第八章 二回戦 vs小田 耕三2
モニターがズラリと並んでいる大きな部屋がある。そこの部屋には監視員と呼べる恰好として最適な警備員の服装、サングラスといった装飾品を付けた者達が椅子に座り、大我と耕三を映し出されている。
今回の戦いにおいて、大我には、カメラを壊さないでほしいとスタッフから強く、物凄く頼まれているのを紀美代が一緒に言われた。大我は、
「見られるの嫌い」
との事だが、今回からは壊さない様にと、約束をした。紀美代が聞けば、最初の呼び石の際のカメラ破壊と一回戦でのカメラ破壊並びにドローン破壊が相当キタらしい。
それには、紀美代も手を合わした。
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映像には、大我が図書室の横で、壁に向かって鉄の棒を一定のリズムで叩いている。一方、耕三は反対側の踊り場へ続く道で深呼吸をゆっくりと、何回も行っている。
互いの横には階段があり、学校の階数は屋上を抜いて四階建て、左右と真ん中に階段があり、屋上に行くには真ん中の階段から行くしかない。
「この二人は、一回戦の戦いを見る限りだと、”同じタイプ”の戦闘者だから、どう交わるのか楽しみではあるな」
「そう言えば聞きました? 今回、大我君にカメラとドローンを壊さない様にお願いして、了承してもらったらしいですよ?」
「だろうな。あれで俺達のボーナスも飛んだ、みたいな嘘なのか本当なのか分からない噂が流れ出たくらいだ。流石に、上が補ったみたいだが……」
そんな会話をしている監視員達の後ろ、一段程高い位置に座っている所長は、テーブルに両肘を置いて、戦いが始まるその瞬間を見守る。
前回の戦いから察するに、緩急をつけて戦いをする大我だが、今回の対戦相手である耕三を、監視員が”同じタイプ”と評したように、緩急をつけて戦いをする人間であると推察できよう。
『お互いに、定位置に付きました』
モニター室に司会者の声が響く。モニターにも司会者は映し出されており、その司会者の前にはいくつもの映像モニターが出現している。彼もまた、元はハッキングを生業とした犯罪者であり、協力者……いや、建物を作っている者と同じ立ち位置の人間だ。
前回はいなかったが、今回の戦いでは万が一にも何かが起きたら困る為、こちらに来てもらった次第。普段……というより、こんな早い段階ではいない人間。準決勝あたりから出てきてもらう能力者だ。
所長は、上からの許可が出た、赤いランプが所長の真上で光ると、目の前にあるマイクのボタンを押す。
「始めてくれ」
『了解!』
その言葉の後に司会者が、大我と耕三が映っている映像を押す。その部分だけ色が変わる。
「さて。今回はどんな戦いになるだろうな」
所長は、自身が案外楽しんでいる事に気付いた。こんな、殺し合いにもなる最低なコロシアムなのに。自身が麻痺しているのか……いや、もう前からか、と考えて諦めてしまう。それ程に慣れてしまった。
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『さて! それじゃお二人、準備はいいですね? いいですね!?』
「えぇ。私は構いませんよ」
『僕もー』
大我の無邪気な言葉に、耕三は口許を緩くして笑みになる。
「(おっと、いかんいかん。相手が子供だからって、気合を入れなくては。大我君は人を殺している犯罪者、殺されない様にしなければならない)」
『では! 第二回戦! 白濱 大我VS小田 耕三!! ――ファイ!!!』
その声と共に、銅鑼の音が鳴り響いた。銅鑼が鳴るのかぁと思いながらも、ゆっくりと前へと歩き始め、深呼吸をする。
「(さて、大我君が来るとするならば、何処からだろうか。考えられる事は……三つか?)」
一・正面突破。真っ直ぐ走って来て戦いを挑んでくる。シンプルだがこちらとしてもやりやすい。
二・背後から。時間はかかるし精神を削る作業になるだろうが、こちらとしてもやられたら困る戦法。
三・外からの奇襲。この戦いのルールには”外に出てはならない”という項目がなかった。それプラス、鉄の棒を持ってガラス窓を割って攻撃をしてくる。
「(今のところはこれくらいだろうか。相手の能力は分からないが、少なくともこの三つに絞り、それ以外が来たら全力で退避しよう。うん)」
耕三視点から見て、とても無邪気に見えた大我。例え殺人鬼だとしても殺したくはないと考えている。だからこそだろうか……、
”突然の奇襲に対処出来なかったのは”。
事態が起きたのは、耕三の真上。天井が内側に破砕された。反射的に真上を見た時は、鉄の棒を振り落としてきた大我が居た。それも、天井が落ちてくる物体よりも速度よりも早く――、
「!?」
耕三は即座に両手の平を前にかざして、鉄の棒に触れる。衝撃が耕三に流れて床を陥没させる。が、力をなんとか”盗めた”事に、安堵してしまった。真上から瓦礫が落ちて来るのを、失念していた。
「成程ね!!」
大我のその声と共に、腕を蹴られた感触があるが、その後に瓦礫が耕三を襲う。耕三は身体を丸くし、頭を守る態勢になって瓦礫を受け止める。それが――現実で三十秒起きていた。耕三は困惑している。
「(おかしい!! いくら二階からの瓦礫だとしても、こんなに続く筈がない!!)」
落ちてくる感覚が無くなるとを感じた耕三は、ゆっくりと瓦礫を退かして廊下へと出る。背後を見れば、廊下の天井までが瓦礫に埋まっており、一部から光が差し込んでいた。外は明るい。そうだ、今日は午後二時からの開始だから明るいのも当然か。学校の中が薄暗いから、もう少し時間が経っているようにも感じたなぁと思いつつも、耕三は訂正する。
「(あの子は、ただの殺人鬼じゃない。何か武術を……少なくとも、子供らしからぬ力を出す技術を会得している。だが……”この威力”は使える)」
瓦礫を見た後に、振り返り走り始める。一つだけ、確認したい事があるからだ。そう、これは絶対に確認しなくてはならないこと。
真ん中の階段を昇り、左側へと向かって走る。音を鳴らして大我に居場所がばれても構わない。むしろ、バラした方がこちらとしては対処しやすいかも知れないと考えつつ、穴が開いている個所を見た。そこまで歩き、足を止め――額から汗を流し天井を――いや、天上を見る。
「――――――まさか、屋上から!?」
光が見える。屋上と思われる場所から真っ直ぐ真下まで一直線に落ちてきた。それも、耕三の場所を捉えて、壊しながら来る音が耳に入るよりも早く?
「(こんな事がありえるのか!? 普通の人間では、ない!?)」
「見ちゃったんだ見ちゃったんだ! わーいわい!」
背後から声がした。直ぐに振り返ると、大我が笑顔で、中央階段の前に立っている。遠くても笑顔だって分かる程に、分かりやすいくらいに……笑顔だ。
「おじさん! どうしてこんな事が可能なのか考えてる暇はあるのかな!」
鉄の棒を一定のリズムで壁を叩きながら歩いてきた。まるで死神の鎌を振るっているようにも見えるその一定の動きに、汗が止まらない。非現実的な事が起きているが、まさかこれが、彼の力なのか? とも考える。
「随分とヤンチャな坊やだね! おじさん吃驚したよ! まさか屋上から奇襲を仕掛けて来るなんて!」
「あっはっはっは!! 子供ってのは奇抜な発想をするもんだって、教えてくれたんだ!!」
一定のリズムが変わらない。耕三は、大我を恐ろしい存在として見ている。こんな事を躊躇なくしてくるとは……。やはり、おじさんとは相性が”良い”みたいだ、と。
耕三は靴を脱ぎ捨て、靴下を脱ぎ捨て裸足になる。床が冷たい。その冷たさが、冷や汗を知覚させてくれる。背中にも汗が流れていて、ズボンにも汗が……。これは削り合いではなく、お互いにタイミングを見つけて攻撃をする。そういう戦いになるだろう。
耕三も歩き始め、大我との距離を詰める。大我は歩く速度を変えず、鉄の棒の一定のリズムも変えずに距離を詰めて来る。これが怖い。
「(おじさん、接近戦はちょっとだけ自信あるんだけど、さっきのが使えるか? には少々考えなければならないか)」
耕三は両手を振り、ゆっくりと深呼吸をする。心を落ち着かせるには深呼吸が一番だ。足場は安定しているし、不安定な場所は歩き慣れている。だったら後は、近付いて、彼の攻撃を捌くしかない。
大我との距離を五メートル……四……三……二……一メートル――になったところでお互いに止まった。合図をしたわけでもアイコンタクトをしたわけでもない、お互いに、偶然にも止まったとしか言いようがない。
「僕は今、こう見えても凄く考えてるんだよねぇ。おじさんの能力を」
「それはこっちもだよ。絞るのに大変だ」
嘘。正直、あんな力は脅威でしかない。それが例え能力だとしても、こちらが出来る事は一つだけ。それを、やるしかないのだから。本当に参った。これだから……、
「戦いってのは、嫌いなんだ」
大我が鉄の棒を振り上げたのを見越した直後、耕三は構える。独自の――――空手の構えを。




