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第33話 召喚というもの

 実家に戻り、召喚するまで、数日がたった。


 フレアの翼と腕が戻るまで待つ、という名目もあったけど、

 正直に言えば――

 あの大きさの竜を、どうやって家で呼ぶのか、

 考える時間が欲しかった。


「……庭、だよね」


 人目につかないし、

 何かあっても逃げ場はある。


 そう思って、庭先に立つ。


「フレア、来て」


 空気が、ふわりと揺れた。


 次の瞬間――

 そこに現れたのは。


「……あら」


 小さな火竜を見下ろして、フレアが微笑んだ。


「ずいぶん小さく召喚なさるのですね。うふふ」


「だ、だって……庭だし……」


「判断としては妥当ですね」


 横から、ヒューイが静かに言う。


「この敷地で、元の大きさはさすがに問題です」


「うむ」


 イカヅチも腕を組んで頷いた。


「屋敷が消し飛ぶ」


「やめてよ……」


 軽く息をついたフレアが、続ける。


「でも、召喚魔法なのですから当然ですわ」


「あなたが思い浮かべた姿で呼べるのは」


「え?」


「私たちは精神体」


 フレアは、当然のことのように言った。


「本来、形に縛られる存在ではありませんの」


 ……あ。


 そこで、ヒロは一瞬、言葉に詰まる。


「……そういえば」


 イカヅチが、深くため息をついた。


「今さらか」


「気づいておらんかったのか」


「え、でも……」


「俺たちは、いつもこの姿だもんな」


 ヒューイが、穏やかに補足する。


「無意識に、その姿形で呼んでいたのでしょう」


「……」


 庭先で走り回った、

 あの小さな子犬の姿が脳裏をよぎる。


「……あれも、そうだったのか」


「やれやれだ」


 イカヅチが首を振る。


 その様子を見て、フレアはくすっと笑った。


「召喚者とは、そういうものですわね」


 なるほど、と納得しかけて――

 ふと、思う。


「……じゃあ」


「人の姿にも、なれるの?」


 フレアは、にこりと微笑んだ。


「召喚者が望むのであれば、ええ」


「その姿形を、はっきり思い描いて、呼びなさいな」


「……わかった」


 深呼吸して、イメージする。


 赤い髪。

 白い肌。

 すらっとした、大人の女性。


「……フレア、もう一回」


 再召喚。


 ――次の瞬間。


「…………っ!?」


 思わず、顔が熱くなる。


「……あら?」


 フレアは一瞬きょとんとして、

 すぐに口元に手を当てた。


「……まあ。

 これは失礼しましたわ」


「エッチですわね、ヒロ」


「ち、違っ……!」


 視線を思いきり逸らす。


「ごめんなさい!

 服のこと、完全に忘れてました……!」


「次は、ちゃんとお願いしますわね?」


 くすっと笑われて、

 耳まで熱くなる。


 気を取り直して、もう一度。


 今度は、

 真紅のドレスを思い浮かべて。


 再召喚。


 庭に現れたのは、

 先ほどと同じ赤髪の女性――

 今度は、きちんと衣装付きだった。


「……なかなかに美しい姿を想像してくださいましたね」


 フレアは、自分の姿を一度見下ろしてから、


「ですが」


 と言った。


「目元は、もう少し凛とさせてくださいな」


「胸は……ええ、もう少しあってもよろしくてよ」


「それと、足は少し細すぎますわ」


「え、えっと……」


 その後も、

 細かい修正が次々と入る。


 召喚し直しては直され、

 直してはまた呼び直して。


 ――七回目。


「……ええ、これなら」


 フレアが、満足そうに頷いた。


「まるで、ゲームのアバター作りだね……」


「納得いく姿は大切ですもの」


 きっぱり言われて、何も言えなくなる。


「でも」


 フレアは、ふっと表情を緩めた。


「やはり、火竜の姿が一番落ち着きますわ」


「安定した形、というものです」


「……そっか」


 時計を見ると、

 もうすっかり夕方だった。


「じゃあ、火の魔法の練習を――」


「今日は、ここまでにしましょう」


 即答だった。


「……明日にします?」


「ええ」


 フレアは微笑む。


「じゃあさ、せっかくだし、

 一緒に晩ごはん食べない?」


 少し迷ってから、うなずく。


「よろこんで」


 リビングに入ると――


「……っ!?」


 お母さんが、固まった。


「え、ちょ、座って!?

 いえ、まずお茶!?」


 ものすごい勢いだった。


 事情を説明すると、


「一緒に食べる?

 いいに決まってるじゃない!」


 でも――。


「今日、コロッケなんだけど……」


「こんな美人さんに……」


「構いませんわ」


 フレアは、気にしない様子で答えた。


 そこへ、

 仕事から帰ってきたお父さんが――


「……!?」


 文字通り、固まった。


「え……?」


「……先日の、火竜です」


「――っ!?」


 次の瞬間。


「先日は大変失礼しました!!」


 土下座。


 フレアは一瞬驚いてから、

 小さく息を吐いた。


「顔を上げてくださいな」


「悪意がなかったことは、わかっていますわ」


 そう言って、席に着く。



 コロッケを一口。


 少し、目を見開いて――


「……これは」


 ゆっくり、噛みしめる。


「おいしいですわ」


 ただのエネルギーとは違う、

 人の手で作られた、温かい味。


 フレアは、静かに微笑んでいた。


 その姿は、

 間違いなく――


 火竜であり、

 そして、ひとりのレディだった。

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