第三十八章 千葉 隼人との面会
千葉 隼人は、ある事で悩んでいた。それは、次の対戦相手である白濱 大我という少年が面会に来たというのだ。実際はスカウトマンと一緒に来たらしいのだが、話せるだけ話すようにという、特別処置のようなモノを貰ったんだとか。
本当に、龍宮寺という一族は何処までもイカレてやがるな、と千葉は考えたが……千葉は、これを良しとした。向こうも知りたがっている頭のイカレた子供であるんだろうと、期待を持って。
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面会室。と言ってもプラスチックの仕切りがある為、実際は互いに掴み合いは出来ないが、初老のスカウトマンと――例の子供、白濱 大我と千葉 隼人が対面を果たした。
子供の為に特別に高い椅子を用意し、そこに座った大我。初老のスカウトマンは壁側まで行き、そこに椅子を置いて座り、どうなるのかを見守るように見てくる。
「(――なるほどな。出会って見て分かった事があるなぁ。こいつは、俺を殺しに真直ぐに来た人間だ)」
何かを期待してきたような目をしている――品定めをしに来ている――どういう人物なのか身に来ている――、
どれにも属さない、真っ直ぐとこちらを、目的の為に見ている目だと分かった。
「言わなくても伝わってる感じがするのって、面白いね。これってさぁ、同じ殺人者だからかな? 同じ種族は、目と目で通じ合うらしいからさ!」
「お前はそういうタイプか。だったら俺とお前はちょっとちげぇよ。お前は目的を持って殺害をしてきた人間で、俺は目的を作って殺害をしてきた人間だ。お前がここに来たのも、何かの目的を持ってなんだろう? 俺はお前を殺す事に決めたからよぉ、それを教えてくれよ」
「千波 道只」
その名前で、千葉 隼人は眉をピクリと動かした。その動作だけで、大我は笑みを作る。そうか、そうだったのかと千葉は歯を剥き出しにした笑みにし、
「あの男の、俺が初めて敗北した男であり、俺が殺した人間の復讐か!!」
「復讐が復讐を呼ぶって、こうなんだねぇ、千葉ナントカさん」
千葉は左手で顔を覆い、大きく笑う。それは面会室全体に響く笑いだ。大我は笑みのまま動かず、初老のスカウトマンはじっくりと、この面会の行く末を見ている。
「成程なぁ~~~。はぁ~~あぁ~~、理解した理解した。もう12年前か? 確かあいつには妹がいたっけなぁ。そいつか、そいつの計らいか。だとしたら飛んでもねぇ女だな! 俺が生かされている理由だって、龍宮寺の考えだから何にも言えねぇけど、もしこれが奴等の考えだったら相当な時間を有したよなぁ。俺だってもう結構な歳だ。にも関わらず俺を殺す為に、お前が生まれた年月と同じ数の年数に殺されるってか? やべぇなぁ、って思わねぇか? 白濱 大我」
「僕もそう思うよ、千葉ナントカ。それに君はやっぱり頭がいい人間だ。僕達がこうして出会って喋っているだけなのに、まるでもう戦っているかのようだよ。君って相当の知能犯だよね? 連続殺人犯っていうわりにはさ、雑さが目立たないんだよね~~。君、こういうコロシアムがあったの知っていた系でしょ?」
その言葉に、初老のスカウトマンが少しだけ、ホンの少しだけ動く。
「大我君、今の発言はどういうことかな?」
そしてつい聞いてしまった。この……殺人者同士の会話に入ってしまった。
「この千葉ナントカさんさぁ~~。コロシアムの事を何処かで知ってたみたいだよぉ~~? それでやったんでしょ、連続殺人事件を。そうして捕まれば、こういう組織に見つけられる可能性が非常に高いと踏んだでしょ?」
「なんでそういう事が分かったのか、俺には分かるぞ? お前も俺の立場でコロシアムの事を聞かされたら、俺の考えならきっとそれに乗るために鍛えて、連続殺人犯として殺し、時期を見て見つかる行動をとったと知っただろうと」
千葉の言葉に、初老スカウトマンは流れてくる汗を、懐から出したハンカチで拭う。
「しかし、確か暴力沙汰だった筈だ、千葉 隼人は。元プロレスラーで、当時でも人気だった軽快に動ける、強き戦士として登場した筈だ」
初老スカウトマンの言うように、千葉 隼人は元プロレスラーであり暴力沙汰で逮捕され、逮捕したのが千波 道只だった。それは初老スカウトマンが後に知った事ではあるが――、
「その前に、連続殺人鬼として有名人だったでしょ? 君。多分だけど日本じゃなさそうだ」
「正解。俺はヨーロッパで連続殺人を行ったよ。ちょっとした腕試しだったけど、まぁまぁ楽しめた」
千葉 隼人からとんでもない発言が出てきたことに、初老スカウトマンは驚いた。まさか、暴力沙汰ではなかったと? それを知っているから、候補に上がっていたのか、彼は、と。
「日本じゃないからって駄目でしょ~~、人殺しは。日本の恥だね、恥」
「お前に言われたくねぇよ、クソガキが」
「そのクソガキに殺されるんだよ、君は。僕がここまで来たのはハッタリでもなんでもないって分かってるんでしょ? というより……持ってるね? 君」
「さぁてね、どうでしょうか」
二人の会話に付いていけなくなった初老スカウトマン。二人が睨み合って一分程経った頃に、大我が顔を反らして初老男性を見る。
「もういいよぉ~~」
「……いいのかい? いや、いいんだろうな。私には分からない世界だよ」
「よぉ、じいさんよぉ。今回の面会は良かったぜ~~。次会う時はコロシアムになるけどよ、会わせてもらって良かったぜぇ。これで、何の疑問もなく殺し合いが出来そうだ」
「そだねぇ~~」
大我が椅子から降りて、勝手に部屋から出て行く。外では監視員がいたのだろう、会話を交わしている。初老のスカウトマンは立ち上がり、
「君達が会った場合どうなるのか分からなかったが、まさかここまで通じ合うとは思わなかったよ」
「俺も驚きだ。だが、俺はアイツをただのガキとは思わない。一人の殺人鬼として、俺はソイツを殺すつもり……いや、殺す。それだけは覚えておけって伝えておけ。向こうのスカウトマンにもな」
「分かった。その言葉に従おう」
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千葉 隼人との面会の後、大我の様子が一変した……というわけではなく、いつもと変わらずに学校へ行き、楽しく遊び、勉強をして帰ってくるを繰り返している。
しかし、一つだけ変わった事があるとすれば、一人で何かしら特訓を、白嵜公園で行っているという事だ。いつもいるキャシーと紀美代の二人は、連続パンチや連続キックをしながらも無理な体勢からのパンチやキックといった、何かしらを想定したパターンの攻撃を何度も反復練習している。
「え? 大我君が、千葉 隼人を道具として認めた?」
「えぇ」
よく分からない反復練習の説明をし始める剣司に、紀美代が質問をした。
「道具として認めたとは、どういう事ですか?」
「大我は基本、武器を使用して戦います。それはある意味、自分に制限をかけているんですよ。己の力で戦っては、本人曰く、つまらないですからね。けど今回の相手は、どうやら素手や素足で戦っても問題がないと決めたんでしょう。それに、武器を使用しての動きもそうですが、素手素足による動きも今のうちに把握しておきたいというのが、大我の考えですね」
「……大我君、今でも十二分に強いと思いますけど……」
「その千葉 隼人。過去にヨーロッパで連続殺人を行なったと聞いてきたと大我から聞きました。それで余計に火が付いたようで……」
剣司が落ちている石を掴み、訓練中の大我に向けて軽く投げると、その場で爆散する。それには紀美代とキャシーは少々驚くが、剣司は小さく頷く。
「余計な力が入ってしまっているので、それを解消する為の運動でもありますね」
「余計な、力が?」
「凄く楽しみなんですよ、その千葉 隼人との殺し合いが。全く、どうして弟達はこうも好戦的になってしまうのか。甲我も、お嬢さんの為に色々と動いているみたいですが……いやはや、なんとも。俺も動いてはいるんですけどね、どうも上手くいきません」
「剣司さんも凄く大変な立場だと思いますが、ここに居ていいんですか?」
「そろそろ俺の方も決着がつきそうですよ。人間、一刀両断すれば終わりですから」
最後の言葉だけ、紀美代とキャシーは寒気を感じた――のを察知したのか、大我が剣司に向けて飛び蹴りを放った――ので、それを難なく受け止める。
「今ちょっとだけ本気出したでしょ!」
「思い出しただけだ。そろそろ休憩にしたらどうだ? ずっと動き続けていると、バテて倒れるぞ?」
「大丈夫だよぉ~~。ちゃんと考えてるか……ら!!」
もう片方の足で蹴りを放つと、剣司ももう片方の手で受けて、大我が離れるのを見る。
「それならいい。自分の事は自分の事でなんとかしろ、だからな」
「分かってる分かってるぅ~~。剣司お兄ちゃんは心配性だなぁ~~」
「兄だからな」
この二人の関係性は不思議だが、いいなぁと思う紀美代を、キャシーが小さく笑う。
この次が、最後の戦いとなる。最後の平和とならないことを祈って。




