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第三十五章 準決勝戦 vs黒井 正弘6

 今日の一日は、朝の六時から始まる。朝起きて、歯を磨き、料理をして、テレビを見ながら食事をする。そんな一日の始まりが私にとってはとても嬉しい。

 朝の七時頃には外を散歩して、いつも歩いている道で変わらない日常を感じて、

 七時半には小学校の前を通りながら、横を通り過ぎる小学生を見ながら、今日も元気だなぁと考える。

 そんな事を考えながら八時には自宅に帰宅し、朝からシャワーを浴びて軽く汗を流して、身体を拭きつつもリビングで一つのダージリンを嗜みながら、今日はどうなるのだろうと楽しんでいた。


            ▼▼▼


 黒井 正弘が作り出した領域が破裂し、中からピエロが登場する。何処か笑顔で、何処か晴れ晴れとした表情で、何処か圧迫感から解放されたような気持ちで。

 地面に着地する事なく、空中で変なポーズを取っているピエロは、鼻から思い切り空気を吸い、吐いていく。それだけで外に出られたという実感が湧く。


「やっと出てきたんだねぇ~~~~、遅いよぉ~~~~」


 背後から声が聞こえた。愛しい子供、大我の声だ。ピエロは振り返り声のした方向を見る。瓦礫の上に座って待っていた大我が、ピエロを見下ろしていた。


「あれから大体~~……三十分くらい? 経ってるよぉ~~」

「(三十分? 本当に三十分かな? 嘘の可能性がとても高いなぁ。なんせ、子供は嘘をついて大人を出し抜こうと考えるから。でもそういうところが可愛いから、乗っちゃおうかなぁ?)」


 両手を広げて、とてもいい笑顔で大我を見るピエロ。


「そんなに経ってたかい? それは退屈な時間を与えてしまったねぇ~~。だけど、ほら、今度こそ退屈はさせないよ? おじさん、今度はちゃんと理解したからね?」

「そうだね~~。あの領域って不完全というか、壁があったのが問題だったよねぇ~~。僕、途中で壁が無いかと思ったんだけど……上に飛んで理解したんだ。最初に鳴らした音が、後から返って背中にあたったことに。だからあの場所は、滅茶苦茶広い空間だったものを、無理矢理にギュッと小さくしたんだと」


 大我が説明を始める。それにピエロは余裕の表情で腰に手を当てて聞いている。


「そしてギュッと小さくされている所に、速度上昇があった。問題なのは、上に対しても速度上昇による効果上げがあった事だねぇ。上には遅延にしておかないと。といっても、先に僕が上を取って有利にしたんだけどねぇ」

「あれには驚いたよ。あれは君の能力かい?」

「僕の能力と言えば能力だねぇ。力任せなら大得意だから!」


 ピエロは表情も態勢も変えずに、心の中で頷く。


「(力関係の能力なのは分かった。だが、なんて相性が悪いんだろうか。奇術師である私と力だけの小学生では、あまりにも違いがあり過ぎる)」

「おっと! まだ攻撃しないでよぉ、説明途中だから。僕も攻撃しないからさぁ」

「分かっているよ、大我君。好きなだけ喋るといいよ」


 ここは好きなだけ喋らせるだけ喋らせて、戦いが始まったと同時に布で包めばいい。それだけで、もういい。そうしよう。


「君の能力ってさぁ、とても不思議だよね」


 大我が瓦礫を掴み、座っている瓦礫に向けて一定のリズムで叩く。


「僕がほら、四階に居たじゃない? けど、すぐに僕の居場所がばれた。あれって、呼び石の欠片の空間内だったら何処にでも現れるって示唆しているんだろうね。三回戦での戦いで、全ての領域を撃たれた時は面白かったけど、今回の君はそれらを全て移動できるんだろうねぇ。空中でも、建物内でも、内側も外側も、欠片の及ぼす場所だったら、何処でも出現出来るし」


 音が響く。その音に、ピエロは違和感を持つ。何の違和感なのかはまだ掴めていない。


「でも、やっと、君の事を考えて考えて、考えて、一つの行動をしようかと思ったよ」

「ほう? 大我君が行動しようとするとは、なんだろうなぁ~~。おじさん、気になるよ」


 そこで大我は瓦礫を持ち、握り壊す。それだけ力があるという事だろう。そして大我は笑顔で、大声で答える。


「降参しまーーーーーーーーす!!!」


 その言葉に、ピエロは頭が真っ白になった。大我は畳みかけるようにピエロを見ながら、


「だってもう、勝てるわけないよ。何処にでも現れるわダメージは与えられないわ、殺したかと思えば復活するわ、何処でも攻撃が出来る大玉を取り出せるわで、どう考えても僕が勝てる道理を越えているよ。だったらもう、降参するしかないね」


 ガッカリした顔の大我とは対極で、ピエロは満面な笑みになり、両手を真上に上げる。


「勝った!!! 私は大我君に勝った!!! 勝利したんだ大我君に!!! これでもう大我君は、私だけのモノになるんだ!!!」


 ピエロは喜びながら腰を振る――が、反応がない。そこで、再び違和感が出てきた。


「そうだねーー、ピエロのおじさんのモノにねるなーー、嫌だなーー。だけど仕方ないよねーー、負けちゃったんだから」


 最後の言葉だけゆっくりと、笑顔で、楽しそうに喋る大我。その言葉に、ピエロの表情がゆっくりと笑顔から真顔になり、大我を見る。笑顔で楽しそうにしている少年を見て、考える。


「(なぜこうもアッサリと降参したんだ? 戦える力は残っている筈なのに、何故だ? 私の能力を考え抜いてこそ、降参をしたのか? いや彼はそんな事をするような子では――)」


 ”やっと出てきたんだねぇ~~~~、遅いよぉ~~~~”

 ”あれから大体~~……三十分くらい? 経ってるよぉ~~”


 今になって思い出されるのは、大我のこの二つの言葉。


「(もしこの発言が本当だとして、大我君が何もせずに座って待っているか? 彼は行動的。だったら三十分という長い時間で何かをしていたとしたら?)」

「本当に、本当に、残念だよぉ~~。僕が降参する事になるなんて……ねぇ~~~~!!!!」


 もはや狂気が入った笑顔になった大我を見て、見て……見て――見て見て、見て!!!


「ま、まさかまさかまさかまさか!!!??」

「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!! ひゃ~~~~ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」


 ピエロは――黒井は――黒井 正弘は、慌ててある方向へと慌てて飛び出す。その方向に走り出したピエロに向けて大我も走り始める。


「どうしたのぉ~~~!! ピエロのおじさ~~ん!!」

「そんなわけ、そんなわけ、そんなわけ!!」


 慌てて向かっているのは、自分の居場所。本体の居場所。そこに向かっている。


 そして見てしまった。本体を。


 ピエロは、その本体の前で歩みを止め、膝から落ちる。大我が嬉しそうな顔でピエロの肩を叩く。


「どうしたの? 勝ったんだよ? 喜びなよ? 嬉し泣きしなよ? 僕を自分のモノに出来るんだよ? ひひひ?」


 前に歩き出し、とある物体を見て、瓦礫の上に上がっていく。そして本体である、黒井 正弘の頭の上まである位置の瓦礫に座って、両手を開く。


「喜びなよ~~~~!!!! 君は、勝者だ~~~~!!!」


 両手を開き、栄光を称える。素晴らしいと、勝者であると、君は僕に勝ったんだと


 頭、首、胴体の上、下、下腹部、左足と右足の太もも、左足と右足の脹脛、左足と右足、それぞれの指、左腕と右腕の上腕、肥大腕と右腕の前腕、左手と右手、それぞれの指。


 それら全てが作業で使われている鉄の棒で繋げられており、まるでお人形遊びの様にされている。その真下は大量の血と人間の油で水たまりのようになっている。


「こ、こんなの――」

「許される行為なんだよねぇ~~。君さぁ、体液が途中から出せなくなったでしょ? それって、僕が君の領域ってのに入る前に潰しておいたからなんだよねぇ~~」


 ピエロが顔を上げ、大我を見る。大我は足を組み、本体である黒井 正弘の首を自分の組んだ足の間に置き、頭を掴んで顎を乗せる。


「君はさぁ~~、色々とやり過ぎ。色んな意味のやり過ぎなんだよねぇ~~。だけどさぁ、君の能力を攻略を考えてたんだよねぇ~~。そしたら、これが思いついたわけ。解除されるまで暇だったから一生懸命作ったんだよ? 可愛い可愛い少年からの贈り物~~。ちゃんと受け止めてよ?」

「こんな事が許されるわけがないだろうが!! 司会者!! こんなのいいのか!? 認められるのか!?」


 ピエロが叫び散らかす。だが、司会者から出された答えは、淡々としていた。


『それについては、既に上層部より許可は得られているぜ?』

「そ、そんな馬鹿な事があるか!!」

『だから許可は得てるって言っただろう? なんで人の話しは聞かないかなぁ~。けど、今回はお前の勝利だよ、黒井 正弘。この時点で、能力の使用権は消滅するからな』

「……待てよ。俺はこんな状態なんだぞ!? 解除されたら俺は――」

「死ぬよ」


 声のした方向を見る。真顔の大我がそこにはいた。


「勝利したのに死んじゃうんだ、可哀想……。だけど安心してよ、ピエロのおじさん」


 そこで可愛い笑顔を作りながら目を軽く上げて、


「その場合、敗者になった僕が代わりに出場する事になるからっさ」

「――――は?」

「ちゃんとこれも許可を得たよぉ? おじさんの代わりになんとか頑張って、決勝戦で戦ってみせるから、安心して消えていいよぉ~~~」


 そう言って斜め上を見た大我は笑顔で、笑顔で、笑顔で!


「司会者さん、どうぞ!!」

『勝者!!』

「や、やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!???」


 ピエロは大我の前に向かって飛び出し、掴み掛ろうと――、


「黒井 正弘!!」


 その瞬間、ピエロが大我の目の前で消滅する。


 何処か楽しかったのか笑顔になりながら身体を真っ直ぐにして、斜め上を見る。

































「僕って、強いかも?」

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