第13話 夏休み
小学二年生になって、クラス替えもあった。
でも、僕の学校生活はあんまり変わらなかった。
――というか、ちょっとだけ面倒になった。
だって、みんなには見えてないんだ。
教室の隅で跳ねていたり、
廊下をふわふわ漂ってる微精霊も。
僕がそれを避けたり、話しかけたりすると――
「ねぇヒロくん、なんか……変じゃない?」
「また独り言言ってる」
「……あんた、ちょっと気持ち悪いわ」
同じクラスの女の子にそう言われたとき、
胸がちくっとしたけど、すぐに消えた。
(だって、見えないんだもんな、まぁ説明してもわかってくれないだろうしな)
僕は本当のことを知っている。
みんなが当たり前に使っている魔法は微精霊の力をかりて成立していること。
知らないのは、みんなのほうだ。
そう思うと、少しだけ優越感があった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ヒロー! ただいま!」
玄関から聞こえた声に、僕は走って飛びついた。
「お兄ちゃん!」
お兄ちゃんは笑って頭を撫でてくれた。
その手があったかくて、なんだか安心する。
「学校どう? 楽しい?」
「うーん……みんな、見えてないからちょっと窮屈」
「そっか。でも気にするな、そのうちみんなヒロのすごいところわかるようになるさ」
お兄ちゃんはそう言って笑った。
僕はちょっとだけ安心した。
夏休みの宿題は、去年よりずっと多かった。
僕は机に向かって、ため息をつく。
「こんなの簡単で退屈……
意味なんてあるのかな」
「じゃあ早く終わらせて、空飛びに行こうぜ
見せたい魔法もあるから」
「行く!」
その一言で、僕のやる気は一気に戻った。
お兄ちゃんと一緒に宿題を片付けていく。
宿題が終わると、僕たちは家の近くの河川敷へ向かった。
「ヒロ、見てろよ。最近の成果」
お兄ちゃんはスニーカーの紐をぎゅっと締め直し、
少し離れた土手の上に立った。
「……行くよ!」
お兄ちゃんが地面を蹴った瞬間――
ドンッ! と空気が爆ぜ、
足元の草が一斉になぎ倒され砂煙が舞い上がった。
お兄ちゃんの体が、まるで重力を忘れたみたいにビュンと一気に前へ跳んだ。
風が裂ける音がした。
お兄ちゃんは、気づけば100メートル以上先の土手に軽やかに着地していた。
「すごい!!」
「まだまだあるぞ!」
お兄ちゃんは手のひらを前に突き出し、
そこに風を集め始めた。
空気が震え、
お兄ちゃんの手のひらの上に小さな渦が生まれる。
最初はただの揺らぎだったのに、
すぐに“形”を持ち始めた。
渦はぎゅるぎゅると回転し、
草を巻き上げ、砂を吸い込み、
まるで小さな嵐みたいになっていく。
「これ、乱気流弾!」
カイトが軽く腕を振ると、
渦は空中へ飛び出し――
ボンッ!!
空中で爆ぜた。
衝撃で周囲の草がざわっと揺れ、
僕の髪もふわっと持ち上がる。
「それから……こっちは防御魔法」
お兄ちゃんが手を広げると、
空気が集まり、
透明な“壁”が僕の前に展開された。
不自然な風の流れが周囲の砂や草を纏っている。
「触ってみろよ」
そっと手を伸ばすと――
空気なのに、重い。
押すと、
空気が押し返してくるような圧力があった。
まるで見えない壁に押し戻されているようだ。
「この風の壁は、外からの魔法を受け流すんだ。
衝撃を“滑らせる”って感じかな」
「すごい……!」
お兄ちゃんの周りで微精霊たちが
いつもより光を弾ませて喜んでいた。
夕暮れの河川敷は、
魔法の光と風や音で、慌ただしく砂煙が舞い上がっていた。
夕食後、お父さんがふと思いついたように言った。
「なぁ、ヒロの精霊のこともあるし……
神話とか伝承の土地に行ってみるか?
なにか魔法のヒントがあるかもしれないし」
「伝承?」
「高千穂だよ。車で行けるし、夏休みだしな」
お母さんも「いいわね」と笑い、
お兄ちゃん「行きたい!」と即答した。
僕は胸がどきどきした。
なんだか、すごく楽しみな予感がした。




