表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/86

第50話 神殺し同盟

 放課後の教室。

 逃亡を図り、校長先生に捕獲されたエレノア先生は、教壇の椅子にぐったりと座り込んでいた。


 いつもの覇気はない。

 まるで、世界の終わりを見たかのような絶望的な表情だ。


「……先生」


 僕は恐る恐る声をかけた。


「その『聖女』って人のこと、どうしてそんなに嫌がるんですか?」


 クラスのみんなも心配そうに見守っている。

 先生は重い溜息をつき、観念したように眼鏡を外した。


「……話すわ。私がなぜこの国に来たのか。そして、何を恐れているのか」


 先生は静かに語り始めた。


「私の祖国はね、完全な『教会主義』の国なの。

 魔法は技術ではなく、『神の祝福』。祈りと信仰による奇跡だと教えられていたわ」


 先生の瞳が、遠い過去を見るように細められる。


「でも、私には違って見えた。

 生まれつきの『眼』のせいで、私には魔法が神の光なんかじゃなく、ロジカルな術式と……不可解なノイズの塊に見えていたの」


 ノイズ。

 それはきっと、微精霊のことだ。


「周りのみんなが神に祈りを捧げている間、私だけは冷めていた。

 神なんてどこにもいない。そこにあるのは物理法則だけじゃないかって」


 先生は自嘲気味に笑った。


「そんな私が日本に憧れたのは、学生時代の『聖地巡礼』がきっかけだったわ」


「聖地巡礼って、アニメの?」


 ユウスケが突っ込むと、先生は真顔で頷いた。


「ええ。でも、そこで見たのは衝撃的な光景だった。

 日本人は初詣には行くけれど、自分がどの神様に祈っているかも曖昧。信仰心なんて無いに等しい。

 それなのに、魔法技術は祖国より遥かに進んでいた」


 魔道具や、生活に溶け込んだ魔法技術。

 それは「神がいなくても魔法は使える」という何よりの証明だった。


「私は確信したわ。魔法に必要なのは信仰じゃない、理論だと。

 帰国してから、私は必死に研究した。感覚で魔法を使う人々のプロセスを言語化し、誰でも使える『技術』にしてきた。

 ……でも」


 先生の声が震える。


「数年前。世界各地に『聖女』が現れ、『神託』が下された」


 教室の空気が張り詰める。


「『魔法は神の贈り物である。

 神を信仰し、信仰なき者は悔い改めよ』

 ……その言葉で、全てが変わったわ」


 過激化する信仰。

 理論を唱える者は「奇跡を冒涜する異端者」として弾圧された。


「彼らは私に聞いたわ。『神を信じるか』と。

 私は嘘がつけなかった。『いてもいいけど、魔法は科学よ』って答えた。

 その日から、私は異端者になった」


 家族からは絶縁され、研究室には何度も火を放たれたという。


「身の危険を感じた私は、一番大切なもの――書き溜めた研究データと、収集した『聖典マンガ・ラノベ』を抱えて、この国に亡命したの。

 ここの校長先生が私を拾ってくれた時は、本当に救われたわ……」


 そこまで話して、先生は顔を上げた。

 その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「ずっと不安だった。私の理論は本当に正しいのか。神は本当にいないのか。

 でも……この間、ヒロ君が証明してくれた」


 先生が僕を見る。


「私の目に映っていた『ノイズ』は、神の光なんかじゃなかった。

 小さな『微精霊』たちの意思だった。

 ……私は、間違っていなかったのよ」


 先生の声には、長い長い孤独な戦いを終えた安堵が滲んでいた。

 クラスの女子たちが、もらい泣きしている。


 しんみりとした空気が流れる中、先生はふと真剣な顔つきになった。


「一応聞いておくけれど。

 このクラスの中に……神からの『神託』を受けたことがある、なんて言う子はいないわよね?」


 もし敬虔な信徒がいれば、先生の話は冒涜に聞こえたかもしれない。

 でも、クラスのみんなは首を横に振った。


 ただ一人、僕を除いて。


「……んー」


 僕は腕組みをして考え込んだ。


「一之瀬?」


 先生が怪訝な顔をする。


「神託じゃないんですけど……」


「けど?」


「神に襲われて、殺されかけたことならあります」


 シーン……。


 教室の時が止まった。


「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」


 全員の声がハモった。


「い、一之瀬君? 今なんて?」


「いや、七歳の頃の話なんですけどね。

 あと、神について、精霊たちに聞いたけど、人間を見下している存在なんだって思った。

 だから僕、神様にはあんまりいい印象ないんですよね」


 僕があっけらかんと言うと、教室の静寂は――爆笑に変わった。


「ぶっ、あはははは!」

「さすが災害! スケールが違うわ!」

「神に襲われるって何したんだよお前!」


 重苦しかった空気が、一瞬で吹き飛んだ。

 エレノア先生も、呆気にとられた顔をしていたけれど、やがてプッと吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。


「あはは! 最高ね!

 私が悩んでいたのが馬鹿みたいだわ。

 まさか私の生徒(主人公)が、神に喧嘩を売るレベルだったなんて!」


 ひとしきり笑った後、先生は涙を拭って僕を見た。


「じゃあ、ヒロ君は?」


 僕は即答した。


「もちろん、先生の味方ですよ。

 神なんかより、先生のほうが大切です」


 僕の言葉に、クラスのみんなも立ち上がった。


「俺も! 先生の授業分かりやすいし!」

「私も! 聖女だか何だか知らないけど、ウチの担任をいじめる奴は許さない!」

「追い返しましょう、先生!」


 クラス中が拳を突き上げる。

 その光景を見て、先生はまた少し泣きそうになり、でも最後には不敵な笑みを浮かべた。


「ありがとう。

 ……よろしい。ならば戦争よ」


 先生は眼鏡をくいっと押し上げた。

 いつもの、自信に満ちた魔女の顔だ。


「我々1年2組は、来たるべき聖女に対し、全力で『科学ロジック』と『自由』を見せつけてやるわ!

 迎撃準備開始!」


「「「オーーーッ!!」」」


 こうして、僕たちと「聖女」との戦いが幕を開けることになった。

 まだ見ぬ聖女様。

 悪いけど、ここは神様の庭じゃなくて、僕たちの学校なんだ。

 好き勝手にはさせないよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ