第十四章 とある二人2
レッド・ホークの言葉に、大我はジュースをすするのを止め、レッド・ホークを見る。これには、食らいついたか、とレッド・ホークは考える。先程の会話は、ただ対戦相手である大我をコロシアムの辞退のお願いをしにきたのだが、そうはいかなくなった。だから、プログラムを変更する。
相手をただの子供ではなく、取引相手だと再設定して、会話を続ける。
情報の開示。
これを最初に投げる事で、相手の気を引く事に。この子はただの子供じゃない、ましてや頭のいい情報屋でもなければ依頼主でもない。
一人の、傑物だ。
▼▼▼
喫茶店で、新しく飲み物をお願いして持ってきてくれた女性に礼を言うレッド・ホーク。大我は、じっとレッド・ホークを見て何かを考えている。まるでこちらの意図を探るかのように。
「(ただの子供じゃないと認識したけど、これじゃあ立場が違うじゃないのよ。全く、嫌な相手に接触したわね、本当に)」
とは言え、まさかこちらの情報を開示するはめになるとは……思いもしなかった。が、先程のは明かにおかしい状態だった。人間が消えたんだ。いや、消えたように、見えたのか?
もしそうだとしたら、この子がそれを解き放ったと考えるべきだ。その、”何か”を
「参加したうちの一人って言っていたけど、他にも参加者がいるってこと?」
「そうね。けどこのコロシアムには私だけよ。他には別の呼び名で行われているわ。大会だの楽園だの最後の晩餐だのと、ね。他にも行われているって情報よ。日本と私に依頼した人間がそう言っていたわ」
「へぇ~~。成程ね」
大我が何かを納得したかのように、ジュースを飲み切る。サンドイッチは既に食べ終えており、残るはレッド・ホークのお変わりした炭酸ジュースのみ。大我は水を一口飲み、考える。
真剣な顔つきになった大我の表情に、一瞬だけレッド・ホークはドキッとしたが、顔を振って今の感情を抑える。
「別の国でも行われてそうだね、こういうのって」
「どうかしらね。私はただ、依頼主に頼まれただけよ」
「そう。けどあの石にそんな意図があるとは思えないんだけどなぁ~~。使う人間側の問題じゃない? 日用雑貨だって使いようによっては武器になるのと同じで」
「それは思うわ。包丁なんてただの凶器じゃない? 怖いわよねぇ~~」
「銃の方が怖いけどね」
「鉄の棒だって怖いわよ」
レッド・ホークは炭酸ジュースを直ぐに飲み終え、立ち上がる。
「続きは、別の場所でお話しをしましょ? 大我君」
「いいよぉ~~。僕も、お姉さんのお話しには興味があるなぁ」
▼
「え? レッド・ホークには別の目的がある?」
「そうです。私に近付いてきた時点で、私が何者なのか既に知っている状態でしたし、すんなりと言う事も聞いてましたから。監視員の情報ですと、石に対して興味深く見ていたらしいですからねぇ。まぁ力を与えられた時は呆然としていましたけども。ちょっとエロかったです。こう、はだけてる感じで」
「それはいらない情報ね……」
白鳥警備会社の休憩室にて、女性スカウトと会話を続けている紀美代。お互いに探ろうという考えはないが、女性スカウトが勝手に話しをし出したので話している。向こうには探ろうという気持ちはなさそうだ。
「一応私も、レッド・ホークには気を付けるよう所長から言われているんですけども、上層部が面白そうだからそのまま動かしておけっていうもんですから」
「上層部が……」
ここで上層部が出て来るとは思わなかった。あまり口出しをしてくるような方々? ではなかったから、ちょっと驚いた。まさか、何かを知っているの?
「このコロシアム中に殺されるかもって考えと、たとえ生きていたとしても別の人間か上層部に殺されるかも知れないですよねぇ~~」
「……嫌な話しね」
「そもそも、賞金を懸けた戦いを、犯罪者歴がある者達が行うのがおかしいんですよ。力を与えている石だって、なんか今は動いていないみたいですけど渡していましたし。それに、上層部の人達も、元々は犯罪者だったって話しもありますからね?」
え? と声に出した。それは知らなかった。何故そんな事をこの子は知っているんだろう? そんな言いたそうな視線に気付いたのか、女性スカウトは小さく溜息をする。
「一応、噂ですからね? 根も葉もない噂を話しただけですよ。けど、上層部も力を有しているから、そうなんじゃないかって考察がされているのが昔から流れていたって感じです。現に上層部に上がった人間は、元犯罪者らしいですからね」
「……もしそれが本当だとしたら、この会社って何が目的で動いているのかしら」
「千波先輩って何も知らずに入ったんですね」
「え、えぇ。私はここの警備会社の事務員から、引っ張ってこられた人間だから……」
「あぁ~~、成程。正規ルートなら知らなくて当然ですね」
正規ルート? とつい小声で言ってしまった紀美代に、女性スカウトは周りを見回した後に紀美代の隣の席に座り近付く。
「私って、元々スリをしていた人間なんですよ」
「え? そ、そうなの?」
「そうです。んで、ここの人間の財布をスリしたんですけど、どうやらマズいもんを見ちゃったらしくって、殺されそうな所を、現所長が助けてくれた感じですねぇ。そんで死なない代わりに働かせてもらっているって感じぃ」
まさかこんな近くに軽犯罪? を犯した人間がいるとは思わなかった。まさか、
「私って正規ルートってさっき言われたけど……もしかして」
「そうです。何も知らないか、何かの関係者である人間かでなければ引っ張って来られませんし話しません。犯罪者同士戦わせて、酷い映像が流れたりしたとは思いましたけど、昔は、なんでこんな仕事を、的な感じだったと思いますけど、今は慣れたでしょ?」
「……確かに、最初はそんな感じだったけど。今になって思えば、辞めようかなと思ったタイミングで不思議と悩み相談がきたり、辞める選択肢以外の事をお勧めされて実行されて、今は麻痺しちゃってる感じね」
「でしょ~? 千波先輩の場合はどっちかは分からないけど、罪悪感はあったんじゃないですか? 所長に聞いたら、過去の大会の優勝者にお兄さんが居て、今回参加している千葉ってやつに殺されたらしいじゃないですか」
「!?」
その発言に、紀美代が驚きの顔で女性スカウトを見る。
「どうしてそれを……貴女が?」
「直接聞いたんですよぉ。さっきみたいに、どうにかして子供を殺さない方向に持っていけないかって考えた時に色々と。そしたら教えてくれました。ちなみに、その千葉、まだ負けてないそうです。一回戦と二回戦、相手を殺してます」
その発言に、そう……、と答えるしかない。ただ言えるのは、生きているのね、という安堵。そうでなくちゃ困る。こちらとしては、大我という子供に託したお願いだ。
……ただ。今となっては、誰かに殺されたとしてもいいとも考えている。そうすれば、このコロシアムに参加しなくてもいい事になるし、辞退という選択肢が増える。ただ、彼が納得するかどうかは別として。
「どうして戦う前に、そんな事を教えてくれるの?」
「いや、揺さぶりになるかなって。もし棄権をしてくれて、うちのレッド・ホークと千葉が相対した時に、千葉を殺してもらえるかも知れないって、考えません?」
「……最初からそれを言われていたら考えてはいたわね」
「あっちゃ~。言うの遅かったかぁ。まぁ別にいいですけどね」
そう言って立ち上がり、歩き出す女性スカウト。
「それじゃ、戦い当日になったらまた会いましょ~~」
「えぇ」
なんだかんだ、心配はしてくれているみたいね。とても優しい子なんだなと思った。
▼
一方、レッド・ホークと大我は土手に来ており、中腹くらいで二人横並びで座っており川を見ている。とても広い川で、対岸に行くには百メートルはありそう、などと勝手に考える。
「お姉さんってやっぱりおっぱいデッカイね」
「おっほっほっほ。女の武器だからねぇ~。大我君は幸せ者よ~?」
等とちょっとだけ笑いながら会話をするが、レッド・ホークは一呼吸をしてやや空を見上げる。
「さっきも言ったように、石の調査をするってのが私の目的ではあるのよ。それが掴めて依頼主に報告出来れば問題なし。報酬も入って国に帰って、家族に送る仕送りも出来るわ」
「大変だねぇ~~」
「君はどうだった? あの石に出会ってみて。力を得る前に、何か感じた事はなかったかしら?」
「そうだね~~。少なくとも、お姉さんが望んでいる事はなかったよ。こう、じっと見ながら、石が青く光っているくらいだったね。近付いたらセンサーに触れてうるさかったし、もっと近付いたら鉄格子が出てきて電気が流れてたし」
「そうなの? やっぱりそれだけ厳重にしてあるのね……。あのケージ、簡単には壊れなさそうだったし、盗みも無理だろうから……。なんとか優勝して、報酬として欠片くらいは貰えないかしらねぇ」
「無理無理。僕が優勝する予定だから。それに……」
レッド・ホークは大我の横顔を見る。12才が出せないような真剣な顔付きをして
「優勝は僕がする。そんで、やりたい事があるんだ」
その横顔に、レッド・ホークは再びドキッとする。
「(やだやだ、私ってば、子供にこんな感情を抱くなんて。ショタコンじゃないんだから、っもう!)」
そう考えながら深呼吸をして落ち着かせる。落ち着くまで数秒、よし、OK。
「やりたい事って?」
「ん? これは内緒。まだ対戦相手だからねぇ~。棄権してくれたら教えるよ」
「あら? 今度は逆に棄権するよう言われてるわね。私もやる事があるのよ。だから、無理」
「分かってるよぉ~~。だから、お互いに頑張ろ~~」
無邪気な笑顔の発言に、レッド・ホークはつい笑う。戦う前日とは思えない空気感に、
「頑張ろ~」
そう答える。明日、戦いが行われるというのに。




