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第31話 共闘と試練

 夜の草原に、緊張が落ちた。


 さっきまでただ静かだった空気が、

 今は、ぴんと張りつめている。


 月明かりの下、

 巨大な火竜――フレアリス・ヴォルガは、

 こちらをじっと見下ろしていた。


 その存在感だけで、

 胸の奥がじりじりと焼かれる。


「……その前に、一ついい?」


 思わず、口を開いた。


「イカヅチとか、ヒューイと一緒に戦っていいんだよね?」


 フレアリスが、くすりと笑う。


「当然ですわ」

「それも含めて、あなたの“力”でしょう?」


 金色の瞳が細められる。


「私を従えようというのなら、  

 使えるものはすべて使いなさい」


 ――覚悟を見せなさい、と。


 その瞬間。


 空気が、変わった。


 熱い。


 さっきまで冷たかった夜気が、

 一気に灼けるような熱を帯びる。


「下がれ、ヒロ」


 イカヅチの声が低く響く。


 フレアリスが、ゆっくりと翼を広げた。


 その一振りだけで、

 草原がざわりと揺れ、

 草がちりちりと音を立てて焦げる。


「では――始めましょうか」


 次の瞬間。


 イカヅチが雷光となって駆けた。


 轟音とともに放たれた雷撃を、

 フレアリスは腕で受け流す。


 防御ですらない。


 ただ、いなしただけ。


「っ……!」


 その横腹に、

 ヒューイの風が叩き込まれる。


 真空の刃が、空気を裂いた。


 フレアリスの巨体が、わずかによろめく。


「やりますわね」


 間髪入れず、

 ヒューイが竜巻を放つ。


 だが――


 フレアリスは、その中心へ向けて

 火のブレスを吐いた。


 炎が渦を焼き尽くし、

 夜の草原に、巨大な炎柱が立ち上る。


 消えた。


 竜巻ごと、何もかも。


「ならば――こちらも」


 翼がはためく。


 そのたびに、

 夜が昼間のような熱に満たされる。


 次の瞬間、

 空中に無数の火球が浮かび上がった。


 流星群。


 こちらへ――一斉に、降り注ぐ。


「――っ!」


 反射的に、空間の壁を張った。


 透明な障壁が、前面に展開される。


 衝撃。


 爆音。


 視界が、真っ白になる。


 直撃は防いだ。


 でも――


「ぐっ……!」


 爆風に弾き飛ばされる。


 地面が迫る。


 慌てて、空間魔法で体を浮かせた。


 ぎりぎり、衝突を回避する。


(……草原で、よかった)


 遠くで、フレアリスが一瞬だけ目を細めた。


(……少し、やりすぎましたかしら)


 だが、戦いは止まらない。


 少し距離を取った場所から見ても、

 雷と風と炎が、激しくぶつかり合っているのがわかる。


「ヒロ!」


 イカヅチの声が響いた。


「魔力を寄越せ!  もっとだ!」


 足元から、感覚が変わる。


 地球――大地から、

 莫大なエネルギーが流れ込んでくる。

 そのエネルギーをイカヅチに、そしてヒューイにも伝える。


 イカヅチの雷が、明らかに強さを増した。


 特大の雷撃。


 だがフレアリスは、

 上空へと跳び、かわす。


 ――その瞬間。


 空が明るくなった。


 イカヅチが仕込んでいた雷雲。


 落雷が、フレアリスを直撃する。


「――っ!」


 巨体が、地面に叩き落とされた。


 同時に、

 ヒューイの風が絡みつく。


 拘束。


 大きな、隙。


(……今だ)


 胸の奥が、熱くなる。


「僕も……!」


 手を前に突き出す。


 いつもは、

 サッカーボールくらいの水球。


 でも、今回は違う。


 魔力を、限界まで込める。


 膨らむ。


 膨らむ。


 ――お風呂の水を、丸めたみたいな水の塊。


「これが……僕の、全力だ!」


 イカヅチとヒューイが、即座に動いた。


 爆風が及ばないよう、

 僕を守る位置に入る。


 フレアリスが、それを見て息を呑んだ。


(……あら)


(これ、思った以上に……)


 翼を盾にし、

 両腕で頭部を守る。


 次の瞬間。


 水球が、解放された。


 水球が着弾した瞬間、

 爆音と共に凄まじい量の蒸気が噴き出した。

 まるでカルデラ全体が沸騰したかのような、

 熱い霧が視界を奪う。


 轟音と衝撃。


 白い奔流が、すべてを飲み込む。


 爆煙、白い煙が引いたあと。


 フレアリスの翼と両腕は、

 跡形もなく消えていた。

 

 消えた翼の断面から、

 炎のような赤い光の粒子が、

 夜空に溶けていく。


 それは残酷というより、 

 どこか神々しい光景だった。


「……やりすぎ、た?」


 思わず、声が震える。


 でも。


 次の瞬間――


「――ふふっ」


 低く、そして高らかな笑い声。


「ふふふ……あははは!」


 フレアリスが、笑っていた。


「心配なさらないで」


「精神体ですもの。  数日もすれば、元に戻りますわ」


 金色の瞳が、まっすぐこちらを射抜く。


「なるほど……」


「これは確かに」


「雷獣が、気に入るのも納得ですわ」


 ゆっくりと、頭を下げる。


「面白い子」


「――あなたに、私の力を貸しましょう」


 夜の草原に、

 熱が、すっと引いていった。

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