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第28話 火の話

 ――雷撃。

 バチッ!

 バシュッ……!


 乾いた音がして、

 僕の目の前で空気が歪んだ。


 反射的に、空間を閉じる。


 見えない壁に雷が当たって、

 表面をなぞるように散っていく。


「……よし」


 イカヅチの低い声がした。


 僕は、そのまま仰向けに倒れ込む。

 背中に、夕方の地面の熱がじんわり伝わってきた。


 空は、もうオレンジ色だ。


 腕は少しだるい。

 でも、嫌な疲れじゃない。


「……楽しかったな」


「だろ?」


 ヒューイが、僕の上をくるくる回りながら言った。


「最初はどうなるかと思ったけどよ。

 今じゃ、普通に打ち合いできてるもんな」


 確かに。

 前までは、雷を受けるなんて考えられなかった。


 でも今は、

 来ると分かれば、体が勝手に動く。


 空間を閉じる。

 重ねる。

 少しだけ、厚くする。


 考えるより、先に。


「……もう一段、上げるぞ」


 イカヅチが言った。


「え?」

 

 急いで立ち上がり壁を用意する。

 …

 なんか嫌な予感がするから急いで二枚目も貼っておく。

 

 そして、聞き返す間もなく、

 次の雷が来る。


 ――バチィッ!!


 さっきより、衝撃が重い。

 空気が、押される。


「……っ」


 思わず歯を食いしばる。

 

 ーーパリンッ

 壁が、きしみ、一枚目が突破される。

 でも、二枚目は壊れない。


 外側に重ねた壁で、圧を逃がす。


 雷は、音も立てずに消えた。


 しばらくの静寂。


「……」


 イカヅチは、僕をじっと見ていた。


「今の、どうだった?」


「……正直、危なかった」


「だが、防いだ」


「うん」


 ヒューイが、感心したように口笛を吹く。


「いや、いきなり強くしすぎだろ!」


「……そうか」


 イカヅチは、短くそう言った。


 それから、少しだけ黙る。


 そして、ぽつりと。


「――よし」


「?」


「そろそろ、頃合いだな」


 僕は、体を起こした。


「なにが?」


 イカヅチは、僕を見下ろす。


「お前の兄――

 入試とやらで、火の魔法の実技を満点で通ったそうだな」


「……うん」


 ちょっとだけ、胸がチクっとした。


「でも、僕も詠唱すれば、火は使えるよ?」


「それでは足りん」


 即答だった。


「お前は、我の契約者だ。

 兄を、超えろ」


「えぇ……」


 思わず声が出る。


「別にいいじゃねーか」


 ヒューイが、いつもの調子で割って入る。


「感覚が分かんねーもんは、しょうがねぇだろ」


「なら、感覚で使えるようにすればよかろう」


 イカヅチは、少しも動じない。


「火の精霊に会う」


「……火の、精霊?」


「そうだ」


 イカヅチは、遠くを見るように空を仰いだ。


「熊本。

 阿蘇のカルデラだ」


 一拍、置いて。


「――奴は、そこにいる」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その話を、夕飯のあとにお父さんにした。


「火の精霊?」

「阿蘇?」


「うん。契約できるかもしれないって

 それに、悪い精霊じゃないって、イカヅチが」


「……なんだそれ」


 お父さんは少し考えて、

 苦笑いする。

「スライムみたいだな」


……?

(どういう意味なんだろう…竜なんだけど…)


「最近、馬刺し食ってないな……」


 僕も馬刺しは好きだけど、決め手はそこか。


「よし」

 お父さんは立ち上がった。

「今度の休み、熊本行くか」


「ほんと!?」


「ほんとだ」


 あっさりだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その夜。


 明日の準備をしていると、

 イカヅチが部屋の隅をうろうろしていた。


 落ち着きがない。


「……イカヅチ?」


「……む」


 呼ぶと、一瞬だけ動きが止まる。


「どうしたの?」


「いや……」


 言いかけて、やめる。


 珍しい。


 ヒューイが、にやっと笑った。


「なんだよ。

 緊張してんのか?」


「しておらん」


 即答だけど、

 また歩き出した。


 そわそわ。


 なんとなく、

 大事な場所なんだろうな、と思った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 布団に入ってからも、

 なかなか眠れなかった。


 火の精霊。

 阿蘇。

 カルデラ。


 兄を、超える。


「なぁヒロ」

 ヒューイが、天井のほうで言った。


「ちょっとワクワクしてるだろ」


「……うん」


「いい顔だ」


 その隣で、イカヅチが静かに言う。


「心配するな」

「我がいる」


 僕は、布団の中でぎゅっと拳を握った。


 次は――

 火だ。

 それも竜。


 そう思うだけで、

 胸が少し熱くなった。

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