第三十七章 千葉 隼人という男
とうとう、決勝戦の相手がお互いに決まった。白濱 大我vs千葉 隼人の対決。
この戦いは、見ている者達から見ても期待が持たれている戦いだった。それは誰もが、白濱 大我に対しての評価の高さを狙っているからこその、期待の声が龍宮寺 大門の元へときている。
能力をしようしない子供がここまで勝ち上がってきた。病気を克服して戦いへと赴いた戦士だ。人を躊躇いもなく殺すその所業には悪魔さえ目を逸らすだろう。
一方で批判的な意見もあった。子供が可哀想だ、子供に対して銃を使うとは、ペドフィリア相手に小学生をぶつけるなんて、と様々な意見……いや、お言葉があった。それが今では、一切ない。
つまりはそれだけ、白濱 大我という少年が未知なる位置にいるという事だ。
そこには、千葉 隼人も方眉を上げていた。
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「ガキが決勝戦に? なんの冗談なんだ? オイ」
面会室で相対するスカウトマンに対して発言するのは、決勝戦の相手である千葉 隼人だ。
囚人服にぼさぼさとした茶髪の、ギラギラとした目を持つ顔の男。その男と面会しているのは、眼鏡を掛けた初老のスカウトマン。杖を突きながら白い口髭を触りながら、
「そのままの意味です。彼が、決勝戦まで上がってきました」
「っは! 急につまらなくなったなぁ~~、コロシアムもよぉ。ここ数年間で段々とショボくなってきたが、とうとうここまで下がったかぁ~~。悲しいなぁ~~、なぁ? じじい」
「確かに、悲しいですなぁ」
面会室にて渡された資料を見ている千葉は、戦う道具や対戦相手の情報を見ている。
「(つったが、引きこもりの爆弾魔、盗人、殺し屋の三人を倒してここまで来たって事は、ある程度強い能力を得ているわけか。四人目は……不戦勝? 逃げたってのか? くそだせぇなぁ。けどまぁそれは置いておいて……特に、盗人以外の二人を相手に勝ったのは、ちょっとは考えねぇとなぁ)」
そう考えながら、ページを捲っていく。
「(一人は知っている。爆弾魔であり、俺に命乞いをした鼻たれ小僧だ。あいつの能力は厄介ではあったが、攻略が出来ないわけじゃねぇ。次の盗人相手だが、こいつは俺でも倒せそうだな。だが殺し屋か……。コイツを倒したって事は、殺し屋の能力が弱かったからか? だが持ち込み武器が銃だとすれば、それに関する事になるよなぁ……。つまりそれらを回避する力を有している……という事か?)」
千葉 隼人が頭を働かせている。
「(このガキ……白濱 大我は、ただのガキじゃない。だとするならば、身長差というのがデカいな。俺の身長は185cmで、このガキは145cm、40cmの身長差がある。銃相手でも、この身長を活かした可能性が高いな。いや、待て? 二回戦相手の男は、空手? なら低身長相手でもアドバンテージが取れるだろう。それを下しているという事は……こいつは、並大抵の身体能力をしているわけじゃない。何か秘密があるな?)」
白濱 大我という少年自身に何かタネがあると考え始めた。千葉 隼人は決して知能犯ではない。むしろ力を誇示した戦い方をしている。それは初老スカウトマンも知っている事だ。ただ今回に限っては、この千葉 隼人も終わるのだろうかと考えてしまう。
「君は、この子供をどう評価するんだい?」
「評価? 変わらねぇよ。どうせ能力任せで勝ってきたクソガキだろ? だったら俺には関係ねぇよ。いつも通り、ぶっ殺すだけだ」
そう言って千葉は、資料を面会室の仕切りの下から滑らせて返す。
「そうかい。だったら、ゆっくりと決勝戦が来るまで待ってるだけだね」
「いつも通りだよ。むしろガキに伝えておけ。お前を遠慮なく殺すから、覚悟だけはしておけってな!」
その夜、千葉 隼人は独房で一人、月明かりに当てられながら考える。考えている事は、白濱 大我という少年だ。
「(今回に限っては、子供云々って話しじゃねぇな。この戦いに出ている時点で、あのガキも何かしらの犯罪者だが、ネット関連なのか……盗み関連なのか……殺人? まさかな。いや、それも視野にいれねぇとな)」
腕を振りながら、上が色々と動いているのか? とさえ考えてしまう。
「殺人だとして、子供の殺人としての能力が身長差を埋めるとしたらどうなる? 一回戦殺していると書いてあったな……だったら殺しか。だが二回戦と三回戦を生かしているのはなんでだ? 殺すには値しないというわけと考えたからか? いや、だが……。――おかしい話しだな。どうしても、あのガキのプロフィールには虚偽しかねぇとしか考えられねぇ~~。だったら、子供に化かされているな? 上の奴らは」
立ち上がり、外を見る。ゆっくりと目を細めながら、手を広げる。
「だとしたら、ただのガキじゃねぇ。最初から殺す気でいかねぇとマズいな。……っち、面倒な最終決戦になりそうだぜ」
勢いよく横になり、戦いの日まで待つ事にする。いくら考えても、こちらはただ戦うだけなのだから。
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「お前を遠慮なく殺すから、覚悟だけはしておけ……だそうですよ?」
「そうですか……。言伝、ありがとうございます」
白鳥警備会社にて、休憩室で千葉 隼人のスカウトマンである初老のお爺さんに聞いた紀美代。
「ただ、話は聞いていますよ。皆、白濱 大我君を注目しているようで」
「そう、みたいですね。彼はまだ未知数の力を有していますから」
「資料では記載されていない事でも、私には伝わっています。彼の肉体の秘密を」
「えぇ。私も少し調べましたが……相当きついみたいですね」
「それを承知で生きている彼は、とても精神力と――心が強い。先程、ここへ返ってきた時に渡されましたよ。例の子供からだと言えば分かると」
一枚の手紙が懐から出されて、紀美代に渡す。紀美代は受け取って紙を広げる。そこには、千葉 隼人との面会希望という簡単な小学生の文字で書かれていた。
「こ、これって……大我君が? 来たんですか?」
「さっきね。この会社の前で、外に立ってたんだよ。私を見るなり一枚の紙を渡してね? 笑顔で何も言わずに、私の言葉にも返答なしで。彼、分かっていたんだろうね? 私が千葉 隼人のスカウトマンだと」
簡単に書かれているが、これは明らかに……品定めに向かおうとしている。どういう人間なのか? それを考えている行動だ。
「大我君ったら、本気ね。本気で私の願いを叶えようとしているわ」
「聞いているよ。君の遺恨……というべきなのだろうなぁ。今となってはなさそうだが?」
初老男性の言葉に、紀美代はギクッとした。確かに……、
「確かに、今となってはないのかも知れません。私は、昭二さんから色々と聞かされた人間でしたが、その時は怒りは当然ありました。ですが」
紀美代は初老男性を見る目が優しくなっている。
「今は大我君が無事であることが一番大事です。それが芽生えたのは、三回戦の戦いでしたね」
「ほう? 確か、スナイパーの女性でしたな」
「はい。その時に、凄く心配しました。殺されちゃうんじゃないか、撃たれて痛い思いをしちゃうんじゃないのか、と。けど、決めた事を心の支えに無理矢理させて、ここまで来ました。ですが今は、大我君が棄権してくれることを願っています」
「棄権、ですか」
「はい。ただ彼は、私の願いを叶える為にここまで来た……と言えばいいんでしょうね。それが聞かされたのは、ここの上層部とお話しをした時でした」
とても嬉しかった。心から嬉しかった。涙が出そうになるほどに、真っ直ぐだった。
「そんな彼の歩みを、私が押した歩みを引き留めるのは、違うのでは? と考えています」
「……確かにね。私だったら止めるよう言うけど、君の立場や彼の考えを優先すれば、彼は君の願いを叶えるために動いているだけだろうからね。それでいいんじゃないかな?」
「……お優しいんですね?」
「私が優しい? まさか! 殺人鬼と子供を戦わせようとしている状況を止めるのが本来の役割ではありませんか? それを私が選択していない時点で、私は優しくはないですよ。もはや、こういうシステムにどっぷりと浸かってしまった……愚かな人間ですよ」
そういいながら、杖を小さく叩く。
「さて、お互いに愚かな人間として――」
「はい。愚かな人間として――大我君の願いを叶えてあげましょう」
一枚の紙に書かれた事をこなす。明日から行動しよう。そうすればきっと、彼は答えを見つけてくれる。
千葉 隼人という人間の攻略法を。そう思う。
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白嵜公園では、鉄の棒である一郎と二郎を地面に立てて置いて、その上に乗って月を見ている大我がいる。その傍にはキャシーがおり、温かい恰好をしている。
「大我君。会いに行くんでしょ? 決勝戦の相手に」
「そうだねぇ。最後だからね、どういう人間か見てみないと」
キャシーは時々、大我の笑顔が無邪気であって、無邪気じゃないように感じる時がある。それは、私が喫茶店で感じた時と同じような……あの嫌な空間。アレがいまだになんだったのか分からないのだ。
が、今となってはどうでもいい事であって、温かいお茶をゆっくりと飲むだけ。
「ちゃっちゃと勝って、紀美代さんの願いを叶えて、キャシーさんの願いも叶えないとねぇ」
「え? 私の願い?」
「うん。欠片でしょ? お兄ちゃん達に任せてはいるけど、僕にも出来る事はあるかなぁと思ってさ。それに……」
大我がキャシーを見れば、優しい笑顔。
「楽しい楽しい時間が無くならない様にしないとねぇ~~」
「……なんか、戦闘狂みたいな発想ね~~」
「受け継がれし心構え、です!!」




