第二十九章 準決勝前日
大我は、相手が想像していたよりも厄介な人間であると分かった。自分の事を障害持ちだと知りながら、それを持って自分の欲を発散している異常者であると認定する。
流石の大我も”気持ち悪い”と思ったのか、白嵜公園にてキャシーに抱きついて甘えている姿を紀美代は見ている。
そこに甲我と剣司の二人が一緒に同席をして、大我から話しを聞いた。
▼▼▼
「うへぇ~~。小学生ばかり狙う犯罪者かよ……。大我、お前大丈夫か? なんだったら俺がそいつの家に行ってぶっ殺してくるぜ?」
「殺すのは僕の役目だから大丈夫。だけどあのピエロのおじさん、僕の事見てめっちゃ興奮してた……」
「大丈夫か? 俺がそのコロシアム自体を壊せればいいが……今は別の任務に当たっているからな」
「三人揃って、色々と大変ですよね……。確か、甲我君は大会? というやつで、剣司さんは”最後の晩餐”でしたっけ?」
紀美代が剣司を見て言う。剣司はキャシーに抱き着いている大我の頭を撫でながら
「えぇ。その”最後の晩餐”だけ、俺だけ外部の人間ですが、まぁ大我と似たようなシステムで戦っています。目標は、それを指揮している一番上の”元受刑者”なんですがね」
ここでも受刑者か、と紀美代は思う。キャシーは、胸元を深呼吸してくれている大我を嬉しそうに抱きしめながら甲我を見る。
「その大会って、能力を得るって感じだったんでしょ?」
「そうそう。剣司兄さんと大我も同じような感じだから、似てるなぁって思ってよ。だから繋がりがあるんじゃねぇかな? しかも龍宮寺だろ? 俺と一緒にいる女も龍宮寺 亜寿沙っていうんだけど」
「あの女の子、龍宮寺なの!?」
紀美代が驚きの声を出すと、甲我は頷く。
「それなら、俺の”最後の晩餐”も龍宮寺が関わっていますね。その戦いを作り上げたのも、その龍宮寺という話しですから」
「……三つが繋がっている?」
ゆっくりと考え始めると、大我はその場で振り返り甲我と剣司を見る。
「それじゃ、キャシーさんの欲しがっている情報とか渡せるかもね」
「あ? あぁ~~、なら俺が近いかもな。ちょっくら聞いてみるよ」
「本当に?」
キャシーが甲我を見て、やや驚きながら言うと、頷く。
「未来の義理の妹になるかもしれないんだろ? それぐらいはやるさ。ただ期待はしないでくれよ? 亜寿沙も全て知っているわけじゃないのと、その龍宮寺 大門って人じゃなくてその弟? みたいな人間が関わっているって感じだからよ。けど、やってみる価値はあるねぇ。剣司兄さんもやってみる?」
「そうだな。俺の方でも、出来る範囲内でやってみよう。そもそも、呼び名が違うだけで、その効果は一緒の可能性が高い。力を与えているという部分は、俺達三人にも与えられているように、その龍宮寺にも色々とあるのだろうな」
剣司が日本刀を左手の親指で上げては納刀、上げては納刀を繰り返している。考え事をしている時の大我と同じだなぁと紀美代は考え、ふと笑ってしまった。
「? 何か面白い事でも?」
「あ、いえ。考え事をしている時の大我君も、よく一定のリズムで鉄の棒で何かを叩いていたりするので、似てるんだなぁって」
「あぁ、これですか。俺と大我は、ある人を参考にしているんですよ」
「ある人?」
「まぁそれは教えられねぇけどな」
紀美代の疑問に、甲我が頭の後ろで腕を組んで答える。秘密、との事だろうな。
「その人の事は教えられないけど、こういう多動的な動きをし続けるのは、考えを止めない人間がいて、それの動きが一定の動きによるリズムってところなんだよなぁ。しかも残念な事に、俺じゃ出来ない方法なわけよ、それって」
甲我が両手を前に出して、大我と剣司の両方を指差す。
「まずこの二人の特徴だけど、大我がミオスタチン関連筋肉肥大症という病気を持っており、剣司兄さんは骨格からしてまず人と違う。固くて柔らかい特別な骨と筋肉をしているのよ」
「……固くて、柔かい?」
「っそ。人間の身体って、ある程度の曲がりや捻じれまでは可動出来るけど、そこからは無理! ってあるだろ? けど剣司兄さんはそういう制限がない」
剣司が甲我の首による指示を受けて頷き、腕を捻る。手の先が何回転かしており――――
「ちょちょちょ!? それ以上はやめて!! 怖い!!」
「ノー!! 骨なし人間!!」
紀美代は自分の身体を抱きしめ、キャシーは大我を抱きしめる。二人共怖がっているのが分かる。
「こんな風に、特殊な身体の構造をしている。それでいて、この二人は両方とも暗器使いだから、頭を非常に使うわけ。なので、一定のリズムによる考える時間を設けている」
剣司が捻るのをやめて元に戻す。それだけで二人は溜息をしてしまう。
「じゃあ、甲我君も出来るんじゃ?」
「甲我お兄ちゃんはねぇ~~。戦いの中で感覚的に、反射的に出来ちゃうタイプなんだよ? 僕や剣司お兄ちゃんが考えて行動する事に時間を割いている間、甲我お兄ちゃんは行動する事で、直感でそれが分かっちゃうんだ」
紀美代の質問に大我が嬉しそうに答えるが、その本人は溜息をしている。
「まず大前提、俺の動きをこの二人が知っているし、どういう行動をするのか把握して、操り人形のように俺を動かす事が出来るっつぅ時点でアウトだから、説得力無し」
「だけど、この二人だからこそそれが可能だって事で、それ以外の人間には効くんじゃないの?」
すかさずキャシーが言うが、甲我はキャシーを指差す。
「次に、直感で動くタイプってのは、基本的に周りの連中に合わせられない。合わせようとすると崩れてしまうから、基本的に一人で戦うハメになる。現在、大会で行われている今の状況だって、グループ戦ではあるものの俺は一人で戦っている。仲間はいない、比喩表現じゃなくて本当に俺一人で出場して勝ち残っている」
怠そうに説明するが、剣司が頷く。
「確かに、甲我はどちらかと言えば一人で来るからな。俺でも、お前を全て見切り切る事は出来ない。一歩も二歩も先に行かされるからな」
「はい、俺よりも実力を持って遮断する人は黙っててねぇ」
折角の誉め言葉に嬉しくないのか厳しく言う甲我に、剣司がやや残念な表情を作る。紀美代は、イケメンなのに子犬みたいな顔も出来るのね、と思う。
両手を下した甲我は足を組み、
「その代わり、俺は二人よりも技術が高い。この二人はさっき言ったように身体に能力が備わっているからこそ、そこに技術が加わって強くなっている部分がある。けど、技術ってのは普通の人間が力の強い奴に勝つための”術”だからな。それを受け継いでいるのは一緒だが、”練度”の度合いが違うわけよ」
「技術? あ」
紀美代、キャシーは思い出す。紀美代は第二回戦での力技による天井破壊、そして回避。キャシーは銃弾の回避やバルカンを弾いてきた事を。
「お二人は大我の、子供とは思えない力技の部分に目がいっていると思うけど、本来はそれらを可能としている技術があってその力技を使えているわけ。リンゴを潰しますぅ~、だのフライパンを~だの、そんなくだらない力自慢なんか必要ないくらい」
「それやると怒られるからねぇ~~。けど、仕事には役立ってるよ? 鉄の壁の中に隠れている不埒者をぶっ壊して殺したからね」
嬉しそうに喋る大我を抱きしめているキャシーは、ある事を思い出す。
「私との戦いで見せた糸とかって、暗器なの?」
「あれねぇ~、暗器の一つだよ。第一回戦で使用したんだぁ」
「第一回戦って……確か三木島 裕也との戦いよね。あの時に糸を使ってたの?」
後で得られた情報では、人の形が見えた時に三木島 裕也がビー玉を投げたが、その時には横の窓枠に座っていたが、まさか糸を使用していた?
「こう、外から回転してね? 座ったんだよ。いやぁ本当にあれって、どこにでも通用出来るんだねぇ」
「紀美代さん。こんな事を言っていますが、この子はとても優秀なんですよ。前に俺の仕事を手伝ってくれた時も、一番に前に出ては、敵を誘き出してくれましたからね」
剣司が急に、大我の優秀さを言い始める――のに気付いた甲我が、へぇ~~と声に、
「紀美代さ~ん。剣司兄さんに狙われてるから気を付けろ~~」
「!?」
「え、えぇ!?」
剣司と紀美代が甲我を同時に見れば、言った本人は楽しそうに笑っている。
「剣司お兄さん、そろそろ結婚しないとマズい歳だしねぇ。白濱家としては、そろそろ子供が欲しいわけですよ」
「そんな甲我お兄ちゃんだって、亜寿沙さんがいるじゃん」
「亜寿沙~~? やめてくれよ……。最近、あいつ不機嫌になる事が多くてさぁ。なんつぅの? 大会で勝ち続けているってだけで群がってくる女子共をうざったい顔で捌いているだけなのに怒ってよぉ? 理不尽じゃね?」
甲我が喋っている背後には、執事とメイドの間から亜寿沙が現れて腕を組んで笑っている。
「何が言いたのか分からねぇし……どうにかしてほしいもんだよ」
「あらぁ、そう考えてたのね? 甲我~~」
「――――――」
声のする方向へ振り返り、亜寿沙を見る。とても良い笑顔だ。次の瞬間、耳を塞ぐ四人
「甲我ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
その声が、空気を割った。




