第2話 誕生
魔法が人類に顕現して数百年。
始まりの魔法は「歩きタバコの火を消したい」という願いから、世界規模で超局所的に雨を降らせた魔法だと言われている。
小さな願いから始まった魔法は、今や国家の軍事力となり、あるいは日常生活を助ける便利なツールとして定着した。
そんな僕らの生きる世界線とは、別の世界線の物語である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「オギャー、オギャー」
日本ののどかな田舎町に一つの命が産まれた。
赤ん坊はヒロと名付けられた。我が家に第二子が誕生したのだ。
兄のカイトは近所では神童と言われていた。
五歳にして、火、水、風、土の四大属性を使いこなしている。
ヒロも将来どんな大魔法使いになるのか、今から楽しみだ。
親の期待とは裏腹に、ヒロは普通の赤ん坊だった。
ただ目をキラキラと輝かせ、虚空に向かって腕をブンブン振り回し、キャッキャしているだけの普通の赤ちゃん。
うん、カイトが特殊だったのだ。ベビーベッドのメリーゴーランドを火球で撃ち落とす0歳児がポンポン産まれては困るどころの騒ぎではない。
平凡な日々のなか、息子たちはすくすくと育っていった。
しかし、変化は突然だった。
……ベビーベッドが浮いていたのだ。
「なんだこれ!?!? ヒロ! 大丈夫か!!」
俺が慌ててベビーベッドを覗き込むと、そこにいる赤ん坊はいつにも増してキャッキャと楽しそうに笑っている。
魔法の発現だ。
しかし、何魔法だ? カイトが使っていた火や水といった、分かりやすい現象ではない。
「あなた、これはきっと『空間魔法』よ!」
妻が興奮気味に言い放った。
「く、空間魔法? なんだそれ、そんなの聞いたことないぞ」
「だって、物を浮かしたり、遠くの哺乳瓶をパッと手元に引き寄せたりできてるじゃない。カイトが使う四大属性のどれにも当てはまらない、完全に自由な魔法なんだわ。きっと特別な魔法に違いないわ!」
母親の直感というのは恐ろしい。専門家に見せたわけでもないのに、妻は我が子の現象を見て勝手にそう名付けてしまった。
俺は首を捻る。聞いたことがないということは、相当レアな属性なのだろう。
だが、少なくともカイトのような派手な戦闘向きの力ではないことだけは確かだ。
物を浮かしたり、遠くの物を取り出したりできる魔法、か。
まぁ、便利なんだろうけど……。
将来は物流業者か? それとも、厨房から一歩も動かずに食材を操る料理人なんかも面白いかもしれないな。
いずれにしても、誰かを傷つけることのない、平和な魔法なのだろう。
「カイト、ヒロは戦うのが苦手かもしれない。何かあったら助けてあげるんだぞ」
俺がそう言うと、五歳の長男は得意げに胸を張った。
「そんなの言われなくてもわかってるよ。だってお兄ちゃんなんだもん!」
最強の兄と、便利な魔法を持つ弟。
まぁ、そんな組み合わせも悪くないのかな?
宙に浮くベビーベッドを見上げながら、俺はそんな平和な未来を思い描いていた。




