第20話 雷獣
僕は、さっき会った“地球の核”のことを、みんなに話した。
危険に巻き込んでごめんって謝られたこと。
すっごく大きな光の塊だったこと。
でも、怖くなくて、どこか優しい感じだったこと。
そして――
精霊は、僕の味方だって言ってくれたこと。
言葉にしてみると、やっぱり現実味がなくて、
自分でも夢の話をしているみたいだった。
それでも、胸の奥があたたかいのは確かだった。
話し終えると、リビングが静かになる。
お父さんは腕を組み、少し考えるように目を細めた。
「……地球の核、か。
ヒロが嘘をついているようには見えないが……
そんな存在、聞いたことはないな」
怒りも否定もない。
ただ、理解しようとしている大人の声だった。
机の上で、雷獣が小さく尻尾を揺らす。
「無理もない。
星そのものだからな。初めからいて、この星の土台だ」
「……どういう意味だ?」
「例えば、人間は、産んでくれた親には感謝する。
だが、生まれた土地そのものを、神として崇めるか?」
雷獣の声は静かで、重みがあった。
「星の核は、自らを崇めよとは言わん。
星が育ち、生命が巡る――それでいい。
発展そのものが、核の力になる」
お父さんは眉を寄せる。
「……それなら、どうして神話や宗教に出てこない?」
「神話は、神が人間に作らせたものだからだ」
雷獣は、淡々と答えた。
「おいおい、どういうことだ?
神話は神が“作らせた”って?」
「信仰を集めるためだ」
「信仰を集めて、何になる?」
「信仰は、そのまま神のエネルギーとなる。
より強大な存在になるための、糧だ」
お父さんは、低く息を吐いた。
「……なるほどな。
この世界は、ずいぶん神に都合よくできているらしい」
「じゃあ、精霊はなんで地球に来たんだ?」
雷獣は、少しだけ間を置いてから、ゆっくりと語り始めた。
「……我ら精霊の母星の核は、寿命を迎えた。
星は滅び、居場所を失った。
地球は、そんな我らを迎え入れてくれたのだ」
その声には、ほんのわずかに寂しさが滲んでいた。
ヒューイも静かにうなずく。
「地球の核は、俺たちにとって“恩人”みたいな存在だ。
ヒロも、助けてもらったんだぞ」
「……僕が?」
「昨日の夜、様子を見に来たら、
身体から精神体が抜けててな。正直、肝が冷えた」
「慌てふためく様は、なかなか滑稽だったぞ」
「うるせぇ!」
二人のやり取りに、空気が少しだけ和らぐ。
雷獣は、改めて僕を見た。
「本来、地球の核の領域には、神々も精霊も立ち入れん。
ヒロ、お前は――
選ばれた、というより“例外”だ」
胸が、少しだけ強く脈打った。
「救われた、と言ってもいいだろう」
難しい話が続いて、
僕の頭はだんだん、ふわふわしてきた。
「……うぅ……」
ぷしゅー、と変な音が口から漏れる。
「おい、ヒロ!? 大丈夫か!」
「……む、むずかしい……」
ヒューイが頭を抱えた。
「ほら見ろ! もう限界だって言っただろ!」
「ふむ。今日はここまでだな」
雷獣も、あっさりと言い切った。
空気が少し緩んだ、そのタイミングで、
僕は前から気になっていたことを口にした。
「ねぇ、雷獣って……それ、名前なの?」
「名前ではない」
「じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「好きに呼べ」
好きに……?
僕は少し考えてから、
小さな雷獣の姿を見つめた。
雷の精霊で、強くて、かっこよくて。
でも、どこか可愛くて。
「……イカヅチ!」
雷獣――いや、イカヅチが目を細める。
「イカヅチ、か。
悪くない」
その瞬間、
胸の奥で、何かが“ぎゅっ”と結びついた気がした。
名前を呼んだだけなのに、
イカヅチが、ほんの少し嬉しそうに見えた。
こうして――
雷獣は、正式に“イカヅチ”になった。




