第十六章 三回戦 vsレッド・ホーク2
三回戦、大我とレッド・ホークの戦いが始まった。始まりの合図があった直後に、レッド・ホークは一発撃った。戦いの合図とばかりに盛大に一発。
紀美代は慌ててモニターを見たが、大我に何かがあったわけでもなく、動きを止める事無く上へと登っている。良かったと思った。その時の表情が優しかったのか、司会者と女性スカウトはうんうんと頷いてくれた。
いつの間にか現場では、大我贔屓みたいになっていた。
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「(さて、一発撃って私の居場所を教えたけど……どうせ頂上だから分かっているか。ここは手心を……いや、するわけにはいかない。これでも昨日、怖い思いをさせられたんだから)」
喫茶店での事を思い出す。あの出来事がいったいなんなのか未だに分からないが……、
「(何かをしたのは確かだ。もしかしたら、彼の能力か? いや、欠片がなければ発動しないと事前に知らされているし、現に使えなかった。この場所では――、使える。なら、あれは能力じゃない。私が怯えた結果だ。……何に対して?)」
ふと、思い出す。あの時起こった事を。いや、駄目だ、思い出しては駄目だ。
「(今はそう言ってられない。集中、集中、集中)」
深呼吸をして、スコープを覗き込み、来るであろう方向を見る。倍率を少し上げて、音を聞き分けて……、
「?」
聞き分けている音で、明らかに揺らしている音が聞こえる。木々が揺れている音。それが見ている方向から――いや、右から左、左から右へと、木々が揺れているのが分かる。
レッド・ホークは、まさか……とスコープから目を離し、揺れている木々を見る。まるで猿が、左から右へ飛んでいるかのような動きに合わせて木々が動いているかのように。
ここの木々は密集されていない、大きな空間がある。こちらとしては有利、にも関わらず肉眼では見えない。が、木々は揺れている。葉っぱのない部分に何かが通った。通った?
「あ、あっはははははは……、まさか、まさかよね?」
そのまさかが今、起こっている。大我が一本の木の上に現れ、レッド・ホークを見た。スコープを覗かずとも、そこにいる事が分かる。
「まさかが起きたわね……」
レッド・ホークは大我が手を振っているのを確認する。自分から居場所を教えている。殺してくれと言っているのだろうか? と考えてしまった。そんな大我だからこそ、
”面白い事に、木々を飛んで真っ直ぐ近付いてきた”
「!?」
レッド・ホークはスコープを横にズラしながら身体を持ち上げ、大我を見る。大我は真っ直ぐに、木々を蹴って目標へと突き進む。レッド・ホークは大我の身体に向けて一発撃つ。が、それを知っているかのように回避、木々を猿のように動いて飛んでいる。薬莢を取り出し、飛び出したところを一発撃つが、空中で身体を動かして回避、
「(今の避けるのか! ジャパニーズニンジャめ!)」
薬莢を取り出し、二つの落ちた薬莢を拾い空に向かって投げる。距離にして二十メートルだが、地面を走って来るよりも速くレッド・ホークに接近している。
「(これは能力? だとしたらなんの能力になる? 身体能力の向上? 未来予知? 分からないわね……)」
そこでレッド・ホークは、一つの答えを導く。何故こういう対戦カードになったのか。それはレッド・ホークの能力にある。それならば、大我という子供の能力を知るのには、
「(絶好の能力って事ね。私はその為の道具って事かしら? 嫌になるわね!)」
スナイパーライフルを地面に置き、背後へと飛んでいき、両手にハンドガンを作り出し、背後に軽く投げてマガジンを手の平で半分つくり、周りへと捨てていく。それを三回繰り返し、左右に四つずつのマガジン、背後に八つのハンドガンがある。
「(準備は急遽だけど完了した。次は出てきた所を、撃つ!)」
どう出て来るかを予想するレッド・ホーク。真っ直ぐ上がってくるか、地面から上がってくるか、左右から上がってくるか、背後に回ってくるか……
「と、考えている暇なんて――無いのよね!」
瞬間、レッド・ホークは頂上に立っている木よりも高い位置に突然出現し、真下を見る。大我が木の撓りを利用して真っ直ぐ中央の木に向かって飛んでくるのが分かった。それだけでもレッド・ホークにとっては有利な情報だ。
「空に出現するんだね!! 成程!」
成程と笑顔で答えている大我を、空から見下ろす。今の成程は、能力の断片を見たから出たのだろう。だからどうしたというのだろうか。そう言いながら薬莢を作り出し、大我が来た方向へ向けて投げる。
「悪いね、大我君。これで、終わりにしてあげるよ!!」
大我が飛んでくる位置が、先程レッド・ホークが居た場所に近付くのを確認。そこで即座に深呼吸をし、目から光が無くなる。瞬間――
「――」
レッド・ホークが先程投げた薬莢の場所に出現すると、大我がいる場所から、発射音が十秒間程撃ち続けられる。空中で振り返りながらハンドガンを構える。口許を笑みにし、額から汗を流す。
「マジか! この子――マジか!」
「今の連続銃撃は焦ったよぉ~~、お姉さん!!」
大我がレッド・ホークに接近しながら、鉄の棒を構えている。どうやって接近までしてきたのかレッド・ホークからは分からなかったが、一つだけ確実なのは、
「(一発も、服にすらもかすりはしなかったところね!! ヤバいわこの子!)」
そう考えながら三発、間隔が短くなるように速射。が、狙った場所が分かり切っているのか、鉄の棒を斜めにして全て防御……いや、いなした? そんな事が可能なの?
「それ!」
大我が突きを繰り出すが、手にマガジンを作りながら真上に向かって投げる。直後――、
「真上からならどうかしら」
レッド・ホークが大我の真上に出現する。それも構えてある状態で。だが、レッド・ホークが深呼吸をしながら……真上を、こちらを見ている大我と目が合う。それも、鉄の棒を振っている状態で。
「成程ね! 感覚で理解しているわけか!」
構えをやめて手を引っ込めて鉄の棒を回避、雑に片手で構えて大我に向けて撃つが、既に射線から外れている位置を通過していた。距離が離れれば離れる程に当たらない――が、
「逃がさないわよ」
レッド・ホークがその場で消えると、最初に構えていた位置に出現しており、遠くへ飛んでいる大我をスナイパーライフルで構えている。が、銃身に石が真上から当てられ、スコープから目を離した。いや、離されてしまった。
接近戦を挑んできたけど、今ので知られた可能性は高い……が、問題なし。
大我が手を振りながら一つの木に落ちた。そんな落ち方にちょっとだけ微笑んでしまった。だが、再び木々が揺れ出し、飛んで移動しているのが目視で分かる。
まだ戦いは始まったばかりだというのに元気な子供だ、と考えながらもスナイパーライフルをその場で置き、マシンガンを両手に出現させる。
「悪いけど、こっちは気分的にこの気持ちをちゃっちゃと晴らしたいから――やらせてもらうわ」
深呼吸をすると同時に、マシンガンを撃ち始め、大我の通った後を追うように曲線を描く。直後、大我が通った背後から無数の銃弾が出現し放たれる。大我からすれば、後ろから銃弾の雨が飛んでくるようだろう。
レッド・ホークが右目を閉じれば、大我の姿が右目の瞼の裏に映し出される。大我は、まるで分かっているかのように飛んで回避している。いや、途中で蹴る位置を変えて下に移動している。だからこちらも、さっきの十倍の銃弾で大我を追い詰める。
それでも、それでも――、
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「捕まらない! 大我選手! レッド・ホークの雨あられのマシンガンによる銃弾を全て避けている!!」
「うっそ! あれを避け続けられるの!?」
司会者、女性スカウトが驚きの声を上げる。が、これには紀美代も驚いている。なんで分かるの? いや、分かる? それって見切っているって事?
「銃弾の嵐がドンドン増え続けられていく! そして大我選手の前からも銃弾の雨が撃ち始められるか――それすらも回避する!! なんなんだこの子は!?」
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「速度系統の能力か!? だが、レッド・ホークの銃撃から逃れ続けられている速度は変わらない……となると、未来予知か!」
「だが、それだと一回戦と二回戦の戦い方や勝利の仕方に疑問が残る! 大我選手はどう判断して避けている! 解析するぞ!」
監視室では、大我に対してのリアルタイムによるデータ収集が始まっている。
『なるほどねぇ~~。攻撃方法はなんとなく、なんとな~く分かってきたなぁ~』
モニターから大我の声が聞こえてきた。皆がモニターを見た時には、笑顔で銃弾を回避している姿が映し出されている。身体を器用に捻りながら、楽しそうに飛びながら、時には木を蹴って横回転しながらと、戦いではなくまるで遊んでもらっているかのような行いに、監視員が他の者達を見る。
「あれは速度系じゃない未来予知系統! じゃなければあの動きは出来ない!」
「一度それを捨てろ! 速度は自力、力も自力、回避も自力であると考えるんだ!」
「そんな人間がいます!?」
「今映っている大我選手がそうだろ! くそ! 欠片に使用しているかどうかが判別出来る機能があれば、こっちがこんなにも苦戦する必要もないのに!」
所長は監視員達の言葉を聞きながらも、椅子に深く座る。
「まるで天狗だな」




