第二十四章 優雅な昼下がり1
今日の一日は、朝の六時から始まる。朝起きて、歯を磨き、料理をして、テレビを見ながら食事をする。そんな一日の始まりが私にとってはとても嬉しい。
朝の七時頃には外を散歩して、いつも歩いている道で変わらない日常を感じて、
七時半には小学校の前を通りながら、横を通り過ぎる小学生を見ながら、今日も元気だなぁと考える。
そんな事を考えながら八時には自宅に帰宅し、朝からシャワーを浴びて軽く汗を流して、身体を拭きつつもリビングで一つの資料を見て、準決勝の相手を見て、笑顔になる。
そんな、最高の始まり方が暫く続くのだ。その日が来るまで、私は待ち遠しい。
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「昔のお義父さんの知り合いに聞いてきたわ。子供ばかり狙うシリアルキラーだって」
「うえぇ~~。気持ち悪いぃ」
「それ、私聞いた事ありますよ。子供ばかり狙う殺人者、黒井 正弘。私が刑務所に居た時も有名でしたね」
「おじさんも有名人だったんでしょ?」
「いぶし銀の耕三とは、私の事です。昔の話しですけどね? 今は、入院中のおじさんです」
紀美代、大我がいる場所は病院の一室。それも個室だ。ここの病院は龍宮寺 大門が関連しており、戦いに生き残った選手を元の生活に戻すまで治療をする。たとえそれが、犯罪者だとしても。
そんな病院の一室には一つのベッドに大きなテレビ、テーブルがあり、フルーツが入ったバスケットが置かれている。
その横に紀美代と大我が椅子を置いて座り、今の会話に至る。
「背骨にヒビって聞いたんですけど、回復したんですね」
「えぇ。だけどまさか、無意識とはいえ左手で受け止めていたとは、私もやりますなぁ」
「ねぇ~~。僕も驚いたよぉ、まさか受け止められるなんて思わなかったし。人間って不思議~~」
平和な会話のようで、物騒な会話になっているなぁと紀美代は考える。
「でも確か黒井 正弘って、子供相手に性的欲求を満たしていた……みたいなのがありましたよね」
「……残念ながら、そうなんです。だけど今回の戦いは、越えなくちゃならない事ですから」
耕三の言葉に、紀美代は何度目かの決心の言葉を紡ぐ。
「おじさんでも名前知っているのに、なんで捕まらなかったのぉ? この人ぉ」
「私が知っている理由は刑務所に居たからだね。外の世界で、子供相手に性的欲求を満たしている鬼畜がいるって話しを、他の受刑者から聞いてたんだ。流石に気が滅入る話しだったのは覚えているよ。だけど、全国指名手配されてからもう十数年は経ってるんじゃないか? というより、そんな彼を見つけたんだな……。普通なら警察行きにするんだが……」
「……私も流石に、この人間を警察行きにしないのか上層部の人達に言いましたよ」
「おぉ」
「けど、”出場者は出場者、そこの所はこちらでは感知しない。たとえ鬼畜な男だとしても”、と返されました……。はぁ~~」
紀美代は溜息をする。ここでまさか、身内の仇とも言える……お義父さんの方は違う仇になるが、こんな事になるなんて。いや、繋がるなんて――というのが正しいのだろうか。
「別に、性的欲求だの、鬼畜野郎だの、指名手配だのと関係ないかなぁ~~。あれ? でも確か、居場所を押さえてしまえば、会えるんだっけ? キャシーさんが僕と出会ったように」
「え?」
二人が大我を見る。大我は笑顔で、写真をじっくりと見る。ピエロ姿だから分からないが、特定する手段はいくらでもある。そう、いくらでも。
「紀美代さん。始まるまで自由に動いてもいい?」
「自由にって……まさか大我君、会いに行くつもりじゃ――」
「にっしっし」
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最近は、どんな事をしていますか?
「最近ですか? そうですね。仕事も順調ですけど、最近は紅茶を嗜んでいますよ。ダージリンが美味しくて。ここの喫茶店のダージリンも本格的で、私ぃ、好きなんですよぉ」
今のお仕事は楽しいですか?
「勿論ですよ。私、ちょっとした障害を持っているので短い時間しか働けないんですが、その分、パフォーマンスの高い仕事をさせてもらっています。といっても、大事なお客様方の書類整理ですけど」
今はお昼の時間ですが、いつもこの喫茶店に?
「えぇ。この時間帯は、ランチタイムでサンドイッチかホットドックと共に珈琲か紅茶を頼むと少し安くなるんですよ。今は安月給で働いていますが、前働いていた時はきつかったなぁ。結構稼ぎましたね。私ぃ、株をやってるんですが、これがまたぁいい感じなんですよ」
前の職場では、大変だったんですか?
「えぇ。今みたいに株の運用は出来ませんね。けど、それなりにいい役職に就いてたので、お給料は良かったですよ。ただまぁ、中間管理職でもありましたから板挟みで……凄くストレスが溜まりましたねぇ」
ほう? 当時はストレスの発散方法とかあったんですか?
「ありましたよ。ある時、昔のビデオを実家から引っ張ってきて、それを見たんです。高校時代、中学生時代、小学生時代と、運動会とか文化祭の映像を見てました。そうすると昔の事を思い出して、あの時は楽しかったなぁ、戻りたいなぁと思い出しては、お茶を飲みながら鑑賞してましたねぇ。特に、小学校の時の映像は良かったですよ! 私もまだまだ、頑張って走っていたものだなぁと感心しました」
そうなんですね。じゃあ、今から戻れるとしたら、小学校時代に戻りたいですか?
「よくある質問ですね。いつの時代に戻りたいとかっていう。そうですね~~……。ちょっとだけ悩みましたが、二十五歳ですかね。まだまだ若々しくてビンビンしていた頃でしたし、今よりも頭を使っていたでしょうから、器用に立ち回れていたでしょうね。ただ、身体を壊しちゃいそうで怖いですが。あっはっはっは」
二十五歳ですか。今からですと、もう二十年くらい前ですかね?
「もうそんな時間が経ちましたかぁ。今となっては、朝に子供達が登校するのを見て、時々ですが親御さんと挨拶を交わして、公園でも子供達の笑顔を見て休みを満喫していますよ。昔はそんな事出来なかったけど、今はいい人生を送らせてもらっています」
まだまだ四十代じゃないですか。
「もう四十代ですよ。昔のようにはいきませんねぇ、悲しい事に。だから今は、朝と夕方に歩いて運動をしていますよ。楽しいですよ? 運動するのは」
若い人達には負けていられませんね。
「えぇ、まだまだ負けていられませんよ。それにしても、ここからでも元気な小学生の声が聞こえますねぇ~~。私も、小学生の頃は凄く元気だったんだろうなぁと、ふと考えちゃいました」
小学生の声ですか。よく小学校では問題にされていますよね? 子供の声問題とかで……、
「そうなんですよね。あれ、自分達だって昔は騒いでいただろうに、何を言っているんだって話ですよ。そういう大人にはなりたくないですよ。まぁ私ぃ、結婚してないんですけども」
失礼ですが、どうしてご結婚をなさらずに?
「あぁ~。まぁ、簡単に言えば、私が結婚に向いてないからですね。これでも一応、何人かの女性とお付き合いはさせていただきました。ですけど、どうも上手くいかないと言いますか、相手の顔色を伺ってばかりで、きっと退屈にさせてしまっているんでしょうね。結婚したとしても、子供は作らずに不倫されてるか、離婚してるんじゃないかなぁって」
すみません、大変失礼な事を聞いてしまって……。
「大丈夫ですよ。こういう話しは慣れていますから。今は気さくなおじさんとして親しまれていますから、全然大丈夫です。ここのランチもこうやって食べれてますし、お金には困っていませんから。凄くないですか? あまりおススメできるやり方ではありませんが、株が上手くいっているんですよ? もう少し稼いで、楽しみたいなぁ~~、なんて」
楽しみたい? それってどういう風にですか?
「遊ぶ道具ですよ。子供の玩具とか買って遊ぶんです。といっても、今はネットで売れますから、暫く使ったら売るんですけど……これがまたクオリティが高くて高くて。昔はもっと簡単なのがありましたが、今は凄い凝ってるんですよね? 吃驚しますよ。あぁ、誤解しないでほしいんですけど、私が好きで買っているわけじゃなく、そういう製品を調査するっていうところで働いているから、つい研究の為に買っちゃっているだけですから」
ははは。別に誤解なんてしてませんよ。
「欲しい子供達がいたら、プレゼントとしてあげたりしてるんですよ。普通は不気味に思ったりするんですが、交友関係といいますか、いい人に見られているようで。前にお礼で、お家に上げてもらってお茶会を楽しませてもらったりしましたから。嬉しいなぁ」
確かに。おっと、もうこんな時間になりますね。ここの支払いは私がしておきますよ。
「本当ですか? 嬉しいなぁ。それじゃ今回は奢られます。次会った時は、別の話しをしましょう。では、また」




