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第十五章 三回戦 vsレッド・ホーク1

 戦い当日。時刻は十時五十分。場所はいつもと変わらないが、形状を見て、紀美代が方頬を動かす。それは急な斜面と、平面が組み合わされた森林。見ただけで、ここだけが違う森……いや、山になっているのだと分かる。戦う舞台にはフェンスが作られており、高さは見ただけで三メートルはある。

 司会者が出している映像を紀美代と女性スカウトが見る限り、中央が一番高く、太い木が立っている。そこを中心として上へ盛り上っているようだ。どうしてこういう形なのかと聞いたら、上層部からの命令らしい。地形を作っている者もそれに従っているとのこと。

 紀美代は明らかに、これは大我を狙っているのではないのか? と考えてしまった。実際に、先に中に入るのはレッド・ホークだ。


            ▼


「別にいいんじゃない? 僕はお姉さんが先に行っても、問題ないよ」

「言うわね~~。こっちは手加減しないから」


 レッド・ホークが右手を差し出すと、大我はなんの疑いもなくその右手を握る。


「死んじゃったら、恨んでいいからね?」

「大丈夫だよ。僕は死なないから!」


 笑顔で答える大我に、紀美代は心を痛めた。これは間違った選択だったのか? そう思い、ふと女性スカウトを見る。そこには首を横に振る女性スカウトがいる。もう遅い、と。

 手が離れると、レッド・ホークは鞄を持ち、先に中へと入る。道を上へ上へと登っていくレッド・ホークを見て、大我は司会者を見る。


「ねぇねぇ」

「なんだい?」

「もしお姉さんが屋上に付いたら教えて。そしたら僕が入るから」

「……いいのかい? 俺も、今回の戦いは分が悪いと思うんだが……。いや! 前の戦いを見ていたから分かるぞ! 君の強さは分かる! けど流石に今回は相手が悪い。降参した方がいいんじゃないかい?」


 司会者が優しく言うが、大我は首を横に振る。


「大丈夫だよぉ。きっとお姉さんは上に上がるまで時間かかるだろうから、少し待ってよぉ~っと」


 そう言うと、入り口前まで行き、その場で屈む。まるで、待て! をされた犬の様に大人しく待っている。ただ、鉄の棒だけは地面を何度も叩いている。リズムよく、一定に。


「いいんですかぁ、先輩。始まっちゃいますよぉ~」

「……あの子が最後に、大丈夫って答えちゃったから、私は覚悟を再度するだけよ」


 そうですか、とぶっきらぼうに答える女性スカウト。だが、とても優しいのが伝わる。だからこそ紀美代は、じっと大我の背中を見る。今か今かと待っている、大我の後ろ姿を。


            ▼


 そうとは知らずに、レッド・ホークは問題なく登る。途中で坂を上る道に当たり、上へグルグルと登れるようになっているのを確認する。


「見晴らしはいいけど、森になると障害物が多いわね。けど、隙間は結構あるから――なんとかなるわね」


 そう発言しながら、一枚のモニターが目の前に出る。そこには、大我が入り口前で屈み、鉄の棒を何度も叩いている様子が見れる。まだ入らないのか?


『どうやら、君が一番奥に行くまで待っているそうだぜぇ』

「あら? 司会者じゃない。っそ、ありがとう。けど映像を見せるなんて、どういう事かしら?」

『なぁに。ちょっとした俺からの、可愛い可愛い子供の姿だよ。本当は見せるのは良くないんだけど、今回ばかりは、な』

「大我君には味方が多いわねぇ~~。さっき私のスカウトも、本当にいいのかって確認をしてきたわ。私だって降りるようにお願いしたけど、駄目だったのよ。仕方ないわ」

『分かっているさ。だからこそ、最後になるかも知れないからね、この姿を』

「……ありがとう。上がり切ったら、私は本気で戦うわ。子供だからって容赦なく撃つ。それだけは変わらない。こっちだって――」

『言わなくても分かっているよ。やる事があるんだろう? 誰だってそうさ、やる事がある。君が殺した一回戦と二回戦の相手だってやる事があった。だが君はそれを撃ち抜いて今上がっている。一歩一歩と。それを止める気が……いや、よそう。すまない、俺の私情が入っている。上に付くまで、見させてもらってもいいかい? 着いたら報告してやりたいからね』

「いいわ。……ありがとうね、理性ある司会者さん?」

『理性がない司会者はもう司会者じゃないと思うけどなぁ。まぁいいや』


 今回の戦いは、現場では大我に同情が集まっているが、それ以外では私に集まっているように感じられているなと、レッド・ホークは考える。この地形は明らかに……私に有利過ぎると考えてもいい。一回戦と二回戦を見たであろう上層部なら分かっているだろう、私の能力を。なんだか、贔屓されている気分になっているのも否めないわねぇ、と。


「(これでいいのかしらねぇ)」


            ▼


「今お姉さん、どのあたりぃ~~?」


 大我が立ち上がって振り返り聞くと、司会者が映像を遠ざけて確認する。


「もう少しで頂上だよ、大我君」

「分かったぁ~~。ちょっと、フェンス叩くねぇ~~。うるさかったらごめんね~~」


 そう言って大我はフェンスの所まで行き、何度もフェンスを叩く。強く叩いているわけでもなく、小さく、細かく、一定のリズムで。何かを考えている時の行動なのだろうか、と司会者は考える。


「大我君のスカウトさん。あの行動って何なんですか?」

「え? あ、はい。考えている時とかによく見る行動ですね。戦いの中でもよくやってる行動ですね」


 司会者の質問に紀美代は答える。答えながら、確かにいつもやっているなぁと考える。多動症……というわけではないだろうから、ただ単にルーティンとして取り入れているだけなのかも知れない。


「へぇ~~、なるほどね~~」


 ふと、大我が何かに気付いたのか、それともただ頭の整理が整っただけなのか、言葉にする。そして叩くのをやめて、再び入り口の中央へと行き、頂上を見て頷く。


「お。レッド・ホークが中央に付いたぞぉ~~」

「ありがとぉ~~」


 大我が前を見てお礼を言えば、中へと入る。入ればフェンスが出現し、出入り口が閉まる。それには紀美代も少し驚いたが、逃げ場は無しという事だろう。

 紀美代と女性スカウトがモニターを見れば、レッド・ホークが銃を組み立てている。組み立てが終われば、試合開始か……と、考える紀美代。


「大我君!!」

「ん~~?」


 大我が振り返って紀美代を見た。紀美代は何かを言おうとしたが、その言うべき言葉は飲み込み、強い意志で大我を見る。


「勝ってきて!」

「いいよ~~」


 12才の男の子が見せた笑顔だが、あの笑顔が消えない事を願う。

 大我は前へと行き、ゆっくりと登り始める。やはり子供、登るのが大変そうだという印象がある。何度も地面を踏んでは踏ん張って登っていく。


「先輩。棄権してって言いそうになったでしょ」

「……飲み込んだわ。覚悟があるって言ってくれたでしょ? 私が参ってどうするのって話しよ」

「……強いのか弱いのか、分からないですねぇ~~」


 本当に、女性スカウトは優しい。けど、私達は負けてはならない。そんなレールの上に乗ったんだから。


            ▼▼


 監視室では、今か今かと戦いが始まるのを待っている。今日がお昼頃なのは、単純にこの後のコロシアムの試合があるからであり、ランダムで決められている……筈だ。


「所長。レッド・ホーク選手は定位置でライフルを組み立て終わり、準備完了の旨を司会者に伝えました」

「大我選手も、いつでもいいとの事です」

「そうか」


 所長は、この時間帯も彼女にとっては”有利”であると考えている。こちらでは彼女の能力を知っているからだ。勿論、ここにいる監視員達全員知っている。だからこそ、


「今回の戦い、なんか仕組まれてないか?」

「分かる。いくら大我選手の能力が分からないからって、これはないだろうよ」


 部下の言うように、仕組まれたと考えるべきだろう。対戦相手や対戦時間は、どちらもランダムとは思えない事が起きていた。

 一回戦である三木島 裕也。前回のコロシアムでその能力は知られていた。彼の能力は夜にこそ強く発揮される力だった。爆弾魔としての、ゲーマーとしての動きが出来ていた。

 二回戦である小田 耕三。一回戦を見る限り、接近戦での戦いが得意であり、手の平で受け止めて盗む能力と、鈍っているとはいえ格闘技である空手を用いての攻撃は、能力と相性が良かった。

 この両方が、大我という子供に対するメタ的要素が含まれていると、所長は考えている。だからこそ、今回の戦いは……レッド・ホークに勝たせる為とも取れるし、大我という子供の能力を知る為であると見て取れる。つまりは――、


「(上層部でも、知りたがっているのだろうな。彼の能力を)」


 そう考えていると、現場にいる司会者から連絡が来た。始めていいか? の連絡だ。それに対して、始めてくれと答えた。


『では、双方が準備できたということで……第三回戦!! 白濱 大我vsレッド・ホーク!!』


 映像からは司会者の声が響く。その言葉にレッド・ホークは這いつくばり、出入り口にライフルを構えた。大我は聞きながら上へと上がっていく、


『試合、開始!!』


 その言葉と同時に、レッド・ホークは一発、大我がいる方向へと撃った。



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