第三十章 準決勝戦 vs黒井 正弘1
白濱 大我と黒井 正弘の戦い当日。時刻は午後三時。本来戦う場所は、大我によって破壊され、それにより別会場へ行く事になった。
大我にとっては面白い事をしただけであり、会場を変更せざるおえなくなった。どれだけの事をしたのかと言われたらしいが、大我は笑っていたらしい。
お話しを聞く限り、この会場は絶対に壊さない様にと言われたらしい。
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今いる場所は、壊した会場とは違い、山奥にある会場。そこに大我は紀美代に連れられて現れた。その先には、既に作られたであろう廃病院が建てられており、司会者も既に到着している。
「よぉ大我君」
「あ、司会者のお兄さん。やっほ~~」
「今回の戦いでは、呼び石の欠片を壊さないでほしいなぁというお達しが来ているんだけど……」
「もう散々と言われたよぉ~~」
うんざり顔の大我に紀美代は微笑する。司会者だけは分からない顔をするが、
「ここに来るまでの間に、車の中で映像と共に注意されたのよ」
「あ、なるほどね。そりゃそうなるわな。けど、そういう事をしたんだから、もうやめておくれよぉ? 今回は会場を作れる人間が壊されないかとビクビクしているんだからね」
「大丈夫だよぉ。アレは全部、上層部の人達と出会う為にやった事なんだからさぁ~~。もう壊さないよぉ~~、あっはっはっは」
笑っている姿に、司会者も笑う。
「あっはっはっは! それなら良かった。ただ気を付けてくれよ? 次の相手は、俺でさえ見たくねぇよぉな奴だからよ」
「そういう敵に塩を送るような真似は、やめてほしいなぁ~~」
司会者が声のした方向を見ると、一人の人間が風船を持ちながら歩いてきている。
ピエロ姿でお腹を膨らませて、両手に風船を持っている人間が、笑顔にペイントされた口を見せながら近付いてくる。その姿に、紀美代と司会者が嫌な気持ちになる。
というのも、二人はとある殺人鬼を知っているから。
ジョン・ウェイン・ゲイシー
アメリカで有名な殺人ピエロと呼ばれる、数多くの青少年を性的虐待し殺害した連続殺人犯。それを彷彿とさせているのだ。無論、司会者だけが知っている情報。この男は昔に活動していた際に参考にしたのは、ジョン・ウェイン・ゲイシーである、と。
「大我君。気を付けるんだよ。今日のあいつは――」
「分かってる分かってる~~」
黒井 正弘――いや、ピエロは大我の前で止まり、笑顔で見てくる。風船を一つ渡そうとするが、紀美代が大我を引っ張って離れさせる。
「初めまして、お嬢さん。私、ピエロと申します。宜しくお願いします。ちなみにこちらは、ただの風船ですので、大丈夫ですよ?」
「…………何やら液体が見えるんですか?」
風船の結び目のところに、色濃く何かが、液体の様なものがある。水なのか分からないが、粘り気があるのが見て分かった。だからこそ紀美代は離れさせた。
「ピエロのおじさんさぁ~~、自分の体液を風船に仕込むのは良くないよぉ~~」
「――うぇ……」
大我の発言に、紀美代が想像してしまい吐きそうになる。それとは別にピエロがとても笑顔になり、両手から風船を離し、空へと飛ばす。
「君の事を考えたら、つい、出してしまった私の子供達を風船に入れてみたんだけど、分かられちゃったかぁ。にしても、やっぱり可愛くて美しいねぇ~~、大我君」
「可愛くてってのはいいけど、美しぃは流石に気持ち悪いよぉ~~」
大我がピエロを見ながら、笑顔になる。
「ねぇ、ピエロのおじさん」
「なんだい?」
「今回、僕はおじさんを殺すから、よろしくね?」
その言葉にピエロは恍惚な表情になり、ゆっくりと膝を曲げて目を合わせられる高さになる。
「なら私は、大我君。君を負かして、君の身体を好きなように弄らせてもらうからね?」
口を開けたピエロからは、涎が垂れている。すぐにピエロは服で拭うが、紀美代が生理的に無理な顔をして大我を引っ張って離れさせる。
「そんな警戒しなくていいんですよ? 私はただ、楽しく大我君と遊びたいだけなんですからね?」
身体を真っ直ぐに伸ばして冷静に答える。それがとても不気味に思える。
「黒井 正弘選手。先に入って待っているように」
「えぇ、分かりました。では大我君、また会おうね~~」
笑顔で手を振りながら歩き始めるピエロに、大我は舌を出して、べーっとした。それにピエロは笑顔で前を向き、スキップをしながら会場へと入っていく。
「あんまりこういうのは良くないんだが、俺は君のファンだからよ。あんな鬼畜外道に負けないでくれよ?」
司会者が大我を見ながら言えば、大我は笑顔で、
「ありがとねぇ~~。負けない様に頑張るよぉ~~」
と答えるだけ。紀美代が大我を放そうかどうか迷ったが、戦いが始まるのだから放さないといけない。両手を大我から放して、少しだけ後ろに下がる。
「大我君」
「分かってるよぉ~~。あのピエロのおじさん、今も変わらずにやっちゃってるからねぇ~~。寧ろ、僕のせいで加速しているみたいだけど、キッチリと終わらせてくるよ。一郎と二郎がいれば、なんとかなるからねぇ」
歩き始めながら、鉄の棒二つを背中から取り出して横に振る。相変わらずの感じだが、今日はなんだかテンションが、低い? まぁ、相手が相手だし……それに、
「彼も知っているだろうからねぇ」
司会者が紀美代の元へと来る。
「知っているって……あの殺人鬼ですよね」
「っそ。ジョン・ウェイン・ゲイシー。彼は頭がいいだろうから、そこも頭に入れているんだろうなぁと思うんだけど……」
「今回は、相手のスカウトマンが来ていないんですけど……どうしてですか?」
「ん? あぁ。どうやら話しでは、情報だけは教えて、それ以外は会わないって決めてるらしいんだよ。スカウトマンも、見つけたのは見つけたけど、関わりたくないんだろうな。なんせ――」
「現在も犯行が行われているから、ですよね?」
「……そう。最近、奴の周りで小学生が消えている。だが、奴の犯行であると決めつける証拠が見つからない。昔のなら今もあるらしいが……今現在となっては、奴もやり口を変えて行動している。証拠が一切見つからない」
紀美代は、そこが謎に感じている。何故、そんな事が可能なのか。だが司会者は、会場に入っていく大我を見て心配な顔をしながら、
「理由は単純。子供達にしか奴の居場所を知らせられてない状況が続いているから、だ」
「……最近の子供は昔よりも賢くはなっているし、防犯ブザーを持っているというのに」
「一向に役に立たせない。それが奴の話術や、信頼度の高さを物語っている。本当に、今すぐ死んでほしい相手だよ。俺は公平の立場でいなければならないのかは分からないけど、あいつに関しては不公平を貫きたいね」
どこか苦虫を嚙み潰したような顔で喋る司会者に、紀美代も頷いてしまう。
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勿論、その話題は監視室の者達にも伝染している。所長は、働いている監視員の声を聞く。
「今回の戦い、大我君の能力がどうのこうのよりも、無事に勝利する事を祈った方がいいのかも知れないな」
「そうね。あの男のせいで今も亡くなられた小さな子達がいるって考えると……怒りが込み上げて来るわ」
「確か君も小学生の男の子がいたな。確かに、狙われる可能性があったからな。運が良かった、悪かったの話しで終わらしたらいけないが――最近も、高校生を殺して擦り付けていたんだろう? あとは会社員か」
「話しだと、優秀な会社員だったとか。それが全て、死んでから汚点を付けられている……。真実を知る私達からすれば、この上なく、手出しも出来ないこの状況がこの上なく、無念だよな」
話題は黒井 正弘一色だ。だが、そういう話題にしたいのは分かる。話題性としては、今回の出場者の中ではトップクラスに入るからだ。そして能力も、殺人ピエロとして相応しい能力をしている。
「皆の気持ちも分かるが、私達は一方的な感情で片方を応援する事は出来ない。辛いと思うが、耐えてほしい」
所長の言葉に、皆が黙った。黙らせた本人である所長こそ、この戦いに関しては大我に勝ってほしいと願っている部分がある。長く潜伏していたであろう黒井 正弘を見つけた時は――流石の私も驚いたからね。
「(呼び石の欠片は犯罪者にしか引っかからない……というが、まさか未解決事件の犯人まで見つけてしまうとは。それも、現在でも行われているシリアルキラーを)」
話しをすれば、スカウトマンも相手の素性を知ってでも、今回の戦いについて話した。いや、スカウトマンがほぼほぼ独断専行をしてエントリーさせたというのが正しいのか。誰かに殺してほしいと願ったんだろうか……。本当に、それだけの事をやったのだ、黒井 正弘という人間は。
『お互いに、位置に付きました』
司会者から声を掛けられる。ピエロは一階の手術室。大我は四階の集中治療室だ。
「今回、大我君は四階にいるのか。珍しい」
『はい。一回戦から三回戦までは全て一階、もしくは下から始まっていましたが、今回は上からですね。きっと彼の事です、何か考えているんでしょう』
司会者が期待を込めた言葉を出している。全く……ここにいる全員が、心の中では大我君を応援しているのか。
「始めてくれ」
『了解しました』
その言葉に、司会者が廃病院の方へ向き、映像を二つ出す。大我とピエロだ。
始まってしまう。一種の、子供達を助けるための戦いが。




