第六章 呼び石2
『今日も誰かが入ってくるようだね』
『反応的には……子供? この星の子供かな?』
『か~っかっか!! 子供に何を与えようというのか、分からねぇなぁ、ここの人類は!』
『どうせ、限られた能力しか使えねぇよ。相手が子供だったら猶更。今回は無視しとけ、無視』
『でも、過去にも同じように実験をしてきた方がいましたね。それを知っているとは思うんですが……』
『伝わっていないのだろう。だったら分からせるべきだ。何も起きないとな』
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大我は、扉の先に入る。そこは青く光る空間に、真ん中にはケースがあり、二十センチはある丸く青い石が浮いている。青く光って部屋を青い空間にしているのは、この石だろう。
「気を付けてね、大我君」
「はぁい」
そう答えた大我が少し歩くと、扉が閉まる。同時、背後で鍵が掛かる音が鳴り、赤外線が出現する。
「…………」
大我は鉄の棒を振りながら赤外線に触れる。すると、警告音が響く。これ以上は近付いてはならない。そんな事を気にせずに近付くと、警告音と共にケースの真下から格子状の鉄の檻がケースを守る様に出現し、ビリビリと電気が流れているのか、バチバチと鳴っている。
「簡単には近づけない……かぁ~~!!」
その場で座って、振っている鉄の棒で地面を叩く。未だに赤外線に触れているので、警告音は響いているままだ。
「力を与えてくれるって言うけど、どうやって与えてくれるのかなぁ~~。ねぇ、石さん」
声を掛けるが、何も反応がない。大我はつまらなさそうに地面を何度も叩き、叩き、叩き、一定のリズムで叩き続ける。中にも監視カメラがあるのか警告音が切られ、赤外線が消える。ただ、鉄格子だけは残っている。バチバチと音が鳴り、そこに鉄の棒による一定のリズムの叩く音が響く。
「どうやって力を与えてくれるのか聞いてないけど……アレかな? 興味なし、みたいな?」
石に向けて語り掛ける大我。だが石はなんの反応もない。
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大我と居て石がある部屋を映し出している別室には、警備服を着た男性達、女性達がいる。今回は何も反応が起きていない事に、何やらざわざわとしている。さっきまでの子供の行動もそうだが、石が全く反応を起こさない事に、新たなデータとして取り入れている。
その部屋に、所長と紀美代が入り、モニターを見る。
「これは所長」
「どうだね。何か反応はあったか?」
「いや、それが一切反応しないんです。子供相手には反応がなかったというデータがありましたが、この子供にも反応がありません」
「ふむ……。つまり、この石には意思があり、区別が付いているわけか」
モニターの前に立って腕を組み、ぶつぶつと喋る所長。それとは対称的に何処かざわざわする紀美代。大丈夫だろうか、何も起きないだろうか、と。今まで力を与える瞬間は、入って早々に石から青い光が出現し、何かの啓示を与えられたようにボーっとするらしい。だが、そんな事は起こっていない。
大我は鉄の棒で何度も床を叩き、じーっと石を見ている。それだけでの映像が流れる。それだけで、紀美代は大我の目が、何かを考えついたのかゆっくりと笑みになる。それにより、一定のリズムの音が大きくなっていく。
モニターを見ている者達は、その動きに注目をし始める。音が響き、大きくなり、大きくなり――大きくなり。振り幅も大きくなっていく。それだけで、画面が揺れ始める。
「……おい、なんかヤバくないか?」
一人の警備員が言葉にする。紀美代は、大我の性格を知っているわけではない。だが、触りだけは分かっているつもりだ。そう、その触りだ……。それだけで十分。
大我が思い切り鉄の棒を振り上げて落とした。瞬間――、
「!?」
青い空間を映し出しているカメラ全てが砂嵐に変わり、轟音と揺れと共に警告音が復活する。
「な、何が起きた!?」
「”呼び石”を囲んでいるゲージが緊急停止! 映像も映し出されない状況!」
「映像解析! 最後の映像は……振り上げた瞬間から全ての映像が砂嵐に変わってます!」
「緊急事態発生! ”呼び石”のゲージが止まった! 中に子供が一名!」
「所長! 中にいる少年を助けに行ってきます!」
所長が頷くと、数人の警備員が外へと出る。紀美代は動揺し始めるが、所長が肩を掴む。
「所長……」
「大丈夫だ。彼は、面白い事をしてくれる逸材なのだろう?」
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「壊せ壊せ!」
「破壊班に任せとけ!」
細長い棒が付いた工具が、赤く熱されている。それを持った完全防具の人間が二人。相当分厚いのか耐熱性があるのか、奥の方にゆっくりと入っていく。
その行動を繰り返す事、一時間。同じ道具をいくつも消耗して、上部が円形の扉の形に穴を開ける事に成功した。
「次!」
「おう!」
チェーンソーのような物を持ってきた完全武装の人間と交代し、刃を回転させて斬っていく。先に穴を等間隔で開けた為、彼らが想定していたよりもすんなりと入っていった。
それを約一時間、同じ道具をいくつも消耗し、開ける事に成功した。
「開いたぞ!」
「押せ押せ!」
他の警備員が、分厚い壁を押して中に入る。押した扉を左右へと広げると、廊下の光に照らされた大我が見える。一部の床が陥没している。そして――、
「大丈夫か? 少年」
「君が何かしたのは分かっていたが、まさかこうなるとは……。怖かっただろう」
「ん? いやぁ、怖くないよ。逆に、僕が怖がらせたかもね。ほら」
大我が指を指す。その場にいる者達がその指先を見れば――、
「……おいおいおいおい!? ちょっと待てよ!?」
一人の警備員が石の入っているケージに近付く。緊急事態発生で、ケースを守っていた鉄格子はあるものの、電気が流れていないのは目に見えて分かる。問題なのは、そこではない。
青く輝き、空中に浮いていた”呼び石”が――ケースの中に落ちていたのだ。
「”呼び石”が落ちてるぞ!」
「なに!?」
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一時間後、概ね回復した施設。落ちる瞬間の映像を何回も流し、その後に起きた事態を事細かく紙に記載し、分析をずっとしている。大我は椅子に座り、何が起きたのかの事情聴取を行われているが、本人曰く、
「ちょっと脅したら、落ちたよ」
との事。他の石には何の影響もないが、問題の”呼び石”と名付けた青い石は落ちた状態で、何も出来ない状況との事。呼び石の欠片には何の影響もないが、本体である”呼び石”は、もはや機能していないといっても構わない。これは、深刻な問題だ。
「しょ、所長……」
「分かっている。既に本部には報告済みだ。だが、子供にはなんの変化もなければ、あの一撃は凄まじいものがあるものの、”呼び石”と結び付けるには”今は”難しいとの事だ」
「……そうですか」
紀美代は、何かするだろうとは思っていた。取ろうとしていたとも発言していた。だが、力そのものが無くなっている”呼び石”が何の変化も与えていない時点で、大我には力が与えられなかった可能性が高い。
しかし、大我にはやってもらわなければならない。千葉 隼人を殺してもらわねばならない。だからこそ、参加できないなんてのは……勝手な話し、困るのだ。
「所長」
一人の研究員が所長と紀美代の元へと来る。
「どうした?」
「はい。あの子なんですが、あの子は何も知らないといっておりますが、力自体は受け継いでいるみたいなんですよ」
「――なんだと?」
「こちらの欠片が、あの子供に反応しています。何か力を得ているんでしょうが、それが何か分からないようなのです」
「……そうか」
所長が何かを考える。そして顔を上げる。
「今回の出場者は、彼で最後なんだろう?」
「はい。他の出場者は既に力を得ています、出場条件は満たしております」
「なら、彼が希望していたように、出場させよう」
「いいのですか? 何の力を得たのか分からないと彼が――」
「嘘かも知れない。それくらい分かるだろう?」
所長が事情聴取を受けている大我を見る。大我は笑顔で答えている。答えているが、何が本当で何が嘘なのか、分かって発言しているようにも見える。いや、分かっているのだろう。
「紀美代君」
「は、はい」
「本部の者には私から言う。今回も、問題なくコロシアムは行う、と」
「――はい!」
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コロシアムの概要欄。
・コロシアムが作られている場所には、呼び石の欠片が埋め込まれている。
・呼び石から力を得た人間は、欠片がある場所でしか発現出来ない。
・力を得られる人間は、犯罪者でなければならない。その理由は不明であり、犯罪者にしか反応しなかったから。
・コロシアム自体、とある犯罪者が作り出しており、誰なのか知ってはならない。知った者は問答無用で殺す。
・上記で書いた事は絶対であり、たとえ抜け道があったとしても、いつでも無効化する事が可能。
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一台の車の中。大我の住む住宅街へ帰宅する途中の紀美代と大我がいる。大我は笑いながら、
「あの石にはもう用はないや」
「……やっぱり、力を得たのね?」
「まぁね~~。だけど、まさかあぁなるなんて思わなかったよ。僕もちょっとだけ驚いちゃった。ちょっとだけね?」
「あんまり大人を舐めないでよ? 痛い目に会ってほしくないんだから」
「分かってるよ、紀美代さん。それより、僕は出場権が得られたみたいでよかったよかった」
「そうね。……お願いね、大我君。死んでほしくないのもそうだけど、千葉 隼人の事も……」
「分かってるよ。両方とも無事達成するよ。”死なず”に”千葉ナントカ”を殺す。任せてよ~~」
そう笑いながら答える。その次の週に、一回戦を突破した。




