第五章 呼び石1
「よぉ、大我。お帰り」
「あ、甲我お兄ちゃん。待ってたの?」
「おぉよ。大事な弟だからな、って父さんに言われてよぉ~。仕方なくだ」
夜の八時頃、紀美代が大我の家がある住宅街まで車で来ると、兄である甲我が住宅街に入る道を塞いでいるポールに座って待っていた。近くで止めて扉を開けた大我が、甲我を会話をしているのを、同じように車から出た紀美代が二人に近付く。
「少し遅れちゃったかしら?」
「大丈夫ですよ、どうせ明日は休みですから。どうだった? そっちは」
「そうだねぇ。今思うと、楽しめなかったかなぁ。だって監視されてるんだよ? すっごく!! 気持ち悪かった。見られながら戦うのって嫌だなぁ」
「あっはっはっは!! そんなもんだよ。俺も、大会の初戦をそれなりに突破させてもらったけど、やる気満々ガチ男と戦ったぜ。まぁ、所詮はその程度だったって話しだ」
この甲我という高校生も、何やら忙しいようだ。が、詮索するのは野暮だろう。
「にしても、お前はいいよなぁ~。こんな美人なお姉さんと一緒だなんて」
「び、美人? 私が?」
「そうですよ。こっちの亜寿沙なんて高飛車なだけで、可愛げなんてないんですから。大我、今からでも交換できね?」
「無理ですぅ~。僕の方は人殺しが出来る、お兄ちゃんの方は出来ないじゃん」
「お前なぁ~~……。そろそろ、そういう思考だけはやめておけよぉ? 切り替えが大事なんだよ切り替えが」
「昔大暴れした甲我お兄ちゃんには言われたくないよぉ~」
「それは……いや、確かにそうだけどさぁ」
微笑ましい? 兄弟の会話が聞こえる。この兄弟も色々と大変らしい。が、それが白濱家の特徴らしい。二人の言う曾お爺ちゃんの考えの根っこが埋め込まれているんだとかなんとか。
だからだろうか。あの石に近付いた時の大我の様子が変わったのは。
▼▼
今から数日前の土曜日。車で大我を連れて、都内にあるとあるビルの駐車場に入る。そこは白鳥警備(株)と言われるそれなりに有名な警備会社である。紀美代はそこの会社で事務員という名目で働いているが、実際は、とあるコロシアムで犯罪者達を戦わせて、何かをさせようとしている……もしくはしている者達の監視員として働いている。つまり、スカウトマンとしての仕事はあまりしてこなかった事に繋がり、今回は紀美代から所長へ直談判した形として、白濱 大我をエントリーさせた。
駐車場に入り、関係者以外立ち入り禁止区域を通過、隠れるように壁と壁に塞がれ一台しか置けない場所に停車すれば、そのまま下降を開始。エレベーターのように下がった。
「おぉ~、ハイテクだねぇ」
「えぇ、そうね。私も最初は驚いたわ。今となっては慣れたけど」
「都内にこんな場所があるなんて、曾爺ちゃんが生きてたら喜んでただろうねぇ」
下がっていく最中にランプが下から上へ、それを見ながらの発言。どれだけ無邪気な曾お爺さんだったのだろうかと思った。いや、内容的には無邪気ではないが……。
「今日は所長と、力を与える”呼び石”に会ってもらうわ。その後に日程……の前に、死んでも大丈夫かの意思確認があるわね」
「面白いよねぇ~~。死んでも大丈夫か? の意思確認とか。確認する前に殺すのが当たり前じゃない?」
「いや、その考えは物騒だからやめなさい」
「子供のうちは自由にしてもいいんだって、曾爺ちゃんが言ってたからね。自由に動くよぉ」
紀美代はシードベルトを外すと、その音を聞いた大我が同じようにシードベルトを外す。その数秒後、降下している感覚が停止し、前の壁が開けられる。紀美代が扉を開ければ、大我も勝手に開けて外へ。立っている場所は鉄だが、開けられた先は一本道になっている。
紀美代と大我がその一本道を歩くと、背後の扉が閉まり、移動する音がする。大我は振りかってさっきまで車があった空間が壁になったのを見る。
「私の車は別の場所に移動しているのよ。気になる?」
「いや、多分だけど……あの壁、破壊できるかなぁ~~って」
いつの間にか、手にはいつもの鉄の棒が持たれていた。紀美代は大我の頭を軽く叩く。
「あ、痛い~」
「甲我君から許可は得てます。変な事をしそうになったら、軽くチョップするようにと」
「甲我お兄ちゃんも心配性だなぁ。まぁいいけど。さぁ、行こう行こう!!」
鉄の棒を持ったまま歩き始める大我に、紀美代は小さく溜息をし後を付いていく。暫くは真っ直ぐ歩けばそれでいい。真っ直ぐ歩いていると、奥の方で鉄の扉が見える。
「あれよ」
「ふぅん。っていうかさぁ、さっきからこの道真っ直ぐ歩いているけど、左右でなんか研究でもしてるの?」
「……よく分かったわね。一応、この左右の壁の先は部屋になっていて、仕事をしている人達がいるのよ」
「そうなんだぁ~~。でもさぁ~~」
大我が途中で足を止め、背後を見る。それも笑顔で。
「観察するのは良くないよねぇ!! 見えてるよ!!」
▼
学校の教室程の大きさに設置されているモニター室では、こちらを見ている大我の映像が映し出されている。
『なんで監視しているようにしているのかなぁ~~。こっちから探し出してもいいんだけど!!』
「……なんで分かるんだよ、この子供」
警備服を着ている男性が、左手で頭に触れ、見えない位置に設置している筈の監視カメラを見つけられた事に驚いている。そこには男性陣が二人、一人は帽子を被り、頭に触れた男性は帽子を机の横に掛けている。
「光の反射か?」
「あぁ~~。そう言えば、前にありましたね、そういうのでバレたの。てか子供がそれを見破るんですか? 話しを聞いた時は酷な事を……とスカウトマンっていう職業には嫌々な気持ちがありましたけど……」
「ただの子供じゃないって事だろうな。ただ中には、中学生での出場者もいたくらいだ。結果は駄目だったが、一応は最年少更新をしたな」
二人が小さく笑いながらモニターを見ると、スカウトマンしか画面に映っていない。
「あれ? 子供がいない?」
そう発言した瞬間、モニターが次々と砂嵐になる。それも、一本道全ての映像が、
「な!?」
「他のカメラに切り替えろ!」
「りょ、了解!!」
ボタン操作をして画面を切り替えるが、全てが砂嵐になっている。それだけで緊急事態だと分かる。
「マジかよ!? まさか、全部か!?」
「ええい! 緊急メンテナンスだ! 整備班に連絡しろ!」
「はい!」
▼
紀美代は、まるで弾丸の様に飛び出したかと思えば、色々な場所の壁を叩いて奥へ行き、戻ってくる大我を、驚きの顔で見ていた。この道には隠しカメラが設置されているのは紀美代は知っていたが、まさか最初っから知っていた? と考える。
この行動力は安直のように見えるが……実際は、目的の為ならば手段を選ばない感じだろう。そう紀美代が考察していると、大我は紀美代の前で止まり、一息付く。
「ふぅ~~。スッキリ!」
大我の背後の壁や天井からは煙が出ていたり火花が散っていたりと、やりたい放題というべきなのか……。いや、大我が嫌がっている事を実行したに過ぎないのか、とも考える。
「行こうよ、紀美代さん」
「……えぇ、そうね」
振り返り、扉を開けた先には、研究所の様な通り道が出現する。左右の部屋では何かの実験をしているのか、薬品と石があり、分析しているのが大我の目に映る。
大我はそれを見ようと背伸びするが、紀美代はそんな大我の手を取り、軽く引っ張る。
「あれは例の石の残骸ね。けど、目的はここじゃないから、行きましょう」
「はぁ~~い」
手を引っ張られて先を急ぐ紀美代。ここに居たら、きっと興味本位で色々とやりそうではあるから、そうはさせない為に、やや強引だが引っ張ってしまった。内心、ごめんなさい、と謝りながらも、例の部屋へと向かう。それは、力を与えると言われる……”呼び石”だ。
数分後、研究室から離れて完全な一本道に差し掛かる。その一番奥に扉があり、一人の男性が立っている。紀美代は、大我を連れてその男性の前まで行き、止まる。
「待っていたよ、紀美代君。そして君が例の子供だね?」
「おじさんが所長さん?」
「そうだ。おじさんが、ここの所長さんだ。よろしくね」
紀美代が手を離せば、大我は鉄の棒を軽く振りながら所長を見ている。所長は身を屈めて目線を大我に合わせる。
「さて、ここから先は”呼び石”と我々が呼称した不思議な石がある部屋だ。そう簡単には壊れない防弾ガラスで囲まれてはいるが、赤外線も張らせてもらっている。君はどうやら、行動派みたいだからね? 注意させてもらったよ」
「そっかぁ。分かったよ」
とても大人しく答える大我に、紀美代は内心、大丈夫かしら……と思う。所長は何を考えているのかは分からないが……。
「さて、大我君。ここから先に行く事は、これから厳しい戦いが始まる。子供の君には荷が重すぎる。死ぬかもしれない。それでも、行くかね?」
「死ぬことを前提には考えないよ。生き残れば、勝ちは勝ちってのも考えないよ。邪魔するなら、壊せばいいんだし。ね!」
笑顔でそう答えた。それには所長も満足な顔になる。そうして所長は立ち上がり、扉に向けて一枚のカードを懐から出してかざす。すると扉の鍵が外れたのか音を鳴らし、自動で開く。
「では行きたまえ、大我君。君が勇気ある戦士であるならば」




