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第19話 精霊と神のあいだ

玄関のほうから、鍵の回る音がした。


――ガチャ。


「ただいま」


いつもの、お父さんの声だった。


靴を脱ぐ音。 一歩、二歩。


そして―― 足音が、止まった。


「……ん?」


低く、短い声。


リビングの空気が、わずかに張りつめる。


「……なんだ、あれ」


お父さんの視線は、机の上に釘づけになっていた。


ぬいぐるみサイズの雷獣が、ちょこんと座っている。

その毛並みの奥で、小さく、

ぱち……と静電気のような音が鳴った。


「ヒロ」


名前を呼ばれて、僕は顔を上げた。


「それ……生き物か?」


一瞬、どう答えるか迷ってから、僕は正直に言った。


「……うん」


雷獣が、きょとんと首をかしぐ。


お父さんはすぐには近づかなかった。

距離を保ったまま、もう一度、じっと観察する。


「……なるほど」


そう呟いてから、視線が僕に戻る。


「昨日の雷――  あれと、関係があるな」


疑問ではなく、確認の口調だった。


ヒューイが、小さく舌打ちする。


「さすがだな。  気づくの早ぇよ」


「……気づくさ」


お父さんは腕を組んだ。


「家の中に、  “見覚えのないはずの存在”がいる」


その言葉に、雷獣の尻尾がぴくりと動いた。


「説明してもらおうか、ヒロ」


その一言に、リビングの空気がぴんと張った。


……が。


先に口を開いたのは、僕じゃなかった。


「――やれやれだ」


机の上で、雷獣が小さく息を吐いた。

ぬいぐるみみたいな体を揺らしながら、前脚をそろえて座り直す。


「人の家に上がり込んでおいて、  

 説明もなしというわけにはいかんか」


お父さんの眉が、ぴくりと動いた。


「……喋った」


淡々とした一言だったが、 その目は、雷獣から一瞬も離れていない。


「驚くな。  

 精霊とは、そういう存在だ」


雷獣は、ぱち、と小さく火花を散らした。


「昨日の雷――  

 あれは“自然現象”ではない」


その言葉に、ヒューイが鼻で笑う。


「まあ、そうだな。  

 あれをただの異常気象で片づけられたら、  

 こっちの立場がねぇ」


その瞬間。 お父さんが、ふぅ、と大きく息を吐き出した。


組んでいた腕を解き、ツカツカと僕とお兄ちゃんの元へ歩み寄ってくる。

そして――僕たちの肩を、強い力で掴んだ。


「父さん?」


「説明の前に……聞かせてくれ」


お父さんの声が、わずかに震えているのが分かった。


「怪我は……本当にないのか?  どこか痛むところはないか?  

 昨日は混乱していてちゃんと見れなかったが……隠していることはないか?」


その目は、真剣そのものだった。

「原因」を知りたいという好奇心よりも、

「子供の無事」を確認したいという必死さが伝わってくる。


「う、うん、大丈夫だよ。ヒューイたちが守ってくれたから」

「俺も……ちょっと体が重いくらいかな。怪我はないよ」


僕たちが答えると、お父さんは僕たちの腕や顔を確かめるように見て、それから力が抜けたように安堵した。


「……よかった。  無事で、本当によかった……」


ぽん、と頭に手が乗せられる。

その手は温かくて、少しだけ汗ばんでいた。


お父さんは、一度深呼吸をしてから、再び鋭い目で雷獣に向き直った。


「……よし。  

 では、続けてくれ。あれはいったい何だったんだ」


雷獣は、そんな親子のやり取りを静かに見ていたが、小さく頷いて話を続けた。


「昨日、あの地に降りたのは  雷を司る“神”だ」


その瞬間、空気が、再び重くなった。   「我は――  雷を司る神だ  たしかそう言ってたよ」


「それってタケミカヅチか?」 お父さんは、思い当たる名を慎重に口にした。 雷の神と聞いて、真っ先に浮かんだのだろう。


「フッ…あれがタケミカヅチなら、我ら全員この世にはおらん」


「お前たちがなんであんなところにいたのかわからんが、  

 あそこは八雷神(ヤクサイカヅチノカミ)という、

 もはや忘れ去られた神の祠だった」


「お父さん、ヤクサ…?って知ってる?」


「いや、すまん、知らない…」 お父さんは気まずそうな顔で答えた。


「運がよかったな」


「……なあ」


それまで黙って聞いていたカイトが、ぽつりと声を出した。


「つまりさ、  俺たちは――  たまたま無事だっただけ、ってことか?」


雷獣は、少しだけ目を細めた。


「そうだ」


その言葉に、僕の背筋が冷たくなる。


「……ねぇ、」


「なんだ」


「その神様……また、襲ってくるのかな?」


僕が一番怖かったことを聞くと、お母さんも不安そうに口元を押さえた。

もし明日また来たら、今度は防げるか分からない。


けれど、雷獣は鼻を鳴らして首を横に振った。


「案ずるな。そんなすぐに手出しはできん」


「えっ、そうなの?」


「神や精霊と、お前たち人間とでは、時の流れの感覚がまるで違うのだ」


雷獣は、短い尻尾をゆらりと動かした。


「奴らにとっては、ほんの瞬きのような時間だがな。  

 当分の間、再び相まみえることはなかろう」


その言葉を聞いて、リビングにいた全員の肩から力が抜けた。

とりあえず、明日の朝に雷が落ちてくることはないらしい。


「それに……」 雷獣がぬいぐるみサイズの体を小さく揺らす。


「神とは、本来、この星の法則を自由に操作できる存在だ。  

 精霊と違って、意思と力が直結している。人間に肩入れする理由は薄い。  

 簡単に言えば――  この世界を“利用する側”の存在だ」


「じゃあ、精霊は……?」


僕の問いに、雷獣は目を細める。


「精霊は、違う。俺たちは地球の核に大恩がある。

 核は、この星の心臓だ。生き物の生命の礎。

 だから、俺たちは地球やその生き物と共に生きる道を選ぶ。

 神の行動に左右される立場ではあるが、共存することが使命だ。

 つまり――

 俺たちは、この星に“住まわせてもらっている側”だ」


ヒューイが頷く。


「言い換えれば、俺たちはこの星の“守護者の側”だな。

 神はあくまで概念に近い、精霊はこの星のために働く隣人だよ」


僕は小さく息をつく。


「……うーーん、よくわかんないけど、つまり精霊は僕たちの味方ってことだよね!

 さっき夢?のなかで地球の核っておっきい光がそう言ってたよ」


「は!?お前、今地球の核って言ったか?」

ヒューイが驚きのあまり白目をむいている。


「うん、さっきあったんだと思う…」



「「「「えええええ!!!!」」」」

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