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第27話 閉じる空間

 気づけば、庭にあった大きめの岩は全て砕いてしまって、砂利みたいになっていた。


 ついこの前まで、たくさん転がっていたはずなのに魔法の的にして練習をしていたから。

今はもう、形すら残っていない。


「……ヒロ」


 それを見ていたお父さんが、静かに言った。


「そろそろ、考えよう」


 怒っているわけじゃない。  

 でも、冗談でもなかった。


「今のお前の魔法は、もう遊びじゃ済まない」


 僕は、黙ってうなずいた。


 確かに、最近は威力の加減が難しい。

 前と同じつもりで使っても、結果が全然違う。


 それだけ強くなっている、ということなんだろう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「だったらさ」


 縁側で寝転がっていたヒューイが言った。


「俺たちに撃ってこいよ」


「え?」


「いいの?」  

僕が聞くと、ヒューイは笑った。


「問題あるか?」


「ないな」  

イカヅチも、短く答える。


「じゃ、庭でやろうぜ」


 僕たちは庭に出た。


 まずは、ヒューイに向かって風魔法。


 ――びゅっ。


 確かに風は当たった。


「いいぞ」  

ヒューイは軽く言う。


「どんどん撃ってこい」


 何発か続けて撃ってみたけど、

 ヒューイは涼しい顔のままだ。


 次は、雷魔法。


 今度はイカヅチに向けて放つ。


 ――パチッ。


 雷は確かに届いた。  

 でも、イカヅチは微動だにしない。


「……効いてない?」


「いや」  

イカヅチが言った。

「センスは悪くない」


 優しい言い方だった。


「でも……」  

僕は思わず聞いてしまう。

「防いでもいないのに、全然効いてないように見えるんだけど」


「お前の魔法が弱いわけじゃない」  

ヒューイが言う。

「ただ、俺たちが強いんだ」


「ヒロの風魔法じゃ、俺たちの外装は突破できないな」


「……外装?」


「お前たち人間で言う、皮膚みたいなものだ」

 イカヅチは自分の腕を軽く叩く。

「魔力でできている。いわば鎧だな」


「どうやってやるの?」


 そう聞くと、二人は少し困った顔をした。


「生まれた時から纏ってるからなぁ」

 ヒューイが言う。

「正直、説明できねー」


「呼吸するみたいなものだ」  

イカヅチも言った。


「……そっか」


「人間がどうやって身を守るかは、俺たちには分からん」  

イカヅチは少し考えてから言う。

「だが、防御の魔法くらいはあるんじゃないか?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その夜、僕はお兄ちゃんに電話をした。


「魔力をまとって防御するとか、そういうのってある?」


『あるぞ』  即答だった。


『高等部に入って、実戦が始まってからだな。  防御魔法として習う』


「やっぱり……」


 人間には、人間のやり方があるんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 問題は、水魔法だった。


 山を削るほどの威力を、  

 そのまま使い続けるわけにはいかない。


(……閉じ込めればいい)


 作り出す水は、野球ボールくらいでいい。  それに必要な空気の量を考える。


(これくらいか)


 空間を圧縮する。


 水が、できた。


 小さいのに、かなり熱い。  

 指先がヒリヒリする。


 僕はすぐに、その外側を覆うように空間を作った。


 ひとつ。  

 さらに、その外側にもうひとつ。


「……念のため、三重に」


 準備はできた。


「よし……解放するよ!」


 ――バシュッ。  ――パリン、パリン。  ――ブファァァ……。


 抑えられた爆風が、頬を撫でた。


「よし! 成功――」


「いや、漏れてる漏れてる」  

ヒューイが即ツッコミを入れる。


 それから、何日も挑戦した。


 壁の厚さ。  距離。  重ね方。


 そして――ついに。


 音も、風も、外には出ない。


「……できた」


「おお」  

ヒューイが感心する。

「完璧だな」


「これで水魔法の練習も――」


「だからそれ、水魔法じゃねーって」  

ヒューイが笑う。


「全部、空間魔法だな」  

イカヅチも言った。

「それはそれで、異常だがな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「じゃあ、次だ」


 イカヅチが言った。


「俺の雷を、どこまで防げるか試す」


 力を調整しながら、  

 何度も撃って、何度も防ぐ。


 どこまでなら耐えられるのか。  

 どこから壊れるのか。


 確認していく。


「……じゃあ」


 イカヅチが言った。


「打ち合いだな」


 撃って、防いで、また撃つ。


「次、いくよ!」

「来い!」


 声を出しながら、

 魔法を投げ合う。


 気づけば、

 時間なんてすっかり忘れていた。


「なぁヒロ」

 ヒューイが言う。

「これ、普通に楽しくね?」


「うん」


 それは、まるでキャッチボールみたいだった。


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