第四十四章 決勝戦終わりにて
白濱 大我vs千葉 隼人との戦いは、白濱 大我の勝利となった。その勝利に一番喜びを強く表したのは千波 紀美代だった。そんな泣きながら、勝ち負けよりも生きている事に喜んでいた紀美代に、大我は笑いながらその力で紀美代をお姫様抱っこのように持ち上げて、会場の外に出た。
死体となった千葉 隼人は、そのまま死体処理班に引き渡される。
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「ぶっ殺したよぉ、千葉ナントカ」
「ありがとう……、本当にありがとう、大我君」
涙を拭き終えた紀美代は大我のお姫様だっこから降ろしてもらい、お互い見て笑う。
「いやぁ~~。まさか子供が勝つなんて、驚いたぜ。って言いたいところだけど、君の実力からして負ける気はしてなかったぜ?」
「大我君。この司会者さん、千葉 隼人が何かをする度にハラハラドキドキしていたみたいですよ?」
敗北した側の初老のスカウトマンが笑顔で言うと、司会者が両手を振って否定する。
「そ、そんなわけないだろ!? こっちは平気で見ていた――あ、おい大我君! 何笑ってんだ!」
「だって慌ててるんだもん。別に、いいけどねぇ~~」
頭の後ろで腕を組み、死体として運ばれる千葉 隼人を見る。その視線に他の三名も見る。
「強かったけど、勝てたなぁ~~。あの人、考えている事とか凄く多そうだったから、なんとか力で少しだけ乱して、言葉でかく乱できたのが大きかったなぁ。無理だったら、もっと攻めてたよぉ」
大我が怠そうに言う。外から見ればイケイケだったが、やはり精神を削ったらしい。そんな千葉 隼人も、最後の最後まで大我の力の前に敗れた。それも、最後は本当にその力で。
『おめでとう、大我君』
モニターから一人の男性、龍宮寺 大門が大我に向けて賛辞を呈した。
「あ、大門のお兄さんだ。勝ったよぉ~」
『分かっているよ。盛大に優勝したとは祝えないが、ぜひ社長室に来てほしい。そこで賞金を渡そう』
「うん、分かったぁ~~。そこでお話ししたいんだろうねぇ、大門のお兄さんは」
『そこまでお見通しだったか。君は先読みの天才なのかな?』
「先読みに天才もなにもないよぉ~~。僕だって必至だった、だけ~~。それに最後だって、大門のお兄さんも気になっているように、能力を言おうとしたよ? 最後の最後に絶望を渡そうとしたし。だけど、拒否されちゃったんだぁ」
『それも含めて、社長室に来てほしい』
「いいよぉ~~。紀美代さんも一緒ね?」
「え? わ、私も?」
『勿論だよ。是非とも来てほしい』
大我が笑顔で紀美代を見ると、紀美代は笑みで返す。
「それじゃ大門の旦那。俺は今日、このへんで。後始末をしないと」
『あぁ、助かったよ。それじゃあまたね、大我君』
「ういよぉ~~」
映像が消えて、司会者が自身の能力を消す。
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監視室では、先程まであった盛り上がりがなくなり、ぞろぞろといなくなっていった。今いるのはこの場で仕事をしている者達と、所長だけだ。それでも、残った者達の熱はまだ残っている。
「大我君、力技で能力をやぶったのかねぇ」
「病気とは言うけど、彼にとってはプラスになっているようだし、千葉 隼人も想定外の連続だっただろうなぁ」
「能力バトルだってのに、力で挑んでいたようなもんだろ? 最後は能力を使ったって言うけど、本当かねぇ~」
「私は使ってないに一票~~。全部、先読みだと思いま~す」
「俺もそれには賛成だな。ただ最後、能力名を言おうとしたらノイズが入っただろ? あの瞬間だけ、実際に能力が使用される初動の反応があったんだよな。――ほら、ここだ」
「本当だ。一本だけちょこんと出てる。つまり、本当は使おうとしたけど使えなかったって事? うわぁ、大我君の能力が気になる~~」
こうも、今も勤務時間だというのにお喋りをしている。まぁ、最後の最後まで会場の片づけを見て、それが終われば暫くはお休みを頂けるから、最後位はいいだろうと考え、
「私から言わせてもらえば、彼がまた出場する時は……あまり彼に肩入れしない様に」
所長の言葉に、全員が止まり、ゆっくりと所長を見る。
「君達、第三回戦から、大我君ばかり応援していただろう? 公平にしたまえ」
別の場所から、所長もでしょ~~、という言葉が聞こえたが、無視してやった。
「(おめでとう、大我君。君は素晴らしく、楽しませてもらったよ)」
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数十分後、白鳥警備会社の社長室にて、大我と紀美代、そして大門の三人だけがソファーに座っている。
「えっと……他の三名の方は?」
「この場合は、私だけが対応するようになっているよ。凱汪がいると、大我君喜びそうだし」
「つまらないのぉ~~。まぁいいや。それで、今回の優勝賞金っていくらなの? 僕聞いてなかった」
「そうだったね。優勝賞金は毎回、どのくらい賭けられたかで決まるんだが……」
大門が懐から何かを取り出そうとするが、紀美代が手を前に出した。
「ちょっと待ってください。賭けってなんですか?」
「……君は知らなかったのかい? このコロシアムは大勢の富裕層の人が見ている。こういう悪質な戦いをみたいと思っている者達がね」
「それは知っています。ただ、賭けをしているなんて知りませんでした」
「最後の試合だけさ。そこで、富裕層から君に渡される金額をそれぞれ提示し、その平均を渡すようにしてある。君の場合、毎回試合を楽しませてくれたのか、一部の人が物凄く金額を出してくれてね。正直、この場で渡せないんだ。だから、紙として君に見せようと思ってね」
懐から一枚の紙を取り出し、それを紀美代に渡す。
「見て見たまえ」
「一緒に見よ~~」
紙を開き、紀美代と大我が金額を見る。その金額に、紀美代の手が震え始める。
「こ、こここ、こんなに!?」
「そうだ。私も困惑したが……それが実際に大我君に支払われる金額だ。ただ、大我君。君は通帳を持っているかい?」
「お母さんに聞かないと分からないかなぁ。今度呼んでくるよ」
「そうして貰えると助かるよ」
大我と大門が楽しく会話するが、紀美代は何度も金額を確認している。桁を間違えた? と独り言をブツブツと言うが、大我は笑みの表情で、
「まぁ僕が欲しいのは、こっちじゃなくて、石なんだけどなぁ~~」
「そういうと思ったよ」
大門は丸い窪みがある台を置き、そこに二十センチはある丸く青い石を置く。それを紀美代は見て、ゆっくりと目を見開く。
「よ、呼び石!?」
「そうだ。呼び石。龍宮寺が昔から大切に保管し、欠片となっているものは実験の為に使われている。この石だが、私の父上であり龍宮寺の頭とも言える人から、大我君に渡すように言われたよ」
「そうなんだぁ。それってさぁ~~、まさか誰かが動いた?」
笑みの表情を崩さずに大我が聞くと、大門は頷く。真剣な顔で。
「白濱 大我君なら、問題なく使用してくれるだろうという、父上からの言伝だ」
「龍宮寺のトップから……大我君へ? それって、どういう事ですか?」
紀美代が紙をテーブルへ置き、真っ直ぐ大門を見る。
「問題なく使用してくれるというのは、それじゃまるで、龍宮寺のトップが大我君を知っているような発言じゃないですか」
「知っているような……ではなく、知ったらしい。白濱家をね?」
「白濱――家? 彼の家柄ですか?」
「そうだ。私も詳しくは教えてくれなかったが、白濱家に対して、そして今回の戦いの献上品としてお渡しするとの事だ。他にも呼び石はいくつかあるが、その中でも数個、届けるとのこと」
大門が大我を見れば、大我は何かを考えながら、一回だけ頷く。
「成程ね、分かったよ~~」
「そうか。分かってくれたかい?」
「え? え? わ、私だけ置いてけぼりなんですけど……」
「まぁまぁいいからいいから~~。今度、お母さんを連れてまた来るからね、大門のお兄さん」
「えぇ、お願いしますよ?」
紀美代だけを置いていって、話しを進める二人に、紀美代は二人を交互に見た。そして、
「なんで私だけおいてけぼりなのよぉ~~~~~!?」
叫んだ。
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〇〇〇前、二十センチはある丸く青い石の前で、大我はケースの中に入っている石の前まで歩き、ニンマリと笑った。
「僕を無視しているでしょ? 引きこもりの駄目な存在達」
『――――――』
「あ、やっと反応した。やっぱり無視したんだ。まぁいいや。僕に見合う力を頂戴なぁ~~。僕さぁ、殺さないといけない奴がいるから」
『――――?』
「そうそう」
『――――――――――――、――――――――――――――?』
「複数人いるんだ。まぁどうだろうねぇ。そこは判断していいよ。ほら、ほら!」
両手を開いて少しだけ下がる大我に向けて、青い光が大我を包む。すると、青い光が大我の方に集中し始め、吸い込まれ始める。
『―――、――――――――――――――――!?』
『――――、―――――――――!!』
『……――、――――――――、――――』
「会話は電気信号みたいだけど、一応は聞こえるんだ。不思議~~。まぁいいや~~」
『……―――、―――――――。――――――、――――――――――――』
「いいよぉ~~」
短い会話だが、濃縮されたような言語とも言えぬ音に大我が答える。
この数十分後に、大我は救出された。




