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第二十八章 優雅な昼下がり5

 今日の一日は、朝の六時から始まる。朝起きて、歯を磨き、料理をして、お話ししていた男性が死亡したとの報道がされているテレビを見ながら食事をする。そんな一日の始まりが私にとってはとても嬉しい。

 朝の七時頃には外を散歩して、いつも歩いている道で警察が歩いているのを見ながら、変わらない日常を感じて、

 七時半には大人たちが校門にいる小学校の前を通りながら、横を通り過ぎる大人と共に投稿する小学生を見ながら、今日も元気だなぁと考える。

 そんな事を考えながら八時には自宅に帰宅し、朝からシャワーを浴びて軽く汗を流して、身体を拭きつつもリビングで一つの資料を見て、準決勝の相手を見て、笑顔になる。


 そんな、最高の始まり方が暫く続くのだ。その日が来るまで、私は待ち遠しい。


            ▼▼▼


 聞いたか? ここの常連さんが小学生二人を殺したって。

 聞いた聞いた。可哀想だよなぁ。しかも犯された痕があったんだろ? 気持ち悪いよなぁ。

 本当だよな。話しじゃ、自宅では他の小学生の遺体もあったらしいじゃん? 人間、何があるか分からねぇよなぁ。

 そういう異常者の反応っていうの? 分かりたくねぇよなぁ。



 私、黒井 正弘は、一つの公園に来て、ベンチに座り、ゆっくりとホットのペットボトルのお茶を飲んでいる。いつも行っているお店が暫く休業だからだ。

 あそこのダージリンは好きだった。いや、その前にゆっくりと、多く購入させていただいたから、ストックは十二分にある。

 あの喫茶店の夫婦はとても落ち込んでいた。なんて可哀想なんだろう。実の子供は二人も殺されてしまうだなんて、実に可哀想だ。心の底からそう思う。

 この公園も、今となっては誰もいない。あんな事件があったから当たり前だ。誰も外には出せない。全く、公園は子供の遊び場なのに、誰もいなくて遊べないなんて……なんて可哀想なんだろう。

 ここは交流場所としてはとても使い勝手が良かったのに、今は誰もいない。

 私はふぅっと溜息を付いた。この溜息は、誰もいない事への溜息ではなく――


「上手く、性犯罪を擦り付けられるものだねぇ~~」


 隣の席に、一人の少年が何処からともなく現れて座った。その姿を見て、私の心は大きく飛び跳ねた。


「ピエロのおじさん。ここ数日間で何人の小学生や大人を殺したの? 怖いなぁ~~」

「これはこれは、大我君じゃないか。どうしてここにいるのかな?」


 私は冷静にそう言いながらも、写真ではない本物の大我君を見て、とても美しいと感じている。写真では得られない成分が得られている。ありがとう神様。小学生は最高だ!


「こういう戦いの場が始まる前でも行動が許されるのがこのコロシアムの特徴って事は、始まる前には、ピエロのおじさんはきっと行動をするだろうと考えてたよ。だけど、本当にヤッちゃったんだねぇ。気持ち悪いぃ~」


 大我が嫌そうな顔をしている。それもまた愛おしく見える。おっといかんいかん。私は冷静に、私は冷静に、お茶を一口飲んで落ち着こう。

 ……いつものダージリンじゃないからリラックス効果はないが、無いよりはマシだ。


「あっはっはっは。おじさんは障害持ちでね。こういうのを抑えるのにとても必死になっているんだ。だけどそれを受け止め切れない時がある。そういう時におじさんはね? つい、出来心で、色々と考えて行動をしちゃうんだ。とても止められない感情なんだよ、これは。障害を持った人にしか分からないから、大我君には分からないだろうけどね?」

「確かに、分からないねぇ~~。だけどさ、ピエロのおじさんが障害持ちでも、やっていい事とやっちゃいけない事との区別はつくよね?」


 お説教をされている。私は今、小学生にお説教されている? なんという経験なんだろうか。私よりも頭のいいと感じている子供からお説教を、正論を叩き込まれるこの瞬間。我慢だ……我慢だ……。


「勿論、分かっているさ。でもね、時には区別すら出来なくなる瞬間があるんだ。ほら、ゲームの中で街を作る事に特化したゲームがあるだろう? 私はね、役割ごとに大きくして生きないと考えているんだ。ここの区画は工場だとか、ここの区画は街だとか、ここの区画は学校だとかってね? 物凄く考えて考えて、自分が好きなように枠を作るのが好きなんだ。勿論それには、色んな困難がある。それが起きる度に私は考えるんだ。どうすればいいのか、何をすればいいのか、ここをどうやって解決させればいいのかって。それを考えるのもね? おじさん、大好きなんだよぉ?」


 いい笑顔で大我君を見たと思う。口角を上げて、歯を少し見せてのスマイル。ただ、興奮だけは抑え切れていなかったようで、大我君が嫌な顔をしている。その顔も素敵だなぁ~~……。


「ピエロのおじさんはさぁ、なんでこんな事をしてるの? 普通に女性相手にすればいいじゃない」

「あっはっはっは。それを聞くかい? そうだねぇ~~」


 私は前を見ていた。前はただの住宅街だが、もっと目の前を見れば子供達が遊んでいた砂場や滑り台がある。


「私は、ただの子供が大好きなおじさんだよ。それが異様に他の人よりも強くてね? 二十代の頃かなぁ。私はね、小学生の子供達が美しく見えるようになったんだ」

「美しく? ピエロのおじさんは醜いのに?」

「そう! まさにそれだよ大我君! 私は醜かったんだよ!」


 つい大我君に近寄ってしまった。近くで見る大我君はとても美しく可愛い……。おっと、我慢、我慢だ。ゆっくりと離れて前を見て、落ち着かせるんだ。


「昔の私は虐められていてね? そりゃあもう踏んだり蹴ったりで、何も言えなくなってしまう程に虐められていたんだ。周りは誰も助けてくれやしないんだ。そんな中、文化祭でね、女装喫茶というのがうちのクラスで決まったんだ。それには私は反対したかったが、反対出来なかった。まぁ誰も私には興味は持たないだろうと思っていたんだ。そしたらね、そのクラスのリーダー的存在がね、こう言ったんだ。”だれか黒井を女装させて、尻尾を付けさせようぜ”ってね」

「うわぁ……」


 大我君は、尻尾の意味が分かってくれたようだ。ここは言わなくていいだろう。


「私は嫌がったんだけど、暴力には勝てなくてね。結果的に女装させられて尻尾を無理矢理付けさせられたんだ。そしてそれを――写真に取られた」


 私は恐怖を思い出して両手を顔に覆った。思い出したくもない思い出。トラウマだ。


「それがクラス中どころか、他のクラスにも回されてね……。その日から私は不登校になったんだ」

「歪んだんだねぇ~~」

「そう、私は歪まされたんだよ。虐めという絶対的な支配によってね」


 両手を顔から離して前を見る。ペットボトルを落としていたが、気にしない。


「まぁ、高校卒業は出来たんだけどね。見た目も大学時代に変えていって、普通くらいにはなったんだ。暫くして……そうだねぇ。僕が障害持ちであると分かっている最中に、それでもゆっくりと抑えていたんだ。その気持ちをずっと、ずっと……ずっとずっと。抑え続けていたんだ」


 右手は胸元に行くが、左手は下半身を握っている。我慢、我慢だ。


「そんなある日、私を虐めていたリーダーと再開する日がやってきたんだ。それはシンプルで、ただすれ違っただけなんだけどね? 小学生の男の子と手を繋いで歩いているリーダーを見て……いや、との男の子を見て、私は長年抑えていたものが、ついに壊れてしまった感覚を得たんだ」


 ゆっくりと深呼吸をして、抑え込んで、収めて、収めて――収めて、


「その日の事はあんまり覚えていないけど、虐めのリーダーを殺した後に、その息子を犯した事は覚えている。とても可愛く美しいものが、私の手で穢されていくその姿に、私は興奮した。漫画でも、写真でも、映像でもない本物の温もりに、私は何度も何度も注ぎ込んだ。気持ちよかったなぁ~~」


 眼がつい真上を見てしまう。興奮してしまい、起ってしまった。


「それが忘れられなくてね~~。何度も何度も、同じ罪を繰り返してしまったんだ。でもね? ちゃんと場所は考えていたし、我慢はしていたんだ。ちゃんと計画も練って、どうするべきかも考えて、考えて考えて考えて……考え抜いたんだ」


 大我君を見たら、真顔でこちらを見ていた。あぁ……そんな冷たい顔も出来るんだね? 大我君。


「大丈夫だよ、大我君。僕は君の事は殺さないから。次の戦い、存分に遊ぼう、ね?」

「ピエロのおじさんとは遊びたくないな~~。けど分かったよ。ピエロのおじさんは、もう戻ってこれない人種なんだねって。それが分かったから、もういいかなぁ~~」


 そう言った大我君は、この公園からゆっくりと歩いて消えて行った。それに、私は非常に興奮した。





 今日の一日は、朝の六時から始まる。朝起きて、歯を磨き、料理をして、お話ししていた男性が死亡し、殺された小学生の家族が報道されているテレビを見ながら食事をする。そんな一日の始まりが私にとってはとても嬉しい。

 朝の七時頃には外を散歩して、いつも歩いている道で警察が歩いているのを見ながら、変わらない日常を感じて、

 七時半には大人たちが校門にいる小学校の前を通りながら、横を通り過ぎる大人と共に投稿する小学生を見ながら、今日も元気だなぁと考える。

 そんな事を考えながら八時には自宅に帰宅し、朝からシャワーを浴びて軽く汗を流して、身体を拭きつつもリビングで一つの資料を見て、準決勝の相手を見て、笑顔になる。


 ゆっくりと階段を降りて扉を開けた先には、何人かの小学生がいる。そのうちの一人を私は連れて別室へと行き、ベッドの上で、大我君の事を考えながら腰を動かす。



 そんな、最高の始まり方が暫く続くのだ。その日が来るまで、私は待ち遠しい。


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