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第25話 水魔法

 朝、目が覚めると台所からいい匂いがしていた。

「ヒロ、起きてる? 朝ごはんできてるよ」


 トーストの焼ける音と、フライパンのじゅうっという音。


 テーブルの上には、目玉焼きトーストが並んでいた。


 白身のふちは少しカリッとしていて、

 黄身の上には塩とコショウ。

 僕はこれが好きだ。


「いただきます」


 特別なことは何もない朝。

 パンをかじりながら、今日は何をしようかと考える。


 学校は、たぶんいつも通りだ。



 案の定、授業は退屈だった。

 読み書きと計算。

 もう何度もやった内容ばかり。


 体育の時間、校庭を走るときだけ少し楽しい。


 誰にも気づかれない程度に、

 足元にほんの少しだけ風を流す。


 速くなりすぎないように。


 あくまで「ちょっと調子がいい」くらい。

 ボールを蹴るときも同じだ。


 ヒューイを召喚しなくても風魔法を扱えるようになってきた。



 家に帰ると宿題をさっさと済ませて、魔法の練習をする。


 今日は、風魔法も雷魔法も練習しないと決めている。


 家に帰ると、縁側にはヒューイとイカヅチがいた。

 ヒューイは仰向けに寝転がって、空を見ている。

 イカヅチは丸くなって、うとうとしていた。


「今日は呼ばないからね」


 そう言うと、ヒューイが片目を開けて笑う。


「おう、好きにやれ」


 イカヅチは寝返りを打っただけだった。


 庭で一人、魔法の練習。


 最近、少しわかってきたことがある。


 理科の授業で習った。


 ――空気には、水が含まれている。

 見えないけど、確かにそこにある。

 冷やしたり、空気を小さくしたりすれば水ができるらしい。


(神と戦ったとき……)

 ヒューイの竜巻を、ぎゅっと小さくした。

 あの感覚。

 空間を、押し縮める感じ。


 僕は庭の中央に立ち、周囲に意識を広げた。


 空気を、集める。

 圧縮する。


 少しずつ。


 ゆっくりと。


 すると――

 目の前に、水が現れた。

 最初は霧みたいだったのが、

 やがて、はっきりした塊になる。


「……できた」


 サッカーボールくらいの、大きさ。


 でも。


 なんかすごく熱い?


(……これ、花にかけたらダメな気がする)


 理由はわからないけど、

 なんだか危険な感じがした。


「うん……(あっちに捨てよう)」


 僕は水の塊を持ち上げ、裏山の方へ放り投げた。


「ポイッ」



 次の瞬間――


 ドォォォォォン!!


 地面が揺れた。

 衝撃音が遅れて響き、

 熱を帯びた風が庭を吹き抜ける。


 ヒューイが腹を抱えて笑い出した。

「ははははは! なんだ今の!」


 イカヅチは飛び起き、

 毛を逆立てて周囲を見回している。

「……っ!?」


 裏山を見ると、

 さっきまでなだらかだった斜面が、

 ごっそり削れて形が変わっていた。


「……あれ?」

 ヒューイが涙を拭きながら聞く。


「今の、何魔法だ?」


「水魔法だけど?」


「ははははは!

 あんなのが水魔法なわけねーだろ!

 爆破魔法だ、爆破魔法!」


「水魔法だよ!」


 僕は真顔で言い返す。


 ヒューイはさらに笑い転げた。




 しばらくして。

 玄関の扉が勢いよく開いた。


「ヒロ!!」

 血相を変えたお父さんが飛び込んでくる。


「裏山が……!

 地形が変わってるぞ!!

 神の襲撃か!?」


「え?」


 その声を聞きながら、

 僕はリビングのソファに座っていた。


 テーブルの上には、

 いつの間にかあったクッキー。


 もぐ。


「ちがうよ」


「なにが違うんだ!?」


「たぶん、水魔法」


 お父さんは言葉を失っていた。


 縁側の方から、

 ヒューイの笑い声が、まだ聞こえていた。



 ――どうやら、

 魔法の練習は、

 もう少し気をつけた方がよさそうだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

季節はいくつか巡った。


 背が少し伸びて、

 朝の景色が、前より高くなった。


 僕は10歳になった。

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