第11話 (番外編):風を追う兄の帰寮
冬休みが終わりに近づき、
俺は寮へ戻る電車に揺られていた。
窓の外を流れる田園風景を眺めながら、
膝の上のノートをぱらぱらとめくる。
そこには、冬休みの間に練習した魔法のメモが
ぎっしりと書き込まれていた。
ヒロとヒューイと一緒に練習した日々。
でも今、俺が見返しているのは
自分自身の魔法のことだった。
ヒューイが言っていた。
ヒロが昔から「光の子」と呼んでいた存在は、本当に実在していて、
世界中にいる“微精霊”という存在だと。
そして――
地球人の魔法は、微精霊の介入があって初めて成立する。
詠唱は“ありがとう”みたいなもの。
魔法を使うときの礼儀であり、
微精霊に魔力の流れを整えてもらうための合図。
俺はノートに書いたその言葉を見つめる。
「……じゃあ、俺の詠唱魔法とヒロの詠唱魔法の差って……
感謝の度合いとか、そういうことなのか……?」
自問自答して、苦笑いした。
ヒューイはこうも言っていた。
特性とは、微精霊の補助がほとんど必要なく、
本人だけで発動できる魔法のこと。
つまり、特性持ちは
“微精霊に頼らなくても魔法を扱える人間”。
俺は四つの属性を扱える。
それって実は、かなりすごいことなんじゃないか。
でも――
魔法学校ではそんな話、一度も聞いたことがない。
「……魔法って、まだまだ謎だらけなんだな」
電車の揺れに合わせて、
ノートのページがふわりとめくれた。
いつでも精霊に直接聞けるヒロが、
少しだけ羨ましい。
寮に戻って数日後。
風魔法の授業が終わったあと、
俺は先生を呼び止めた。
「霧島先生、質問があります!」
霧島先生は、知的な雰囲気のある男の先生で、
高等部と中等部の授業を兼任するほど優秀な人だ。
でも生徒のことをよく見ていて、
話しかけやすい先生でもある。
「どうしたんだい、カイトくん」
「微精霊って……なんですか?
詠唱って、本当は何のためにあるんですか?
特性って、どうやって決まるんですか?」
先生は一瞬だけ目を細めた。
「……ここでは話しにくいね。
場所を変えようか」
研究室に入った瞬間、
僕は思わず息をのんだ。
壁一面に、古い漫画や小説が並んでいる。
「先生、この古い本ってなんの本……?」
「私はね、魔法の歴史を解き明かしたいんだ。
魔法はイメージ力次第で無限の可能性がある。
だから、昔の人がどんな魔法を想像していたのか、ずっと集めているんだよ」
先生は嬉しそうに本棚を撫でた。
どれも、魔法が顕現する前の地球人が描いた “想像の魔法”の物語だ。
「さて、カイトくん。
どうして急にそんな質問を?」
俺は迷ったけれど、
正直に話すことにした。
「弟が……風の精霊と契約したんです」
先生の目が大きく開いた。
俺は、ヒューイから聞いたことを全部話した。
微精霊のこと。
詠唱の意味。
特性の正体。
空を飛ぶ魔法の話。
先生は途中から震えていた。
「……なるほど……!
詠唱の差は“微精霊との親和性”……
いや、感謝の質……?
これは……新しい……!」
先生の頭の中で、
何かがカチリとはまった音がした気がした。
「そういえば先生、
昔の地球人って、ほうきとか絨毯で空を飛ぶって
イメージしてたって、精霊が言ってました」
「もちろんだとも。
理論上は可能だし、私の収集物にもたくさん描かれている。
実はね……私も練習していて、飛べるんだ」
「えっ、先生も!?」
「ほうきはイメージ補助に使っている。
高度な制御が必要だが、風魔法なら可能だ」
「先生、僕も……少しだけなら」
僕は深呼吸して、
風を足元に集めた。
ふわっ。
体が浮き上がる。
まだ上下移動しかできないけれど、
確かに“飛んで”いた。
「……道具なしで……?
これは……素晴らしい……!」
先生は目を輝かせた。
「カイトくん、今度から私と一緒に練習しよう。
風魔法の飛行は、まだまだ発展の余地がある」
「はい!」
先生は少し照れくさそうに言った。
「……それにしても、君の弟くん……
いつか、ぜひ紹介してくれないか?」
「ヒロがもう少し大きくなったら……きっと」
「楽しみにしているよ」
研究室の窓から差し込む光が、
先生の本棚を照らしていた。
魔法の歴史は、まだ始まったばかりなのだ。




