第二十三章 上層部
大我は、白鳥警備会社に呼び出しを受けた。その日が、連絡を貰ってから数日後の休日。暫くしてその日はやってきた。ただ一つ、紀美代を連れて行く事を条件とした。これに上層部は了承。
紀美代は白鳥警備会社に大我を連れて、車ではなく歩きで到着し、中へと入る。
大我はこう見えて筋肉量が他の人よりも多いとの事。どのくらいの筋繊維を持っているのかは分からないが、少なくとも地面を陥没させられる程の怪力。そんな怪力少年と紀美代が、社長室の前に到着する。
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社長室の周りには何もない、エレベーターが開いてすぐ目の前に社長室の部屋がある。こんな簡素な場所なのだろうかと考えたが、表には見せられない部分が多いのだろうと考えた紀美代。
「大我君、一郎と二郎は――」
「持ってきてるよ」
「……置いて来てって車の中で言ったと思うんだけど~~」
紀美代が大我の両頬を掴んで横に広げると、大我が嬉しそうに笑う。全く気にしてないのが分かる。
「楽しそうなのは分かるけど、そろそろ入ってきたらどうだい?」
所長が扉を開けて、微笑ましい光景に表情を笑みにしている。紀美代は立ち上がり、服を正す。
「お疲れ様です」
「あぁ、所長さんだ。久しぶりぃ」
「石の件以来だから、久しぶりだね。君の望んだ四人が来てくれているよ? 本当に勇気がある子だよ、君は」
「勇気がある戦士だからね」
どうぞ、と一言。その言葉と共に扉が開かれ、大我と紀美代は入る――
「!?」
紀美代は、目の前にいる四人の男性に、固い唾を飲み込んだ。
一人は、ガタイがよく顔付きも髪型も厳つく、黒いスーツ姿に身を包んだ男性。
一人は、眼鏡を掛けて肩まである髪に弱弱しい表情、何処か博士のような恰好をした男性。
一人は、金髪で短髪、顔は中世的で執事の服に身を包んだ男性。
一人は、銀髪の長髪にイケメンと言える顔付き、銀色のスーツを着ている男性。
「(この四人が、上層部と呼ばれる四人?)」
紀美代は、ガタイがいい男性からの睨みに怯えるが、大我は真っ直ぐ歩き、椅子に座る。
部屋はそんなに広くもなく、椅子が四つにテーブルが一つ、奥には簡単な台所のようなものがある。ここが社長室? と考えてしまう程に。
「大丈夫だよ紀美代さん。檻の中のライオンさんだから怖くないよ。ね?」
「あっはっはっは。檻の中のライオンか。凱汪、言われているぞ?」
「笑うな、親の七光りが。にしてもクソガキ。俺達を呼び出すとはいい度胸してるじゃねぇか?」
凱汪と呼ばれた男性が大我を睨む。が、大我は笑顔で、
「じゃないと出てこなかったでしょ? 良かったねぇ、出て来れて」
返答した。これには執事服に身を包んだ男性が微笑する。
「エド……てめぇ、今笑ったか?」
「いやぁ。あの凱汪さんが、子供相手にここまで言われるとは思いもよりませんでしたので、つい」
「確かに」
「卓郎! その眼鏡壊すぞ!」
「暴力は良くないなぁ、凱汪」
「落ち着け、凱汪。お前達も笑うな。君の挑発で、私達の中は余計にこじれているよ、大我君」
「のわりに、落ち着いているよね? なんでだろう~」
紀美代が恐る恐る入ると、所長が座るように促す。え、座るの? と言いたそうな表情で所長を見れば、それに対して所長は頷き返す。座るように、
「(怖いんですけど)」
「(頑張りたまえ)」
紀美代はゆっくりと大我の隣に座り、四人を見る。この四人が……上層部。始めてみた。
「先日の戦いは見事だったよ。まさか、呼び石の欠片を破壊されるとは思いもよらなかった。驚かされたよ」
「でしょ~~。あのステージを作ってた人はどうなった?」
「彼は今、別の会場でえっせらおっせらと仕事を淡々とこなしているよ。ただ、この前のステージ破壊には随分ご立腹だったみたいだけどね」
「それが狙いだったんだけど、前には出てこなかったかぁ~~。あるいは――出さなかった? 銀髪のおじさん」
笑顔で質問する大我に、男性は一度だけ咳をする。
「私は龍宮寺 大門。この三人を含め、このコロシアムを運営している人間だ。先程、凱汪が親の七光りと言ったように、悲しいかなそういう立ち位置にいる」
「大変だねぇ~~。まぁ僕には関係ないかなぁ? それよりも、大門さん?」
「なんだい?」
「自分達だけ欠片を持ってるって酷いなぁ。司会者さんにも渡してるでしょ? 僕にも頂戴よぉ」
子供の要求に大門は笑う。
「はっはっはっは。気付いていたかい。けど、これは渡せないんだ。数に限りがあるのでね?」
「そうなんだ~~、数に限りがねぇ~~。だったら、その胸元にある欠片、頂戴」
笑顔で、左手を前に出して大門に向かって言う。
「君は非常に我儘なんだね?」
「我儘は子供の特権だからね。おじさん達が僕から何かを得ようとしているのは分かるよ。そっちの眼鏡の人がさっきから僕を分析しているみたいだけど」
大門を見ながらの発言だが、卓郎は少々驚いた顔をする。
「分かっているのかい?」
「まぁねぇ~~。見られているんだもん。ちょっとそこの眼鏡のおじさん、もう少しプライバシーっての考えてくれる? 僕、本気で怒っちゃうからね?」
「……大門」
「やめておこう、卓郎。彼が本当の事を言っているのなら――――」
大門が会話している中で、凱汪が突然立ち上がり、大我を見る。その行動に紀美代と所長は驚いたが、何より驚いているのは、凱汪だった。
突然動き出した筈だったのに、既に大我が凱汪の腹部に蹴りを入れていた
「ぐぅ!?」
「おじさんの動きに合わせちゃった」
大我の言葉の後に、凱汪は大我を掴み、床に向かって思い切り投げ落とした。それだけで衝撃が発生。
「きゃ!?」
紀美代がつい声を出してしまう。それとは対称的に、床を割って背中で着地した大我が、笑顔で凱汪を見る。
「駄目だよ力だけのおじさん! 自分だけが力が使えるからって油断してたら!!」
「!」
凱汪は、掴み投げた手を見る。その手は、指が曲がっちゃいけない方向に曲がり、肉を突き破って骨が出ていた。
「力ってのは、こう使うの!」
その場で飛び、左足で上に向かって蹴り上げると、凱汪の顎に直撃し、そのまま天井に突き刺さる――だけで終わらず、屋上に出る。その攻撃に紀美代と所長は驚くが、上層部の三人は溜息をするだけ。
「今すぐ彼を止めなければな。エド、任せた」
「分かりました」
エドが一歩前へ飛ぶと、飛び出した天井の元へ到着、そのまま外へと出る。何やら外で会話が始まったが、大我は気にせずに行こうとする――のを、大門が目で大我を見る。
「やめておいてください。この建物は、まだ壊したくないので」
「えぇ~~? あのおじさんが最初に動いたんだよ? 追い詰められて当然じゃない?」
「それはまた、別の機会で。今回は、私達に対しての行いの確認と、目的を聞きたく、私達は大我君、君を呼びました」
その発言に、大我は、成程ねぇ、と呟き、紀美代は双方を見る。何が起きているのだろうか。
ただ、外で轟音が響いているのが聞こえ始めた。大門は一度だけ咳払いをし、
「少しお待ちください」
十数分後、元の席に座った凱汪。先程の怪我が治っているが、何やら不満な顔をしている。エドはエドで疲れている。
「さて、これで君の目的を聞く態勢にはなりました。ぜひ、お聞かせください」
「いいよぉ~~」
大我がいつも通りの言葉遣いで言っている事に、紀美代は少々違和感を感じた。が、その違和感はすぐに分かった。
「紀美代さんのお兄さんを殺した千葉 隼人。その人間を僕に殺させてほしい」
その言葉に、紀美代が驚いた。まさかこの子……全ては――、
「全ては、隣にいる千波 紀美代さんの為の行動かい? 大我君」
「約束したからね」
真剣な顔で、さも当然だと言うように答えた。それには紀美代は、自分の胸の前で左手を握り、何も言えなくなった。
エドは、成程~、と一言。
「三回戦のあの言動は、私達に対する挑発なのではなく、彼女の願いを叶えさせる為に私達を引っ張り出したってことかい?」
「そうだよ、全ては紀美代さんの為に。約束事はちゃんと守ろうって、教わったからね」
笑顔で答える姿に、所長は感心。大門は数回頷き、
「簡単に言えば、代理人による復讐か」
「結果的にはね。でも、千葉 隼人は勝ち進んでるんでしょ?」
「あぁ、そうだ」
素直に答える大門に、凱汪は睨む。
「こうまで手玉に取られているんだ、敗北を認めよう。確かに千葉 隼人は進んでいる。そして、既に決勝へとコマを進めている」
「……決勝」
紀美代が真っ直ぐ見て、ゆっくりと言葉にした。
「前の会場が使えなくなったからね。短い期間だったが、先に戦わせた。その結果、千葉 隼人は決勝戦へと勝ち進んだ」
「へぇ~~。それじゃ、アレかな? 僕は次が準決勝で、最後に千葉 隼人になるのかな?」
「そうなるな。だが、次の相手は……レッド・ホークのように甘くはない」
そう言うと、卓郎が懐から資料を取り出し、二人の前に置く。そこには一人の男性の写真が貼られている。ただ、ピエロ姿をしている。
「――ピエロ?」
「連続殺人鬼にして、現在逃亡中である、黒井 正弘。ここまで、一回戦から三回戦まで全て殺してきた人間だ。千葉 隼人同様にな」
「黒井 正弘って――あの!?」
紀美代は知っているのか、驚く。大我は資料を持ち上げて正弘を見る。ピエロの恰好をしているからなんとも言えないが、恐怖の象徴みたいにはなっているから、怖さはある。
「知ってるの? 紀美代さん」
「知ってるも何も、子供だけをさらってバラバラ殺人事件を起こした異常者。お義父さんが捕まえられなかった唯一の連続殺人鬼よ」
大我は知っている。紀美代のお義父さんが元刑事である事を。つまり、それだけの年月が経っているという事だろう。つまりは――、
「こいつを殺せばいいんだね? 大門さん」
紀美代は大我を見る。大我は真面目な顔をしたまま。大門は頷き、
「簡単に言えば、そういう事になるね」
「なぁんだ。だったら紀美代さんの為に、二人殺してもいいんだね? やったね!」
無邪気な笑顔で紀美代を見る。その笑顔に、何処かホッとしている自分がいた紀美代。ただ、所長からして見れば、異様な光景にしか見えないが。
「(これは、この二人の物語だ。簡単には邪魔できないな)」
そう考えながらも、数十分間会話がなされたのち、解散となった。
対戦相手が、義理の父と兄の仇になってしまったが。




