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第二話

「はぁ……っ、はぁ……っ……!」


 俺と白髪の女ハンターは、グラウ=ゼルドから逃げるために必死に走り続けていた。


「ちょっと! さっきから何なのよ!?」


 振り返りざまに俺は怒鳴られる。


「あと少しで奴を討伐できたのに……この咆哮がグラウ=ゼルドだって証拠あるの!?」

「ほ、本当だよ!俺は知ってるんだ!」

「はぁ!?」


 俺は彼女に怒られながらも、走り続けて周囲に目を走らせた。

 草の揺れ方、風向き、逃げていく草食モンスターの群れ。


(……大丈夫、まだ見つかってはいない)


 グラウ=ゼルドは目がないモンスターなので音で獲物を探す。だから奴の咆哮は見えない敵への威嚇であって俺たちがどこにいるかを掴んだ合図じゃない。


 ここで全力疾走を続ければ足音と草木の揺れでこちらの場所が奴にバレてしまう。


「一旦しゃがもう!」

「は!? 何言って――」

「いいから!!そうすればグラウ=ゼルドは俺たちを見失う!!」


 俺は自分で示すように腰を落とし、草の影に身を沈めた。


「……最初は距離を取るために走ったけどここまで来れば走り続けてても意味ないからね」


 俺の言う通りに女ハンターも遅れてしゃがみ込む。

 すると、遠くで響いていた咆哮が少しずつ遠ざかっていく。


「だから言ったでしょ?」

「……う、うん」


 そして俺は前方の岩場を指さした、岩と岩の間に地形がはっきり切り替わっている場所がある。


「こっちだ、ついてきて」

「な、なんでそこに行くのよ!?」

「……エリア境界だ」


「……は?」


 説明はしない。

 俺はその境目を越え、女ハンターも続く。


 ――その瞬間。


 さっきまで聞こえていた咆哮が完全に消えた。


「……き、聞こえない……?」

「うん、エリアが切り替わったから奴の追跡が完全に途切れたんだ」


 彼女は耳に手を当て、もう一度振り返る。


「……なにそれ……?」


 彼女の困惑した声だけが小さく漏れた。



 *   *   *



 そして俺は彼女とともにキャンプへ戻り、そのまま拠点の『パック村』へと向かった。


 村の景色はゲームで何度も目にしてきた通りの光景で、思わず感慨深い気持ちになる。

 中央の広場には依頼掲示板が立ち、武器屋と道具屋がその周囲に並んでいる、ハンターたちが行き交う狩りの合間に戻るための小さな安全地帯だ。


(ああ……本当に俺は『ワイルドハント』の世界に転生したんだな……)


 最初は確かに戸惑った。


 だがそれ以上に、大好きだったゲームの世界に来られたことへの喜びの方が大きい。

 俺が一人で感動して妙な表情を浮かべていると、彼女がこちらを見て名乗り出た。


「さっきはありがとう、私の名前はシルヴィアって言うんだ。……アンタは?」

「え?俺?」


 俺は一瞬迷った。


 本名を名乗るべきか、それともこのゲームで長年使ってきたハンドルネーム『†KAGE†』を名乗るべきか、少し考えた末、俺は本名を選んだ。


「俺はユウタって言うんだ、よろしく!」


すると彼女が、ふとこちらを見て言った。


「アンタ、見たところ一般人でしょ?それなのになんであんなにモンスターの知識があったの?」

「え……?そんなこと言われても……」


 どう答えるべきか迷ったが、俺は短く息を整えてから言った。


「……そりゃあ、俺は《《元ハンター》》だからな」

「え!?こんなに弱そうなのに!?」

「よ、弱そう!?」


 シルヴィアの言葉に少しムカッとしたが、まあいいだろう。

 確かに俺はこの世界での実戦経験はないものの、前世ではハンターレベルをカンストさせている。ゲームの中での話だけど。

 つまり半分は嘘だが、半分は真実だ。


 すると彼女が少しもじもじしながら口を開いた。


「あ……あのさ、お願いがあるんだけど……」

「お願い?」

「うん、それだけモンスターの知識があるなら協力してほしいんだ……どうしても狩りたいモンスターがいて……」

「……誰なんだ?」


「ゴ、《《ゴスアンキロ》》っていうモンスターなんだけど……」


(ゴスアンキロか……)


 岩のようにごつごつとした体を持つ大型モンスターで外殻は非常に硬く、攻撃がなかなか通らないので初心者ハンターたちにとっては倒すのに少し苦労する存在だ。


「あぁ、でもゴスアンキロぐらいならあと少し経験を積んで装備も整えればすぐ倒せるよ」

「えぇ!?《《ゴスアンキロぐらい》》!?」


 彼女は目を丸くしていたが、実は俺の方も内心では驚いていた。ゴスアンキロなんてゲームでは序盤に軽く倒して終わりの一過性のモンスターだ。


 ――だが、そこでふと気づく。


 ゲームの中の主人公ハンターが異常なだけで、この世界ではゴスアンキロですら十分に厄介なモンスターなのだと。


「でも、どうしてそいつを狩りたいんだ?」

「あぁ……この依頼を達成できれば、ハンターレベルが3に上がるんだ!」


 なるほど、レベルアップ目的か。

 まあ、理由としては十分だろう。


 そう判断して、俺はシルヴィアを手助けすることにした。

 すると彼女が、少し言いづらそうに続ける。


「でも……もし一緒にフィールドまで来てくれるならハンターギルドへの登録が必要になるけど……」

「おっ!待ってました!」


 思わず声が弾んだ。

 ついに俺のハンターライフが始まるのだと胸が高鳴った。


――うん、確かに始まった。


 だがこの時の俺はまだ知らなかった。


 知識を提供し、仲間を助ける存在でありながら、最弱だという決めつけで理不尽な扱いを受けることになる事を――。





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