第三話
「ユウタさん、ハンター適性試験合格です」
「……え!?本当ですか!?!??」
あれから一週間。
俺はギルドの認定を受けなんとかハンターとして登録されることになった。
正直今でも信じられない。運動神経は人並み以下だし実技で評価された実感もほとんどなかったが、どうやら合格の決め手はペーパーテストだったらしい。
モンスターの生態。
行動パターン。
暴走状態に入る際の兆候と、その場で取るべき判断。
このゲームが好きなら知ってて当然の知識、そう思える問題ばかりで俺は迷うことなくスラスラと解答できたのだ。
そして、村に戻ると俺はすぐにギルドから支給された初期防具へと着替え、武器を整えた。
選んだのは――弓。
前世の俺は大剣一筋だったが、あんな重い武器をこの貧弱な身体で振り回せるはずがないし、何より近接戦闘は怖い。一瞬の判断ミスがそのまま死に直結する。
だから俺はある程度距離を取って戦える弓を選んだんだ。
これは臆病な選択じゃない。
この世界で生き残るためには仕方ないんだ。
* * *
ついに今日はシルヴィアと共にゴスアンキロ討伐へ向かう日だ。
どうやら彼女の《《師匠》》も同行するらしい、三人いれば戦力としては十分なはずだ。
ウキウキの俺は村の掲示板の前で二人と待ち合わせをしていた。
朝の広場にはこれから狩りに出るハンターたちの姿がちらほらと見える。
そんな中、一人明らかに雰囲気の違う男がこちらへ歩いてきた。
年老いた体つき。
使い込まれた大剣。
無駄のない足運び。
(……間違いない)
この人がシルヴィアの師匠だ。
男は俺の前で足を止めると、黙ってじっと見下ろしてきた。
「おい、お前がシルヴィアの言ってた見習いハンターか?」
「は、はい!ユウタって言います!よろしくお願いします!」
「……フン」
それだけ言って男はそっぽを向いた。
(……不機嫌だなぁ)
気まずい空気が流れた、その時。
「す、すみません!お待たせしてしまって!」
小走りでシルヴィアが駆け寄ってきた。
すると男は即座に声を荒げる。
「何時だと思っているんだ!!そうやって気が弛んでいるからいつまで経ってもハンターレベルが2のままなんだ!」
「っ……す、すみません……!」
シルヴィアは小さく肩をすくめ、必死に頭を下げる。普段は強気な彼女が叱られている姿は少し不思議で胸の奥が痛んだ。
(別に遅刻してるわけじゃないんだけどな……)
それにしても随分と偉そうだなぁ。
そんな俺にふと素朴な疑問が浮かぶ。
(この人のハンターレベルっていくつなんだろう……?)
俺はつい、彼に聞いてしまった。
「あの……失礼ですが」
「……何だ」
「師匠さんの、ハンターレベルって……」
俺が問いかけた途端、辺りの空気が凍りついた。すると、男は一瞬だけ俺を睨みやがて鼻で笑いながら答えた。
「聞いて驚くなよ?《《ワシのハンターレベルは5だ!!》》」
「えっ!?ハ、ハンターレベル5!?」
俺の反応を見て男は満足そうに口角を上げた。胸を張り、誇らしげな表情のまま、俺を見下ろしてくる。
(……いや、違う)
俺が驚いたのは、そこじゃない。
あれだけ偉そうに振る舞って、
俺たちを見下して、
師匠を名乗っていて――そして、その歳で。
(それでハンターレベル5なのかよ……)
すると男はそれ以上何も言わず、先頭に立って歩き出した。
「では、ゆくぞ」
「あ、あの……食事はしないんですか?」
「食事だと!!?そんなものをとると腹が膨れて判断が鈍る!!」
吐き捨てるように言われ俺は思わず言葉を失った。
(……何を言ってるんだ?)
狩りに出る前の食事はただ腹を満たすためだけのものじゃない。
体力とスタミナの上限を引き上げ攻撃や防御を底上げする生き残るための下準備だ。
特にゴスアンキロのような相手は防御力が高く戦闘が長引きやすい。
食事を取らなければ途中で息が上がり判断力も集中力も確実に落ちる。
(まさか知らないのかなぁ……?)
それでも男は振り返らずに歩き続ける。
シルヴィアは一瞬だけ迷ったように足を止めたが何も言わず師匠の背を追った。
そして、俺は弓を握り直しながら胸の奥で確信していた。
――この人は多分大したハンターじゃない。




