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第三十二章 準決勝戦 vs黒井 正弘3

 廃病院の倒壊。それを行なった大我は、瓦礫を飛んで行って倒壊から逃げている。それらが全て素の力であると分かっている紀美代は、安心して見ていられる。ただ、司会者は映像で両方の、大我とピエロの映像を見せる事で必死になっている。

 それは監視室でも変わらない事なのだが、少なくとも反応は悪くなかった。


            ▼▼▼


「よぅし! 大我選手の理不尽な会場壊し!」

「生き埋めに成功ね!」

「よくやった大我君!!」


 監視員から応援の言葉が出て来る。所長は内心、まるで試合観戦の一般人みたいな反応じゃないかと考えつつ、


「(一杯食わせたか?)」


 と、大我寄りの感想を持っていた。これは公平なジャッジをしなくちゃならない。にも関わらず白濱 大我に焦点が当てられているのは、それだけ今回の戦いは勝ってほしい内容なのだろうと思う。

 映像には、完全に瓦礫となった会場と、その瓦礫となった会場の上に立っている大我がいる。


『ピエロのおじさ~ん出ておいで~~。出ないと目玉をほじくるぞ~~』


 と、歌いながら鉄の棒を真上に振り上げ、思い切り落とし、瓦礫を壊して地面に着地。その小さな身体から出ているとは思えない力で瓦礫を殴っては壊して、殴っては壊してと無理矢理道を作っていく。


『これでも私ぃ、子供の為に色々と手を尽くそうと考えて行動する人間なんですよねぇ』


 どこからからピエロの、黒井の声が響く。大我がある方向――手術室があった方向を見れば、地面からハテナマークの長方形のボックスが出現し、扉が開く。中からピエロが出現し、笑顔で大我とご対面。


『その言葉ってさぁ、性犯罪について、私はこうやって行動しているんですよねぇって言っているのと同じじゃないかな?』

『えぇえぇ、私ぃ、この二十数年間……我慢と解放の日々を暮らしていました。そんな毎日でも満足していたんですが……。こんな事になるなんてねぇ~~。本当は今回のこの戦い事態、参加する必要なかったと思いませんか?』

『確かにねぇ~~。ずっと隠れて潜んでいればいいのに、表に出て来てさ。なんで?』


 その質問には、監視員達も最初には疑問に思っていた事だ。だが、戦いが進むに連れ薄まっていった考えではある。


            ▼▼


「私ぃ、今の現状に満足しているのかどうなのか、気になっていたんですよぉ。はたして! 私は性欲が満たされる事が大好きなのか! はたして! 私は殺人が好きなのか! 性欲を果たしてからの殺人なのか! これらを比べるのに、丁度いいと感じました」


 ピエロは両手を広げて空を見る。空は明るく照らしてくれている。こんな醜い私をも、と。


「見てください、この光を。犯罪者にも光を当ててくれる太陽を。日陰者だった私に勇気を与えてくれた、この光を。私は大事にしたい。そう思ってはくれませんか? 大我君」

「自認なんちゃらみたいで気持ち悪い考えを肯定しているけどさぁ~、太陽の光は所詮光だよ」


 大我を見れば、大我の目元が暗くなっているのが分かる。下を向いているのだろう。


「光よりも闇が僕達を濃くしてくれる。その濃さに、僕達は心の弱さをとか追及してくる奴等がいる。けどね……」


 顔をあげた大我は、真剣な顔を作る。


「僕達は、一つの、一本の強い光に当てられて、引っ張られて、その傍で生きてきた。その間に僕の闇が濃く、ゆっくりと濃くなっていく。それでもその光は、僕達を引っ張ってくれた。いなくなっても、僕達は闇の中を進んでいく。なんて素晴らしい事なんだろうと思わない?」

「……成程。君はどうやら、私と同じように、道を自ら外れて生きてきた人間の様だ」

「ピエロのおじさんと一緒にしないでほしいなぁ~~」


 そういう大我は真剣な顔から笑顔になる。それだけでピエロも笑顔になる。


「ちょっと僕、おじさんのせいで暴れちゃうけど、よろしくね!!」

「いいよぉ~~。さっきの見る限り――やりたい事が分かるよ~~」


 直後、思い切りバットのように振り、鉄の棒を伸ばし、ピエロが空中に飛んで回避。そのまま須藤りして周りの瓦礫に直撃すると、掘削機のように瓦礫が周りへと吹き飛んでいく。


「(武器を強くする? 力を倍増する? いや、彼も殺人者という事は能力の向上かな?私ぃと相性がいいですねぇ~~)」

「ほらほらほらほら!! ついでにピエロのおじさんも!! 当たれ~~~!!」

「当たらないんですよねぇ、これが」


 鉄の棒が直撃する。が、当たった個所がカードになり、半分になる。が、当たったカードが破壊されているのを見てピエロは心の中で頷く。


「(単純に今のは威力が高いからこそ破壊された。本当はバラバラになったカードを自分に変えて、色々としたかったんですが……そうはいかないみたいですねぇ。なら今だけは、様子見で――)」

「ほらほらほらほら~~~!!!」


 破壊していくその力に、円形に戦場が出来始める今の状況に、ピエロは考える。これは――都合がいい、と。


「ほらほら~~。カードがバラバラとしてますよぉ~~?」


 ピエロが両手を振れば、カードがパラパラと出現し、空気に乗って回転を始める。それに対して、大我は回転を止めない。むしろ速度を上げた。


「ほらほらほらほら!! ピエロのおじさ~~ん!! 早くしないと大変な事になるよぉ~~!!」

「そうならない為にも、こっちから手を打たせてもらおうかなぁ~~!!」


 そう言いながら、下半身が吹き飛ばされる。だが上半身があれば、両手があれば問題なし。


「(子供が大好きな大好きな物は何かなぁ~~。それを考えるだけで、私ぃ、楽しくなりますねぇ~。今回の戦いは、本当に楽しい戦いです)」

「ってい!!」

「カード領域」


 鉄の棒が振り落とされるが、ピエロは頭から下へ糸が切断するだけ。背後で轟音がしたが、無視する。そして両手を合わせると、空中に舞ったカードが突如大きくなり、布に変化。巨大な布となり、半分の球体となって二人を隠す。伸ばした鉄の棒が元の場所に戻されながら。


            ▼


 司会者の映像が乱れ始め、映し出されるのは半分の球体となった。中の映像が砂嵐に変わり、司会者が慌て始める。


「大我君!」

「くっそ! あの布の中が映し出せねぇ! あいつ、こんな技を持っていたのか!」


 司会者がムキになっているのが紀美代からも見て分かる。この人は公平に見ないといけない立場だけど、今だけは味方だ。


『中は映し出せないか?』

「無理ですね。俺の能力外に作用していますわ。何が起きているのかすら、分かりません」

『そうか。では、今だけは球体を映していてくれ。何があってもすぐに反応出来るように』

「分かりました」


 中が見えない状況を外から映すだけしか出来ないのは、司会者として歯がゆい。


「中は見れないんですよね? 入る事も……」

「当然、無理だ。何が起こるか分からないし、こちらとしても、一般人を入れるわけにはいかないからな」

「……そうですか」


 紀美代は球体を見て、両手を合わせて祈る。無事に帰ってきますように、と。


            ▼


 球体の中は真っ暗だが、大我は二つの鉄の棒を叩いて音の反応を確認している。


「(周りに何があるのかをみたいのかも知れないなぁ。だけど、ここからは私と君の、一対一の、本当の戦いだ。そんな戦いに――)」

「サーカス?」

「その通り!! よく分かったねぇ、大我君!! 偉い!! 天才だ!!」


 両手を叩けば、その場所が光り輝く。何処にも証明がないのに光り輝いているのは、布の力。そして会場の力だ。

 サーカス団がいるべき舞台やお客さんの席が用意され、大我は舞台の上に立っている。広さは先程の数倍。そう、この場所は――、


「この技ってさぁ、場所を作り出しているやつだね? 領域みたいなの」

「正解だよぉ~~。子供とか好きでしょ? こういうの~」


 ピエロは大玉に乗りながら大我の前に現れる。


「(瞬間移動しながらの大玉転がしで中央に現れても、驚かない所を見ると……想定内なのかな? ただの少年ではない。始まってから今に至るまで、全て冷静かつ大胆に動いている。だが、もう無理だろう。逃がさないよ? 体液攻撃からは、もう逃がさない~~よ?)」

「おじさん、本気で戦おうよ~~。色々と変な事してないでさぁ~~」

「変な事をしたくなる、君の美しさが悪いんじゃない――か!!」


 両手を叩くと、空中に大玉が幾つも出現し、大我の元へと行く。いや正確には……大我の頭の上でぶつけ合い、そして――、


「ばん!」


 破裂する。


「(私の体液が今、大我君に掛かっちゃうぅ~~)」


 上を向いているピエロとは違い、大我はにっこりと笑っている。それはピエロが見えない位置で、



            ▼▼▼


 その頃、監視室では――、


「いよっしゃ~~~!」

「よくやった大我君!」

「ざまぁみやがれ!! 糞ゴミ野郎が!!」


 と、喜びの声が響いている。ただ、所長だけは左手で頭を抱えている。小さく笑いながら、


「これはまた……狙われていたようだなぁ、黒井 正弘」



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