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第16話 雷の神、降臨

 祠の前に落ちた巨大な雷は、うねりながら形を変えていった。


 光が収束し、

 その中心から“何か”がゆっくりと姿を現す。


 人の形をしている。

 でも、人じゃない。


 雷そのものが人型を取ったような、

 そんな異様な存在だった。


「……神様……」


 僕は震える声でつぶやいた。


 お父さんとお母さんは僕を抱き寄せ、

 お兄ちゃんは前に立って構える。


 そのとき――


「ヒューイ、来て!」


 僕は空間を裂くように手を伸ばした。


 空気が歪み、

 風が渦を巻き、

 ヒューイが飛び出してくる。


「ちゃんと帰ってこれたみたいだな……チッ、あいつも来ちまったか!」


 ヒューイが雷神を見て羽を逆立てた。




「人の子……お前はここで滅する」


 雷神の声が響いた瞬間、

 空気が震え、

 雷が一直線に僕へ向かって放たれた。


「ヒロ!!」


 ヒューイが風の塊をぶつけ、

 雷撃の軌道を逸らす。


 だが――


「ぐっ……!

 打ち消せねぇ……!」


 ヒューイの風は、雷撃を完全には止められなかった。



「お父さん、お母さん! ここにいて!」


 お兄ちゃんが叫び、

 地面に手をついて、お父さんとお母さんの前に障壁を作った。


 地面が盛り上がり、

 祠の前に巨大な土の壁が形成される。



 逸れた雷撃が壁に当たり、

 火花を散らしながら流れ落ちていく。



「虫けらどもが……!」


 雷神が腕を広げると、

 空が裂け、

 無数の雷が降り注いだ。


「風の防壁!!」


 ヒューイが風の壁を展開し、

 雷撃を受け止める。


 だが――


「くっ……!

 全部は……防ぎきれねぇ……!」


 雷が風を焼き裂き、

 ヒューイの体に傷が走る。


「ヒューイ!!」


「大丈夫だ……まだいける……!」



「僕も……やる!」


 僕は両手を前に突き出し、

 風を圧縮させた。


「風圧弾!!」


 圧縮した風の塊が雷神へ向かって飛ぶ。


 しかし――


 雷神の周囲からほとばしる雷が、

 僕の魔法を一瞬で打ち消した。


「……そんな……!」


「ヒロの風じゃ、あいつには届かねぇ……!」



 そのときだった。


 森の奥から――

 大地を震わせるような咆哮が響いた。


 ガァァァァァァァァン!!


 雷の音とは違う。

 もっと野生的で、もっと強い。


 みんなが森の奥を見つめる中、

 お兄ちゃんだけが眉をひそめた。


 「……何かいるのか?敵か?」

 

 「わからない……!

 でも、たぶん精霊だ!」


 木々を押しのけるようにして、

 巨大な影が姿を現した。


 四足の獣。

 体中に雷を纏い、

 金色の瞳がこちらを見据えている。


「……雷獣……!」


 ヒューイが叫んだ。


「騒がしいと思ったら……

 とんだ大物が出てきたもんだな」


 雷獣が低く笑った。



「誰かと思えば……

 我の信仰を盗み取る小賢しい盗人ではないか」


 雷神が雷を纏いながら言う。


「盗んではおらん。

 お前がバカスカ雷落とすから、

 それを利用して人間と共存してるだけだ」


 雷獣が牙をむく。


「黙れ……邪魔者め。

 貴様ごと消し去ってくれる!」


 雷神の雷が雷獣に向かって放たれる。


 だが――


「ガァァァァ……フッその程度効かんな」


 雷獣は咆哮で雷の衝撃を打ち消し、吸い込むように無力化した。



 雷獣は僕の隣に立ち、

 左手を僕の頭に乗せた。


「人の子よ。

 我の契約を受け取れ」


 体の奥に、

 雷のような力が流れ込んでくる。


「……えっ!そんな、いきなり!?」

胸の奥が、ぎゅっと掴まれたみたいに痛んだ。


「ヒロ! 大丈夫か!?

 ってこれが雷獣か??デッカいな!」



 雷獣が雷撃を無効化してくれているが、ヒューイの風の魔法は雷神には届かず直前で撃ち落とされている。

 

「ヒューイ!

 竜巻を貸して!」


「お、おう!

 でもなにするんだ……?」


「物を取り出すときと同じイメージで……

 ヒューイの竜巻をアイツにぶつけるんだ!」


 ヒューイの竜巻を、ぎゅっと小さくして……

 アイツの目の前――ううん、もっと近く。


 アイツの胸の「中」に取り出すイメージ!

 空間の中にあるものを呼び出す。


 それが物でも、魔法でも、場所は僕が決められるはずだ。


 その間に、

 お兄ちゃんが雷神の動きを見て叫んだ。

 雷神が雷撃を放ちながら左手を天高く上げていた。


「ヒロ! 伏せろ!!

 雷が来る!!

 ――土魔法、大地の円蓋!!」

 


 お兄ちゃんは地面に手をつき、

 土魔法で巨大なドームを作り出した。


 さらに、雷の流れを読んで、表面に風を滑らせるように纏わせる。


 次の瞬間――

 雷神の巨大な雷が直撃した。


 ドームは激しく揺れたが、

 雷は表面を滑り落ちていく。


「……よしっ!耐えた!!」



「ヒロ!!

 今だ!!」


「うん!任せて!!」


 僕とヒューイが同時に叫び、

 圧縮した竜巻を雷神の胸元で取り出し叩き込んだ。


 竜巻は雷に撃ち落とされることなく、

 爆風が起きる。


「この程度で……舐めるな……!」


 雷神は怒号を上げたが――

 

 次の瞬間、顔にはヒビが入り、膝をつく。

 依代の体が限界を迎え、

 雷が霧のように散っていく。


「忘れるな……

 神に逆らうということを……!」


 最後の雷鳴を残し、

 雷神は消滅した。



 空が一気に晴れ渡り、

 満天の星空が広がった。


 僕たちはしばらく言葉を失っていた。


「……勝った……の?」


 僕がつぶやくと、

 ヒューイが肩に乗って笑った。


「勝ったんだよ、ヒロ」


 僕たちは命からがらなんとか神を退けることができた……。



 その後、僕たちは車に乗り込み、

 夜の道を家へと走った。


 気がついたときには、

 僕はもう、眠りに落ちていた。


 夢も見ない、

 ただ深いだけの眠り。


「……あんなことがあったんだ」

「ヒロも、カイトも……よく頑張ったな」


 お父さんはそう呟き、

 いつもよりずっと慎重に、

 ハンドルを握っていた。


 ハンドルを握るお父さんの手が、

 小刻みに震えているのが見えた。

「……無事で、よかった……本当によかった……」

 その声は、自分に言い聞かせるように震えていた。



 その胸元で、

 僕の鼓動が、わずかに強く脈打っていたことを――

 そのときは、誰も知らなかった。

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