは、精神的にくる暑さだ。


 ガラッ。


 教室の扉が開いて、エレノア先生が入ってきた。

 先生も、いつもより少し元気がなさそうだ。


「はい、席につきなさい。……暑苦しいわね」


 先生は教壇に立つと、ハンカチで汗を拭った。


「今日は、夏休み直前の特別授業を行うわ。

 テーマは『熱エネルギーの魔力変換』よ」


 先生が黒板にカカカッと文字を書く。

 『熱=エネルギー=魔力』。


「みんな、魔法を使う時は体内の魔力を消費して、炎や氷といった現象を起こすわよね?

 今日はその逆をやるの」


 先生はチョークを置いた。


「空気中や物質の『熱』をエネルギーとして認識し、魔力として体内に回収する。

 そうすれば、涼しくなる上に魔力も微量だけど回復する。

 まさに一石二鳥のエコシステムよ」


「へぇー」

「そんなことできんの?」


 クラスメイトたちがざわつく。

 先生はニヤリと笑って、僕を見た。


「できるわよ。現に、それを実用化して水魔法の制御に成功した生徒がいるもの。

 ――一之瀬君、前に出てきなさい」


「え、僕ですか?」


 突然の指名に驚きつつ、僕は前に出た。

 教卓には、ポットに入った熱湯と、人数分のコップが用意されている。


「一之瀬君は、自分の水魔法が爆発しないように、余剰エネルギーを変換する技術を身に着けたわよね?

 そのコツをみんなに教えてあげて」


「あ、はい」


 僕はコップにお湯を注ぎ、みんなに見せた。

 湯気が立っている。アッツアツだ。


「えっと……冷やすんじゃなくて熱を『吸う』イメージを持ってほしい」


「吸う?」


「うん。このお湯が持っている『熱』を感じて、それをストローでジュルッと吸い上げて、身体に循環させるイメージ。

 じゃあ、やってみるね」


 僕はコップに手をかざす。

 熱を感じる。それを魔力回路を通じて、体内に引き込む。


 スゥン……。


 一瞬で湯気が消えた。

 僕はコップを持ち上げ、中の水をグイッと飲んだ。


「ん、冷たくて美味しい」


 キンキンに冷えた水が喉を通る。


「おおー!」

「一瞬で冷えた!」


 みんなが身を乗り出す。


「一之瀬、魔力はどうなんだ? 増えるのか?」


 ユウスケが聞いてきた。


「うーん、コップ一杯程度だからね。

 ほとんど変わらないかな。

 でも外で使えば自動回復状態になるのかな?」


「なるほど、自動回復か! それは便利だな!」


 賢いユウスケはすぐに理解した。

 外を歩くだけで涼しくて、しかも魔力が微回復し続けるなら、これほどうまい話はない。


「よし、みんなもやってみなさい。

 お湯が冷たくなるまで、何度もトライすること」


 先生の号令で、実践練習が始まった。


 最初はみんな苦戦していた。

 「熱い熱い!」と手を引っ込めたり、逆に魔力を込めてしまってお湯を沸騰させたり。


 でも、さすが国立魔法学校の生徒たちだ。

 徐々にコツを掴む子が出てきた。


「あ、なんか分かったかも。熱を『もらう』感じだ」

「おっ、冷えた! すげぇ、マジで冷てぇ!」


 ユウスケが成功し、周りの男子も次々と成功していく。

 冷えた水を飲んで、「生き返るー!」と歓声を上げている。


「できた! なんか身体が軽い気がする!」

「これ、夏の屋外活動に最強じゃん!」


 クラス中が盛り上がってきた。

 全員が「熱変換」の感覚を掴んだようだ。


 すると、誰かが言った。


「これ、お湯だけじゃなくて、この教室の空気でもできるんじゃね?」


「「「それだ!!」」」


 全員の意見が一致した。

 ターゲット変更。対象は「教室内の空気」。


 30人の魔法使いの卵たちが、一斉に空気中の熱エネルギーを奪い始めた。


 スゥーーーッ……。


 全員が目を閉じて集中する。

 暑い暑い空気が、魔力として還元されていく。


 涼しい。

 いや、涼しいを通り越して――。


「……なんか、寒くない?」


 10分後。

 教室の空気は一変していた。


 壁の室温計を見ると、針は18度を指している。

 冷蔵庫の中みたいだ。


 でも、それ以上に問題なのは――。


「うわっ、なんかベタベタする!」

「き、霧だ! 教室中が真っ白だぞ!?」


 急激に温度が下がったせいで、空気中の水分が飽和してしまい、濃い霧が発生していた。

 湿度は100%近い。

 服も教科書も髪の毛もしっとりと濡れ、肌にまとわりつく。


「うへぇ……不快指数マックスだ……」

「寒いのにジメジメしてるって最悪じゃん!」


 阿鼻叫喚のクラスメイトたち。

 エレノア先生が、しまったという顔をした。


「いけない、相対湿度の計算を忘れていたわ。

 これじゃあカビが生えるわね……」


 先生は僕の方を向いた。


「一之瀬君、空間魔法で、空気中の水をギュッと集めることできる?」


「え、やってみます」


 僕は意識を集中させた。

 普段なら空気中の水分を集めるのは難しいけれど、今は目の前が真っ白だ。

 霧状になっているから、イメージはしやすかった。


 この教室に漂う白いモヤを、空間操作で一箇所に集める!


 ギュンッ!


 教室中の霧が渦を巻き、僕の手のひらの上に収束していく。


 ――ちゃぷん。


 数秒後。

 そこには、バレーボールくらいの大きさの巨大な水球が浮かんでいた。


「うおっ、すげぇ!」

「霧が晴れた!」


 僕は窓を開け、その水球を外へ放り投げた。


 ポイッ。


 バシャアッ!

 下の花壇に水が落ちる音がした。


 振り返ると、そこには――。


「「「おおおおお……!!」」」


 室温18度。湿度30%。

 キンキンに冷えていながら、カラッと乾いた最高の空間が完成していた。


「天国だ……」

「もうここから出たくない……」


 ユウスケが手を挙げて質問する。

「先生これ、外でつかったらどうなるんですか?」


「そうね…体の周りに霧がかかるわ。

 オーラみたいに…」


「誤魔化した!?」


「絶対ビショビショになるやつじゃん!」


「使えねー!!」


 キーンコーンカーンコーン。


 チャイムが鳴り、教室から出た瞬間。

 廊下のモワッとした熱気に包まれて、全員が同時に呟いた。


「「「あったけぇ……(絶望)」」」


 日本の夏も、使いようによっては天国になる。

 ただ、空間魔法使いがいないとビショビショになるから注意が必要だね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ