第十三章 とある二人1
レッド・ホークは大我の写真を使い、知り合いを探しているとして使わせてもらっている。ルール違反にはならないと事前に情報を得ているので、レッド・ホークは大我を探す。
ただ、探せる範囲内は絞った。子供だから長距離にいるわけではないだろうという考えと、学校を特定するのには個人では無理がある為、知り合いの情報屋やハッカーに協力を得ている。
探し始めてから数日後、試合が始まる前日の日に、その子の通う学校が判明した。曜日は金曜日の午後十五時半、とある小学校の前にある車が通れるサイズのT路地の壁側におり、出て来る子供達を見る。
そして、目的の子供が来た。大我だ。大我も気付いたのか、ランドセルを背負いながらレッド・ホークの傍にきた。
「僕に用があるんだね?」
「その通り。悪いけど、一緒に付いて来てくれるかしら?」
「お姉さん奇麗な人だからいいよぉ~~」
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「え!? レッド・ホークに、大我君を探す許可を出したの貴女!?」
「ちょっと耳が痛い~。上からの許可はちゃんと取ってあるから大丈夫。さっき出会ったってメール来たから、今頃喋ってるんじゃないの?」
大我側のスカウトマンである紀美代と、レッド・ホーク側の女性スカウトマンが、本部の喫茶室で出会い、会話をしている。仲がいいわけではないが、レッド・ホーク側の女性スカウトマンから声をかけてきた。
「どうしてそんな事をさせてるの? というか、そんなのアリなの?」
「アリなんじゃないですか? 別の戦い前でも会っていた選手がいましたし、過去にもあったらしいですから。ただ、試合終了後でも会ったりして抗議をしたり、殺したりしてる人が過去にもあったらしいので、そこだけはまぁ、分からないと言うか……」
「……」
その話しを聞いて思い出すのは、昭二の言葉。試合終了後に兄は千葉 隼人に殺された。何故殺したのかは分からないが、それを聞き出すのも……いや、私の役目なのかも知れない。
「大我君ってさぁ~」
女性スカウトが紅茶の入ったコップを片手に、紀美代を指差して言ってきた。
「な、なに?」
「今回の戦い、降りた方が良くない?」
「……それはどうしてかしら?」
「だってさぁ、普通に考えてもみなよ。いくら相手を殺している、殺人鬼だとしても、銃だよ? 鉄の棒と銃じゃ勝てなくない?」
「それは! 確かにそうだけど……」
「そ、れ、に! 書いてある項目を見たと思うけど、スナイパーライフルだよ? 遠距離射撃から狙う。それも居場所が分からない所から、いきなり撃たれるんだよ? 子供にそんな怖い思いさせたくないでしょ? というより……貴女が」
その言葉に、声が詰まる。確かにそれはそうだと紀美代は考える。確かにやっている事は、おかしいことだろう。子供に背負わせる事じゃない。分かっている。
しかし、これは私の願い。きっと、消えない罪を作る為の願いだ。そう心に刻むように、何度も何度も考えて、
「分かってるわ。けど、大我君はきっとやる。そういう子供だからね、大我君っていう子供は」
「……頭を撃たれるだけじゃない。手、足、腹、背中と撃たれるかも知れないんですよ? よ~く考えてください。大人として、人として、そうなる瞬間は見たくないでしょ?」
「そうね。でも、私も大我君も、生半可な気持ちで参加したんじゃないの。絶対にやらなくちゃならない事がある。その為に……いえ、その為じゃない、だからこそ、逃げる事は出来ないの」
強く、女性スカウトを見て発言する。一切の迷いもなく、ただただ真っ直ぐに。それを見た女性スカウトは、小さく溜息をする。
「強い意志がある事は分かりました。けど、本当に忠告はしたかっただけなんですよ。私だって、子供が死ぬ所なんて見たくはないんですから。他の大人の人は、過去に犯罪を犯しているからいいんですけど」
「ありがとう」
「いえいえ。ちぇ。私って場外は向いてないですねぇ~。真っ直ぐな発言には負けましたよ。はぁ~~」
この子は、大我君の事をちゃんと考えてくれたんだ。例え罪を犯した子供であろうと、心配をしてくれた。ちょっとイカレてはいるんだろうけど……この世界はそういう世界だから……としか、今は言えない。
……大我君も甲我君も、剣司さんも、そういう世界にいる人間なのだろうか。ふと、そう思った。いやむしろ……
「(私達よりも、もっと深い所にいるのかも知れない)」
「まぁレッド・ホークが何をするかなんてのは分かりませんが、お話しだけするってだけで、何にもしないと思いますよぉ。彼女、そこんところは考えているようですし」
「それならいいんだけれど……」
大丈夫かしら、大我君
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「お姉さんは甘いのが好きなんだね。僕と一緒だぁ」
「まぁね~。炭酸ジュースこそ、最高の飲み物の一つよ、大我君」
大我とレッド・ホークは喫茶店に来ている。レッド・ホークのバイクに跨り、都内の適当な喫茶店に入って、サンドイッチと炭酸ジュースをお互いに頼んだ。
「にしてもお姉さん。直接僕に会いに来るなんて、面白いね。確かにルールでは、こうやって出会う事も可能。つまり、始まる前に相手を痛めちゃう事も可能ってわけだ。面白いルールの穴を突いてくるねぇ」
「そんなつもりはないよ、大我君。まぁ確かに君を狙ってはいるけどね? バン」
レッド・ホークは右手を銃の形にして、撃つ振りをする。それに大我は微笑する。
「それでお姉さん。僕に会いに来たって事は、何かご相談なのかな?」
「お? 鋭いわねぇ~~。流石、最年少かしらね? 私はね、今回の戦いで貴方を、大我君を撃ちたくないのよ」
「……ふぅ~~ん。そう来るんだ」
大我はジュースを一口飲み、その場で足を組みレッド・ホークをじっと見る。レッド・ホークはそのじっと見る目を、見る。お互いにじっと見ているだけ。
お互いに目を逸らさない。大我は目をゆっくりと閉じかけるが、途中で目を見開く
「!?」
それだけで、レッド・ホークは大我の眼が細くなるのを見た、それだけで、この子の雰囲気が変わるのを見た。見た? 見た?
「お姉さん。君が選んだのは間違いじゃない選択肢だ。誰だってそうだ、誰だって相手の事を知りたがっていた筈だ。でもね、僕はこうやって直接知りたいわけじゃない。誰だってそうじゃない、僕だって選ぶ権利はあるんだよ?」
レッド・ホークは、大我の言っている事が分からなかった。何を言っているのだろう? そう考えた時に、ある一つの違和感を感じた。それは大我――からではなく、その周りから。
適当に入った喫茶店の筈だった。適当に停めた場所だった。なのに、
周りを見てしまった。周りに……客がいなかった。まさか、いや、そんな筈は――
「権利は、貴女だけには与えられない」
背後から声がする。が、振り向けない。
「悲しみは、貴女だけには与えられない」
振り向かせてはくれない。レッド・ホークは、その場から動けない。
「君が出来る事は、僕と戦う事だ。それを忘れてはならない。死ぬか死なないかなんて、分からない。貴女が何を望んでいるのかは分からないけど、やっちゃいけない。それをやってしまったら……きっと後悔する。だから、やめてよね」
数秒後、何かをすする音がする。それはジュースだ。そこでやっと、レッド・ホークは振り返られた。振り返った先には、ジュースを飲んでいる大我がいる。そして周りを見れば、さっきまでいなかったのに人間がそれぞれ食事を楽しんだり、接客をしたりしている。
立っているレッド・ホークは、何が起きたのか分からない事になっている。
「ほら、お姉さん。座って?」
「……えぇ」
レッド・ホークは言われたとおりに座る。子供が出したのか? それよりも何故周りの人達がいなくなったのか。分からない。何が起きたのか……、
「それで、お姉さんは何が目的で来たの?」
「……本当は、私は白鳥警備会社に用があるの。いや、本当の事を言えば、呼び石の欠片、もしくは呼び石その物に用があるの」
「ふぅ~~ん。あの石に用があるんだ。けどそれって、無理じゃない? セキュリティがきつそうだし」
「そうなのよ。だから私が勝ち上がって、近付こうと思っているの」
「ふぅ~~ん。それって誰かの依頼だとか?」
その発言に、レッド・ホークは口許を笑みにした。
「それだけは言えないわ。トップシークレットだからね? って言いたいけど、さっきので君が、ただの子供じゃないってのが分かったわ。だから、これだけは教えてあげる」
そう言って、レッド・ホークは真剣な顔をする。
「通称、呼び石と言われているあの石は――別の形で力として存在している。それを少しでも知る為に、私は参加したのよ。まぁ、参加したうちの一人ってところね」




