第三十六章 準決勝にて下された判断
白濱 大我と黒井 正弘との戦いでは、大我の敗北となった。本人による降参宣言である。しかし、コロシアムにおいて必要な事が、大我の頭の中で作り出された意表を突く戦いに、三回戦と同じく準決勝でもその智謀を見せた。
そして何よりも、今回の戦いの試合記録は、試合終了前では勝利者だったが、試合終了後では死亡者扱いとなり……協議の結果、不戦勝という形に取る事にした。
その判断をしたのは、龍宮寺 大門である。
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「大門のおじさん、ありがとねぇ~~」
『あっはっはっは。お兄さんって呼んでほしいかな。まだまだ、若くいたいし。それにしても、君は本当に恐ろしい子だね?』
「あぁ、あれ? 傑作でしょ~~。今までの罪を清算するには、現実的には生かしておくのがベストなんだろうけど、多分アレは更生しないし、どう頑張っても逃げだしそうな雰囲気があったからね。だったら希望を見せてからどん底に落としておかないと。それと~~、千葉ナントカに伝えられる情報がこれで、変わるでしょ? 大門のお兄さん」
『確かに。記録上は不戦勝扱いだから、黒井 正弘は逃げた存在とされているな。記録上も残らない。いや、記録にも記憶にも残しておきたくない出場者だったから、私から言わせてもらえば、いい判断ではあった。大我君から提案してくれてありがとう』
「いいよいいよぉ~~。お礼は、呼び石の欠片でいいよ?」
『それも視野に入れているようだが、私のルートでは手に入らないかな?』
その言葉に、大我は考える。司会者、紀美代はそんな姿を見つつ、死亡しバラバラ死体となった黒井 正弘をそのままの姿で、一つのパーツを落とさずに回収している人達を見る。話しでは、死亡届として警視庁に送るとの事らしい。並びに、家の情報をリークするとの事だ。
彼が敗北したらそのつもりだったのだろうか……。そうであってほしい。
「仕方ない。お兄ちゃん達に任せるとしよう。大門のお兄さん、ありがとねぇ~~。そんじゃ、千葉ナントカってのをぶっ殺すために、資料頂戴よぉ~~」
『資料なら既に、会社の方に用意させているから、紀美代君から受け取ってね?』
「了解! じゃねぇ~~。紀美代さん、行こ?」
「う、うん。あの、龍宮寺社長。ありがとうございました!」
『なに。ルールを適用させたのは私の判断だ、気にしないでくれたまえ。それじゃ』
そこで画面が消える。司会者は一息つき、
「にしても、よくやったなぁ。最初、死亡した人間が勝利者になった場合、試合終了後はどうなるのか? なんて質問をされた時は、流石の俺も分からなかったぜ。言っている意味を最初理解できなかったが、途中で分かった。けど、今度から俺にも分かるように説明してほしい。これでも俺は馬鹿なんでな」
「司会者のお兄さんは馬鹿じゃないでしょ。頑張ってるし。本当の馬鹿は、千葉ナントカだよ~」
そう言って紀美代を引っ張りながら車へと向かう。紀美代は一度だけ司会者に頭を下げて、後を追いかける。それには司会者はもう一息。
「本当に、色々とやってくれる子だよ。そうだとは思いませんかい? 龍宮寺の旦那」
『旦那じゃないよ』
「俺からしたら旦那だよ。俺みたいな奴をこうやって使ってくれるんだ。生きる楽しさっての? それさえ教えてくれて――罪の清算の時間をくれる。助かってるよ、本当に」
『そうやって君が思っているのなら、それでいい。さて、最後の決勝戦も頼むよ? 少なくとも、この映像を楽しんでいる方々からは、大我君が大人気なんだからね? 壊れている少年が勝つか、数年間このコロシアムで優勝、準優勝してきた人間が勝つか。といっても、悲しいかな……倍率はこうなっている』
大門がとある映像を見せると、司会者は笑う。
「まぁそうなりますよ。今までの戦いを見れば、ね。千葉 隼人はチャンピオンじゃなく、チャレンジャーって事ですよ」
とある映像とは、倍率だ。大我の倍率は一桁に対して、千葉 隼人に対しては、数十倍の倍率になっている。
「世界の頭のおかしいお金持ちの考えは分かりませんが、龍宮寺一族に貢献出来ているんですから、喜びましょう」
『素直には喜べないけどね。さて、こちらも動かなければな。君は休みたまえ。キツイ映像を見ただろうからね? 彼女も見たのかい?』
「流石に切りました、音声もです。離れた場所で俺だけが確認しましたよ」
『いい判断だ』
「ありがとうございます、龍宮寺の旦那」
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白嵜公園にて、大我と甲我が素手で訓練を行っているのを、剣司が腕を組んでみている。その近くには、紀美代とキャシーの二人が、お茶を飲みながらクッキーを食べて会話をしている。
「あらら~~、怖いシーンは見せてもらえなかったわけだ」
「そうね。司会者さんには感謝しないといけないわ。ただ、どうなったのかは想像出来る」
「想像だけで良かったわね。大我君、多分だけど相当意表をついての勝利に楽しんでたわよ?」
キャシーが大我を見れば、甲我に捕まえられて地面に叩き落されている、のを両手でガッシリと地面を掴んで耐えていた。
「私との戦いでは一切捕まえられなかったのに、兄弟相手だと簡単に捕まえられるのね~~」
「組み手だから、お互いに捕まえてになるんじゃないかしら?」
キャシーの疑問に紀美代が答えるが、甲我が身体を浮かし回転させると、力技でガッチリと掴んでいたのに簡単に引きはがされる大我の姿に、あれは……簡単に? という疑問が浮かぶ。
「彼ら二人は、決して手を抜いてませんよ」
剣司が二人の元へ来て、振り返って模擬戦をしている二人を見る。
「あれは単純に、甲我が強いんです」
「――――うっそ~~。だって大我君ってさ、能力とはいえ、私の銃撃を見えない土煙の中で防御したんですよ? 多分」
「それは大我の勘ですね。前に色々と説明をしてくれましたが、甲我は自身に対しての自信は俺と大我以上にある人間です。将来的には化ける人間ですね」
二人の会話を聞きながら、紀美代は大我が空中で甲我の足を掴んで地面に思い切り投げるのを見る。が、甲我は横回転しながら地面に激突、するが跳ねるように横に平行移動する。もはや、意味が分からない。
「甲我君って、技術だったら二人より上って話しですよね?」
紀美代は前にここで語った事を聞く。その時に、こちら剣司が紀美代を慕っているというのを言われたのだが……、
「えぇ。甲我は、大我や俺のように変わった肉体を持っているわけでもない、技術や持っている武器でなんとかしている部分がある……が、素手でも十分強いですからね。素手なら、力の強い大我を越えます」
「……成程」
「ほへ~~。技術力であの馬鹿力を下すんだ~~」
キャシーが感心すると、大我がそれを聞いたのかカチンとキタらしく、ちょっとだけムカつく顔をした。それに甲我は笑顔で、
「お? 未来の妹からの言葉に、ムカついたか? なっはっはっは! お前も男だなぁ!」
「うるさい! ふん!」
両腕に力を入れると、大我から湯気が出始める。それには紀美代とキャシーが驚きの表情をする。
「大我がちょっとだけ本気出しましたね。甲我! あまり挑発してやるな!」
「だってさぁ~。可愛いじゃん? それを受け止めるのも、お兄ちゃんだからね!」
大我が右拳を思いっきり振ると、それを受け流す甲我だが、大我は構わずに攻撃を繰り返す。それを甲我が受け流し続ける。
「痛ってぇ!? 大我が意外とマジで来てるから痛ってぇ!?」
「おらおらおらおら!! 空手のおじさんから習ったんだぞ!!」
チョップや正拳が混ぜられた攻撃が繰り出されるが、全て受け流される。が、ダメージは入っているのか甲我の額から汗が出て来る。
剣司は溜息をしつつ、
「二人共子供ですから、勘弁してくれますかね?」
「わ、私は大丈夫です」
「まぁまぁ、私も問題ないよ~~。それよりもぉ、剣司義兄さんはぁ、紀美代さんのどこに惹かれたんですか?」
もう義兄さん呼びをし始めるキャシーに、剣司は真顔になる。紀美代は、そこに触れるかぁ~と思う。
「正直に言えば、直感ですね」
「ほう? 直感は大事ですよぉ? けど、それ言語化出来る?」
「出来ないですね。俺はそういうの苦手なので。ただ、この人を護る為ならば、この刀で斬り抜けます」
ワォ~と声を出すキャシーに、紀美代が微笑する。
「そんな貴方は何歳なんですか?」
「俺は30才です」
「あら? 意外と兄弟と年齢が離れている?」
「彼らが俺を兄と慕ってくれているだけですからね」
その発言に二人は、この三人は本当の兄弟ではない? と考えた。が、それは聞いちゃいけない事なんだろうと思い、それ以上は聞かない事にする。
「大我! 次の大会が決勝戦との事だが、勝てそうか?」
剣司が少々口許を笑みにして聞くと、大我は笑顔で甲我に攻撃を防がれながら、一言。
「殺すだけだよ!!」




