第十一章 とある会話
上層部がどこにあるのかは、所長は知らない。ただ、白鳥警備(株)に存在している事は理解している。そう、理解はしている。しかし、所長にとってはその程度の認識でしかない。
歴代の所長も同じようではあるが、上に昇進したのかさえ分からない。
ただ、そんな上層部も、今回の戦いでは予定外の事で戸惑っている事は、現所長も分かっている。
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暗い空間。微かに見えるテーブルと人影が数人。そして中央にはモニターがある。モニターの映像に流れるのは、それぞれの第二回戦での戦い。その戦いの中でもっとも再生されているのが……大我の戦いだ。
「どうする? ただの子供だと思っていたが、これは子供と言うにはあまりにも他のお客様には通じない冗談だ。今からでも対戦カードを変えるべきだ」
「分かっている。おい、対戦カードで、よりキツイ相手はいるか? そいつとこの子供を戦わせるべきだ」
「では……この女なんてどうでしょう? 銃使いです」
モニターに一人の女性が映し出される。金髪の女性で、キャットスーツに身を包んだ女性。
「国籍は米国、ですが向こうでは有名なスナイパーとして、尚且つ殺し屋として名を馳せています。あだ名は、レッド・ホーク、だそうです」
「あだ名はともかく、銃か。これは確かに良さそうだ。元々は誰と当たる予定だったんだ?」
「千葉 隼人という、終身刑になっている男です」
「おぉ、聞いた事があるぞ。確かここ何度か優勝経験をしていると。でしたな?」
「えぇ。今年は彼が参戦しましたか。では、このレッド・ホークと当たる予定だった選手をぶつけましょう」
モニターにはレッド・ホークと言われた女性と、大我の写真が並べられる。
「銃相手には勝てないでしょうなぁ」
「いや、ここまで力を使っている様子が見られないから、やっと使うんじゃないのか? この俺に能力を隠すなんざ、いい度胸しているぜ」
一人の男性が葉巻を吸いながら、大我を指差して言う。その指には、ダイヤモンドが付けられた指輪がモニターの光に照らされる。
「それに、このガキなんだろ? 呼び石の力が無くなったであろう原因は」
「そう報告はされていますが、本人は何故落ちたのか知らないとの事です。が、欠片が反応していたらしく、ちゃんと能力は渡されているとの事でして……」
「だったら、このガキを捕まえて、本当に何が起きたのか聞き出せばいい」
「それはルール違反だ」
強めの言葉を発していた葉巻の男に、真っ直ぐに止める一人の男性の声が響く。その言葉に誰も返事はしない。
「我々はルールを元に動いている。それを破れば、呼び石との”契約”は切られ、我々は力を失う。それはこの地位だけじゃない。この力そのものを失う事に繋がるんだ。それは困るだろう?」
「……っち」
葉巻の男性が灰皿に葉巻を押し付け、火を消す。
「我々がやる事は、彼らとの”契約”を果す事。その見返りとして、この力を得ている」
「だが、それを好き勝手に使えないってのが問題なんだろ? 欠片さえあれば使えるんだ。いつになれば欠片が渡される? もう渡されてもいいだろ?」
さっきまで葉巻を吸っていた男が左拳を握り、テーブルを叩き、我々と言葉を発している男性を指差す。
「お前だけ欠片を有しているらしいな。何故だ?」
「これも、そういう”契約”だからだ。私の父親が受け継いだ”契約”の通りに動いている。それだけだ」
「父親ねぇ。そんな父親も、本当の息子じゃないお前に託したのは嫌だったろうなぁ?」
「……私の父を馬鹿にするか、脳筋が」
「馬鹿にするねぇ、七光り。俺は力でここまで這い上がってきた人間。いや、あの戦いから優勝を何回もしてきた”最強の男”だ! どうだ? やるか? ここにはお前の欠片があるからいつでも俺は力を使えるぞ?」
「ルールを元に罰するぞ」
「そのルールもぶっ壊してやろうか?」
二人が睨み合っている。睨み合っている途中、モニターに警告のマークが出現する。別の者が、この争いに嫌気をさしながらも、警告のマークを押す。するとモニターが切り替わり、白鳥警備(株)の前を映し出す。
「……これは、なんでしょうか?」
眼鏡を掛けた男性が、警告マークがあったモニターを映し出す。皆がそのモニターを見る。そこは駐車場、白鳥警備が使っている地下駐車場だ。映像の中に誰もいなければ、怪しい人物がいるわけでもない。それも関係者以外ではなく、一般の社員が使う映像に警備マークが付いている。
「ここは、一般社員が使っている駐車場ですね。何故ここが映し出されているのでしょうか?」
「それを調べさせるのが警備隊だろ。何をしているんだ、ここの警備隊は」
「いや、既に動いているようだ」
一般警備隊が、アラートが鳴ったのであろう場所に来て、周りを見出した。だが、誰かが出て来るわけでもなく、何かが起きているわけでもない。警備隊がタブレットを持ち出し操作して、周りを見出す。
「映像を見ているんでしょうね。それで、何が起きたのかチェックしているのでしょう。私達も見ますか?」
「見よう。頼む」
「了解」
空中にキーボードが出現すると、それを打ち込み始め、画面が幾つも出現する。数分後、アラートが鳴ったであろう時間帯に差し掛かった映像を真ん中に映す。
「ここからです」
葉巻を吸っていた男性は深く座り、ふん、と鼻で笑う。どうせ何も出ないと思っているのだろう。だが実際に、何か起きたわけでは――、
「……ん?」
眼鏡を掛けた男性が一度眼鏡を開けて目を擦り、掛け直した後に映像を数秒戻して再生する。
「どうした?」
「今、何か火花があったような……」
映像に映し出された画面の一台の車が、突然火花を散らした。その後にアラートがあったようだ。現在の映像を見れば、向こうも確認をしたのか、火花を散らした車の元へ行き、写真を撮っている。
「何が起きました?」
眼鏡を掛けた男性が別の方向にいる誰かに呼びかけると、向こうでは通信を使い対応をしていた。それが終わると、警備員の恰好をした男性が現れる。
「はい。どうやらこちらの車に、弾痕が残されていたようで」
「弾痕? 銃ですか?」
「恐らくは」
「ほほう! それは面白い話しじゃねぇか!」
葉巻を吸っていた男性が腰を上げて言う。一番上の人間であろう人物は、目を細めて考える。まさか……レッド・ホークか? 自由にさせているが、何かを隠しているのか?
確か彼女だけ、スカウトマンに直接会いに来ていたな。
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白鳥警備(株)があるビルから、一キロメートルは離れたビルの屋上に金髪の女性がいる。それはレッド・ホークと言われた女性だ。その女性がスナイパーライフルを構えて、白鳥警備会社を見ていた。
「他の所は弾かれるように防がれたけど、あそこだけは大丈夫? ということは、ビルだけを覆い隠すようにバリアが張られているようね」
顔が整っている彼女、レッド・ホークは、スコープから目を離し、銃を分解し始める。一つの鞄に収まる程度に。重い荷物を持つのは慣れている。後は華麗に、この場から去って情報を送るだけ、それだけ。
「怪しい石から力を得たとしても、発現できるのは欠片の中のみ。あの石を奪うにも、どうやってあそこにいけばいいのか分からない。バリアが張られている位置なら私の能力は使える? いや、きっと本人が持っているだろうからそれはないと考えましょう」
そう言って鞄に分解した銃を全て終い込み、そのビルの扉の方へ歩き始める。
「あれだけ。あれだけが私が最後に生き残る為の、唯一の力……。慎重に……慎重に……」
己を落ち着かせるために何度も言葉にして、屋上から室内へ繋がる扉から、ビル内へ入る。
何かを確認するための行動をとって。
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「んでよぉ、そっちはどうだったんだ? なんか面白い事でもあったか?」
「甲我お兄ちゃんほど面白い事はなかったけど、優しいおじさんと戦ってきたよ。最後の最後、こう、がむしゃらだったんだろうね。僕の一撃を咄嗟に奪ったんだ。そんでそれを使って攻撃してきたよ」
「ほぉ~~ん。能力者バトルっていうもんだからもっと派手かと思ったけど、そうでもないんだな」
そう会話するのは、大我と甲我の兄弟。学校帰りなのか、大我はランドセルを背負って住宅街の入り口で二人は会話をしている。まるで甲我を見送るかのように。
「甲我お兄ちゃんはこれからでしょ?」
「そうなんだよ。全く、困ったお嬢様に目を付けられたもんだぜ。世界の命運を決めるわけでもないのに必死になっちゃってまぁ~~」
「ふぅ~~ん」
大我がそう言っていると、一台の車が停まり、一人の女性が歩いてきた。
「こら、甲我! また勝手に帰ってたわね!? この私を置いて!」
「うおぉ!? 急に声をかけるなよな、亜寿沙」
甲我が驚き振り返れば、一人の学生服を着た女性が、仁王立ちしている。大我は、髪の毛が金髪でクルクルしているなぁ、どうやってるんだろうと疑問に思う。
「あら、大我君じゃない」
「こんにちわ。今日も甲我お兄ちゃんと大会なんでしょ?」
「えぇ、そうよ。甲我、弱くなってないわよね?」
「おい、これでも一応、大我より強いんだぞ? な? 大我」
二人が笑顔で聞いてくるが、大我は首を傾げて、
「大きくなったら、僕が強くなってるかもよ?」
そう答えたら、亜寿沙が笑い始める。それには大我は困った顔をした。何故だろう。
「大我君は未来を見据えているわね、甲我。ほら、将来の大物に負けない様に今日も頑張るわよ!」
「……へいへい。甲我ぁ、父さんと母さんに、飯はまた向こうでって伝えておいてくれ」
「うん、分かった。いってらっしゃ~~い」
大きく手を振って、二人が歩き出して車に近付くのを見る。あの二人、付き合えばいいのになぁと思いながら。
暫くして車に乗った二人は、そのまま住宅街の入り口から離れるように車を走らせて、いなくなる。
「僕も頑張って、強くならなくちゃね。その為に、訓練訓練」
住宅地に入り、楽しそうに歩き始める。スキップをし出しているあたり、何か思いついたのだろうか。
「おじさんの攻撃、僕にも出来るかなぁ」
耕三の事を思い出して、空手の真似事をする。が、上手くいかない。やっぱり駄目かぁと思いながらも、家路へ。
今最も、注目されている選手だとは知らされていない状態でありながら。




