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第21話 夏の雷

 夏休みも、残り二週間を切っていた。


 お兄ちゃんが実家にいられるのも、あと少し。


 魔法学校の寮に戻る日が、カレンダーではっきり見えている。


 だからこの夏、僕たちはほとんど毎日、庭で魔法の練習をしていた。


 朝と夕方。

 日差しが強い昼は休憩。


 僕とお兄ちゃんと、ヒューイと、イカヅチ。

 少し不思議だけど、今では当たり前の顔ぶれだった。


「……おい」


 縁側に伏せていたイカヅチが、ふいに口を開いた。


「お前、なぜ雷を使わん」


「……え?」


 お兄ちゃんが間の抜けた声を出す。


「いや、使わないっていうか……


 俺、火と水と風と土の適性持ちだし」


 指を折って数える。


「雷魔法なんて、学校でも習ってない。

 鑑定でも出なかったぞ?」


 それを聞いて、イカヅチは鼻を鳴らした。


「お前たちは、やたらとその四つを重要視する」


「え?」


「だがな、世界の魔法はそれだけではない」


 イカヅチは、僕のほうをちらりと見る。


「お前の弟、ヒロの魔法もそうだ」


「……ヒロ?」


「鑑定士には、見えたものしかわからん。

 四属性が見えたから、そう伝えただけだろう」


 低い声が続く。


「雷の精霊である我から見れば、

 お前は雷も、例外なく使える器だ」


「……まじで?」


 お兄ちゃんは、目を丸くした。


「いや待て、でも……

 雷ってどう出すんだよ。火みたいに燃やすのとも違うし、水でも風でもない」


「それだ」


 イカヅチが言った。


「お前は、雷を出す“イメージ”を教わっていないだけだ」


「見ていろ」


 イカヅチが前脚を地面につける。


 ぱち、と小さな音がして、空気が震えた。

 空に雲はない。

 それでも、確かに“雷の気配”が集まってくる。


「雷とは、溜めて、流すものではない」


 イカヅチの声は静かだった。

「お前の中のエネルギーを、

 一瞬で“届ける”力だ」


 ――バチッ。


 一閃。


 庭の端に置いてあった鉄バケツに、細い雷が走った。


 音もなく、バケツが真っ二つに割れる。


「……は?」

 お兄ちゃんが固まる。


「今のが……雷?」


「そうだ」

 イカヅチは言う。


「溜めるな。練るな。

 考える前に、放て」


 お兄ちゃんは、何度も失敗した。

 火が出たり。

 風が暴れたり。

 何も起きなかったり。


「くそ……」


 額に汗をにじませて、拳を握る。

 そのとき、僕は思わず声を出していた。


「お兄ちゃん」

「ん?」


「今までの魔法って、

 じわって出してる感じだったよね」


「……まあ、そうかもな」


「雷って……

 きっとめっちゃ速いんだと思う!」


「ほう、よくわかっているな

 我が雷の魔法は最速だ」


「光のほうがはえーけどな」


「焦がすぞ」


ヒューイとイカヅチが言い合いをしていた。


 お兄ちゃんは、少し考えてから息を吐いた。

「……なるほど」


 深呼吸。

 そして。


「――届けろ」

 ――バチッ!!

 乾いた音。


 お兄ちゃんの指先を、小さな雷が走った。


「……っ!」

 ほんの一瞬。

 でも、確かに雷だった。


「……できた?」


「できている」


 イカヅチが、満足そうに言った。


 ヒューイが、くっと笑う。

「やっぱ天才じゃねーか。

 まあ、俺と同じ属性ある時点で薄々わかってたけどな」


「お前は気づいてなかっただろ」


「細かいことは気にすんなって」


 お兄ちゃんは呆れたように言いながら、


 でもどこか嬉しそうだった。





 その夜。


 僕は縁側に座って、月を見上げていた。


 イカヅチが、隣に来る。


「……兄は、もうすぐ戻るな」


「うん」


「だが、この夏で十分だ」


 小さな雷が、夜に溶ける。


「教えるべきものは教えた。

 あとは、自分で伸びる」


 僕は、静かにうなずいた。


 夏は、まだ終わらない。

 でも――

 確かに、次の季節が近づいていた。

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