第三十四章 準決勝戦 vs黒井 正弘5
黒井 正弘は、自身の領域についてちゃんと理解していなかった。一回戦から三回戦の中で、お人形遊びの様に小さな空間で作り出していた事を、今回は拡大にして使っていた。だからこそ、この領域の事をしっかりと知っているわけではない。
そこが今回、露呈したと分かった。だが、分かった時には……絶望の映像が目の前で映し出されていた。
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殺人ピエロこと黒井 正弘は、目の前で起こっている事に対して恐怖を抱いた。自身が不死身の身体を有している――という事を忘れる程に、周り全てが鉄の棒によって塞がれているからだ。
だが、黒井は思考を切り替えた。相手を子供とは思わず、愛しい大我とは思わず――敵として。
「(考えろ! これら全ては攻撃の軌道を! これらはどんな軌道? 二つの鉄の棒を伸ばして出来る事じゃない。だとすると、向こうから見て既に私は行動しているという事か?)」
領域を全て理解しているわけではない黒井は、全ての攻撃の向きを大我へと集中する事にした。
「(もし私が行動しているとしたら、向こうにとって困る事は、攻撃が自身に当たる事。そしてもう一つは――自分自身が落下し始めている事を知り、それでも攻撃が続いている場合か? だが爆風で飛んで行く可能性を考えれば……? ならば!)」
黒井は一つのボールを作り地面に叩きつけると、一つの液体が出てきた。それは――ガソリンだ。
「(燃えて爆発する燃料としてガソリンしか出てこないって事は、私が理解しているものしかつくれない。となれば)」
地団駄を数回踏み、屈んで上を見ながら両手を床に付ける。そして大量の大玉を地面から出し、射出させる。
「(向こうからすれば、既に出来ている事だろうが、私が出来る事は、撃ち続ける事!)」
目の前で遅くなっていき、停止しているようにも見える。だが動いている。その証拠に、ある一定の場所に付いたら大玉が爆発し、見えなくなっていく。
この瞬間、黒井は見誤った。この領域という空間が不完全である事を知らなかった。そして大我は理解した。この領域と黒井の能力の、相性の悪さを。
この戦いにおいて最も重要なのは、強靭な精神力である。大我はその部分に関しては強靭と言われてもいい精神力を持っている。
壁を破壊していく度胸、天井を破壊して一階まで落ちる度胸、多くの弾がある中を回避し、真上から降ってくる恐慌に対して打ち返し、その戦いの会場を破壊する度胸。
もはや、子供の無邪気さでは到底説明出来ない精神を有している。だからこそ、やりたい事をやっている。だからこそ動きたい事を率先して動いている。それを知っているのは、身内の者達だけ……
だが、ここに一人、その度胸に度肝を直接に抜かれた人物が現れた。その者こそ――黒井だ。
「(来る!!!)」
左右から鉄の棒が飛んできた。それも、大玉を全て破壊されて。
「しまっ!?」
破壊された大玉の爆発と共にガソリンが混ざり、爆発を繰り返した。この時、やっと自分がいるべき場所がここではないと理解した。自分がいるべき場所は、大我がいる天井であると。
爆発するだけじゃない、ガソリンによる爆発が、今のいる場所を無くさせている。
「(身体が燃える! カード化しても燃える! ならば私が出現するべき場所は、大我君の真上!)」
戦いでも、この身体ならば何処にでも現れる事が出来る。それは領域内でも使えるはず。そう考えた黒井は、即座に実行。その場所から消滅し、大我の真上へと現れる。
「こうやってしま――」
真上に来た。が、既に先手を取られていた。真上に現れただけで、身体が斬れた。
「!?」
真下を見れば大我がいるが、こちらを見ている。そして斬ったであろう正体が――、
「鉄の棒の仕込み刃か!」
大玉を出した。直後、破裂した。ただそれは爆弾でもなければガソリンでもない。水だ。水を出して真下へ落とそうとした。だが、
「既に真上にも、仕掛けていたわけか……。これは流石に、私も混乱してきたよ!!」
左右を見れば鉄の棒が無数にある。水がそれによって弾かれて、水の重みに対しての攻撃は不可能――であるならば、もっと上か?
「(更に上に行けば――)」
そう考えていると、背中に何かが当たる感触があった。背後に何かされたか! と考え振り返れば、天井があった。
「まさか、限界か!!」
「その通り!」
声がした。今いる場所に声がした。それも知っているあの声。だが、今となっては驚きの……予想外の、
「やっと同じところにきたねぇ、ピエロのおじさん!」
大我が、黒井と同じ場所に来た。それも、上に振っていた鉄の棒の片方を持って。
「大我君!? どうやってここに!」
「僕は仕込みの天才らしいよ? だから、天井に針を刺してそのまま上に向けて飛び上がる事なんて、わけないんだ~~よ!」
黒井は一瞬にして細切れにされる。それはもう人間が出せる速度ではない――ここで能力を見誤ったか!?
「復活する場合、戦う場所ならばどこにでも現れる印象がある。だけど、そこには法則性がある。それはなんでしょ~~か。まぁ僕には、分からないけどね!」
斬った黒井の顔だけを真下に向けて、黒井の身体を真下に突き抜けるように蹴る。そして大我は――、
脱出した。
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「た、たたった、大我君が! 謎の球体の上から脱出してきたぁ!」
司会者が嬉しそうに叫ぶ。これには紀美代も安堵の表情を作る。球形の上から脱出したのだが、脱出した穴がすぐに修復されるのを確認したのちに、直ぐに球形から軽々と降りて、とある場所に向けて歩き始める。歩きながら、
『司会者さん』
「おっとっとっと……。な、なんだい? 大我君」
『ちょっと所長さんに聞きたい事があるんだけども、いいかな?』
「所長に? どんな事を聞きたいのかだけ聞かせてくれ。俺が答えられる事ならすぐに答えられるからさ」
『そっかぁ。それじゃあねぇ~~。―――――――――――――――――――?』
大我の質問に対して、司会者と紀美代は目を見開く。
『どう? 答えられる?』
司会者は左手で頭を抱えて、考える。数秒後、
「無理だ。俺には答えられない。いや、そんな事が可能なのか? っという疑問さえ出てきた」
『ルール事項には一切記載されてないって事は、これも想定内に考えられていると思うからさぁ。というよりも……』
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『既にこの言葉も、所長さんに送られてるんでしょ? だったら所長さんの意見を聞いておきたいなぁって。これからやる事は、とても大事な事だから、さ!』
監視室では、全員が所長を見ている。所長は両肘を机に置きながら、汗を一滴額から垂らす。
『しょ、所長……。今のって、どういう判定になるんですか?』
「……私の判断では身に付かない。上層部に連絡しよう」
『了解しました。それまでは……大我君の好きなように、ですか?』
「それは仕方ない。これも、黒井 正弘の能力によるデメリットが招いた事だ」
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「(意識がある。身体の再生にするには? この身体では蹴られているから身体の繋がりがない。なら別の場所で作るしかない!)」
黒井はカード一枚を吐き出し、意識をそのカードに移し、カードが一瞬にしてピエロとして生えるように出現する。
「ふぅ~~。全く。まさか脱出されるなんて、思いもよりませんでしたよ。でしたら、この領域も閉じましょうか」
そう言って黒井は両手を合わせて、グルリと回転させる。それだけで、今いる空間がゆっくりと捻じれ始めて、消滅をし始める。だが、
「終わるのが遅い? そうか、今いる場所は速度が遅い状態になるのか。これは勉強になるなぁ~~。ただ、これが終われば、今度こそやりたい事をやって、大我君に勝利して、お楽しみをするぞぉ~~?」
想像するのは、大我が裸になっている姿。裸体姿に興奮――出来ていないが、想像するだけで笑える。
「(私ぃ、この戦いだけでもう十分満足出来るかも知れませんねぇ~~。こんな強い能力を得て、誰にも負けずに、ここまで上がってきた。優勝までしちゃおうかと思いましたが、決勝が始まった瞬間にリタイヤして、大我君といっぱい、いっぱい遊ぼうかなぁ~~)」
ゆっくりとだが、近付くにつれて収束するのが早くなる。これは発動場所と解除場所が違うから起きている現象なのだろうと理解した。
「(次は無いが、もし似たようなコロシアムがまたあって誘われた時に同じ能力だった場合、そこの所はちゃんと考えないといけないなぁ~~。私ぃ、頭がいい方なので、次に活かす事も考えているんですよねぇ~~。大我君は壊れないと思いたいですが、小さな子供ですからねぇ~~)」
何度目かの涎を垂らす。早く……早く……早く早く早く早く!! そう願っている先で、やっと来る。
そして、黒井 正弘が作り出した領域が――弾けた。




