第35話 炎の竜巻
あれから数日が経った。
庭での練習のおかげで、なんとなく「火」の感覚がわかってきた気がする。
熱をどこに置くか、どう流すか。
フレアに怒られながらも、少しずつコツを掴んできていた。
休憩中、僕はふと思いついたことを口にした。
「ねぇ、フレア」
「なんですの?」
「初めて会ったときさ、
ヒューイの竜巻にフレアが火を吐いて、
すごい炎の柱みたいになったじゃん?」
あの時の光景は、
今でも目に焼き付いている。
すべてを吹き飛ばすような、
圧倒的な熱と風。
「あれ、やってみたいんだけど」
「……あら?」
フレアが目を丸くする。
ヒューイも、昼寝から片目を開けた。
「おいおい、本気か?」
「だってさ、あのときは打ち消し合ってたけど……
あれを『協力』して合わせたら、
炎の竜巻みたいになってすごく強そうじゃない?」
僕の言葉に、二人は顔を見合わせた。
「なるほど……」
フレアが口元を隠して笑う。
「相乗効果を狙うということですわね。悪くありませんわ」
「へっ、面白そうじゃねーか。やってみろよヒロ」
二人のお墨付きをもらって、僕は庭の中央に立った。
「よし、やってみるか」
まずは、イメージ。
足元を意識する。
深く、深く。
地面のずっと奥底にある、あのドクンドクンと脈打つような温かさを探す。
……きた。
足の裏から、太いエネルギーが体に流れ込んでくる感覚。
まずは、風だ。
「ヒューイの竜巻の……小さいバージョン!」
手をかざし、空気を回転させる。
ぐるぐると渦を巻く風。
よし、安定してる。
次は、ここに火を入れる。
フレアみたいに広範囲に……放射状に!
「いっけぇぇぇ!!」
イメージした熱を、竜巻の中心に放り込む。
ボォォォッ!!
風に煽られた火は、一瞬で赤く燃え上がり、渦に沿って空へと駆け上がった。
「うわっ、すげぇ!!」
赤い螺旋階段みたいだ。
風が火を回して、火が風を熱くして。
ゴーゴーと音を立てて燃え盛る。
カッコいい。
これなら、どんな敵でも――
そう思った、次の瞬間だった。
ゴォォォォォォォ……ッ!!!
「……え?」
音が、変わった。
回転が急に速くなる。
僕が魔力を込めたわけじゃない。
勝手に、竜巻が周りの空気を吸い込み始めたんだ。
ビュウウウウッ!
庭の木の葉っぱが、ものすごい勢いで吸い寄せられていく。
火の勢いも、さっきまでの倍……いや、もっと膨れ上がってる!?
「わ、わわっ!?」
抑えようとするけど、ハンドルが利かない自転車みたいだ。
熱い。
顔が焼けるみたいに熱い。
「ヒロ! 止めろ! デカくなりすぎだ!」
ヒューイの声が聞こえる。
「止まんないよ! 勝手に……!」
頭の中が、ガンガンする。
足元からは無限にエネルギーが入ってくるのに、
それをどう動かせばいいのか、頭の処理が追いつかない。
視界がチカチカする。
熱い。
回る。
うるさい。
あ、これ――
プツン。
テレビの電源が切れるみたいに、
世界が真っ暗になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……てっ……」
頭が痛い。
目を開けると、リビングの天井が見えた。
おでこに、冷たくて重い感触。
氷枕だ。
「気がついた?」
覗き込んできたのは、お母さんだった。
眉毛が吊り上がってる。怒ってるサインだ。
「ヒロ! 庭の植木が焦げちゃったじゃない!
危ないことしちゃダメって言ったでしょ!」
「……ごめんなさい……」
声がカスカスだ。
起き上がろうとすると、頭が割れそうに痛い。
部屋の隅には、ヒューイとフレアがいた。
二人とも「やれやれ」って顔をしてる。
「無茶しすぎですわ」
フレアが呆れたように言った。
彼女の手には、冷たいお水が入ったコップ。
「制御ができなければ、暴走しますの
あの竜巻はヒューイが消しましたのよ」
「あちゃー……
精神の方が耐えられなかったみたいだな」
氷枕を直されながら、僕は天井を見上げた。
足元のエネルギーはいっぱいあるのに。
僕の頭が、パンクしちゃったんだ。
「大技は、工夫が必要ですわね」
フレアの言葉が、ズキズキする頭に響く。
工夫かぁ。
今の僕には、まだちょっと早かったみたいだ。
でも――
あの一瞬見えた炎の竜巻は、
すごく綺麗で、強そうだった。
(いつか、絶対使いこなしてやる)
僕は氷枕の冷たさに感謝しながら、
もう一度、目を閉じた。




