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第十章 二回戦 vs小田 耕三4

 どんなに攻撃をしても、どんな連撃を放っても、どんな虚を突いた攻撃をしても、全て見透かされているとしか思えない動きを、一人の少年はやってのけている。それを数十分とも思える相手の攻撃を、数分間、攻撃もせず、防御もせず、避け続けるだけ。

 一人の少年は、途中でつまらなくなったのか、表情が変わる。それは、飽きた表情。


 このコロシアムの中で、その表情を、戦いの最中に見せたのは、その少年が初めてだった。



            ▼▼▼



 監視室、モニター前。監視員達がモニターに流れている映像を見て、飽きれている。


「……これはあまりにも……力の差が……」

「……むごすぎる……」


 小田 耕三は、いぶし銀の耕三と言われた窃盗犯ではあったが、その前は空手の有段者であった。だが、仲間だと思っていた人間から裏切られ、多額の借金を背負わされ、犯罪に走ってしまった……心を弱くしてしまった人間だ。

 だが、それでも小田 耕三は、必死に生きてきた。人間らしく、いぶし銀なんて付けられてはいるが元は普通の、育成をしていた側の人間だった。ただ、落ちてしまった。それだけ。それが駄目なのは分かってはいるが、耕三視点からすれば、どうしようもなかったのだろう。だからこそ現在は、完全に足を洗い、仕事を真面目にしている。

 何度も盗みにいってしまったのはいただけないが、泣いた者達がいるが、それでも耕三は、現在ではやっと、まともに仕事をしていた。

 多額の借金がある。だからこそ、コロシアムに参加したのだ。それを監視員は知っている。


 だからこそ、白濱 大我がやっている事は、許される事なのだろうか?


            ▼


 耕三は全ての攻撃を避けられながら、避けられながら……避けられながら――避けられながら思う。これが、白濱 大我という子供の――いや、人間の成せる業か。勝てるビジョンが思い浮かばない。ここから逆転する発想が思い浮かばない。

 能力が弱いから? 違う。私の空手が通用しないから? 違う。――ならなんだ? 何が違うんだ?


「もういいよね~~」


 耕三はその言葉の後に、腹部に鈍い衝撃が来るのを感じだ。鉄の棒が、耕三の腹部を突いた。


「ぐふぅ!?」


 身体をくの字に曲げて、己の鍛錬のしなさに嫌気がさした。今のは、私の弱点を突いた的確な攻撃だ。そう判断して――


「ほいっと!」


 くの字に曲がった背中が、何かによって押され、子供が出せるとは思えない力で床に叩き付けられ――床を陥没させた。


「がはぁ!?!?」


 背骨は――折れていない? しかし痛みがある。ならヒビが入ったか? そう考える余裕があるという事は――――諦めたのか? 私は。圧倒的な強者の前に、私は戦う事を諦めたのか?


「(違う!!)」


 耕三は背中に何かが乗せられている状態でも無理矢理立ち上がる。上から、わわわ、という声と共に、立ち上がった先には少年が片足だけで立っていた。バランスを――崩した?



            好機!!



「チェストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


 右拳に、先程の一撃を無意識に”左手の平で受け止めて力を盗んでいた”力を、今ここで”開放”する!!!!

 拳は、右拳は真っ直ぐ、真っ直ぐ、正拳は、真っ直ぐ、真直ぐに、ゆらゆら動いている大我の顔面に目掛けて――――




 力を開放した。




            ▼


 轟音と共に、二階から屋上まで大砲の様な一撃が放たれ、空に瓦礫を飛ばした。


「…………よくやったよ、耕三」


 耕三をスカウトした男は、顔を上にし、深呼吸をする。

 映像には、右拳を上に放った状態で、笑顔になって気絶している耕三と、それを座って見ている大我が映し出されている。


 そこで司会者が映像を全て確認して頷く。そして、勝者の名を――


「――勝者!!!     白濱 大我!!!!!」


 挙げた。



            ▼▼▼


「ここです。ここの最後の一撃」


 監視室では、耕三の最後の一撃が放たれる映像が流れる。右の正拳が、バランスを崩してグラグラとしている大我に向けて放っている。


「ここで耕三選手の攻撃が当たると思いました。が、実際は――大我選手によって誘導されておりました」


 映像は、背中に一撃を入れる大我の映像が流れる。


「ここを見てください。耕三選手が無意識なのか本能なのか分かりませんが、ここで大我選手が終わらせようと棒を振り落としましたが、左手の平がその攻撃を半分、受け止めていました。この瞬間に大我選手の表情が豹変、何かを思いついたかのような表情に変わります」


 退屈だった表情が、何かを思いついたような表情に。映像はそのまま流れ、起き上がる耕三を見て、耕三の前に飛び片足で着地し、グラグラとする。


「この動きを見て耕三選手は勝機とばかりに右拳を放ちます。が、当たる瞬間、まさにその瞬間――右拳の手首に棒を当て、真上へと。衝撃はそのまま天井を打ち抜き、そのまま耕三選手は敗北……となります」


 監視室では、一連の出来事を分析したが、分析結果は御覧の通りと言わんばかりに、常に大我の優勢で戦いが進んでいたとされる結果で終わった。


「まさに、化け物だな」


 所長が映像を見ながら一言。そう、化け物と言われても仕方がない結果だ。


「ただ、やっている事は確かに人としてどうかとは思いますが、力の差が余りにもあり過ぎるという意見があります。特に上層部から、どうにかならないか? というお達しがあるそうなのですが……」

「耕三だって決して弱かったわけじゃない。訓練をしておらず腕が鈍っていたからといって、あの連撃を見ただろ? 人としての動きじゃない、流れるように打ち込み続けているあの姿は、勝とうとする人間の姿だ」

「だが、化け物によって敗北した。詳しい能力も明かされぬままの第三回戦への切符を手に入れた。ここまで来ると、溜息しかでねぇよ」


 映像には、全ての攻撃を避けている大我の姿が映し出されている。何秒間も、何分間も、十何分もと言えるであろう時間を、まるで普通に過ごしているかのように。

 だが決して、舐めているわけではない。全ての攻撃を目で追っているのがスロー再生で分かっている。攻撃を全て追っている? としか表現できない事をやってのけている。


「……ただ」


 その場にいる者達が、言葉を発した者……所長を見る。


「今回は、死ななかったな」


            ▼▼▼


「いやぁ、負けた負けた。大我君、強いね。全ての攻撃を避けられちゃって、おじさん凄く悔しかったよ」

「そう? おじさんの攻撃、中々良かったけどなぁ。もう少し鍛えてたら、僕ももう少し慌ててたかも」

「こら、大我君」

「言うじゃねぇか、ガキ」


 耕三、大我、紀美代、男性スカウトマンの順番に言葉を放つ。耕三は服をぼろぼろにされ、右手首が張れている。スカウトマンはサングラスを掛け直し、


「だが、実際に俺達は負けた。耕三の空手っつっても基本やら何やらだったと思うが、全部避けられてたからな。しかも最初から能力の選別作業をしていただろ? お前、頭良すぎ。戦闘スタイルどうなってんの? マジで」

「なっはっはっは。まぁ僕だって必死だったよ? 当たれば一撃で死んじゃうじゃん。そんなの怖くて当たりたくないよ。だからこっちから攻めさせてもらって、色々と考えさせてもらってってやったんだ。あぁ~怖かった」


 深い溜息と共に、大我は安堵した表情を。紀美代は耕三を見て、頭を下げた。


「ごめんなさい、耕三さん。この子、とても失礼な事をしたと思います」

「いいんです、いいんです。実際強かったですからね」


 紀美代は頭を上げて耕三を見れば、笑顔で返してくれた。


「ありがとうございます。ほら、大我君も」

「おじさん、ありがとうねぇ~。おじさんとの戦い、活かすよ~」

「こら!」


 笑顔で返してくれたのに、と思いながら大我の頭を軽くチョップする。それを見た耕三は笑う。


「あっはっはっは!! おじさんのなりふり構わなかった攻撃を、活かしておくれよ?」




 紀美代と大我を乗せた車が走り出す。大我が手を振っていたのを見て、耕三も手を振る。


「よかったのかい? 耕三さんよ」

「いいんだ、これで。きっと私はいつか、彼に当たっていただろうね。そして下手をすれば殺されていたかもしれない。そう考えれば、今回の戦いは儲けものだ」

「ほう? 何を儲けたんだ?」


 耕三はスカウトマンの方を見て、笑顔で答える。


「新しい生き方、だよ」

「……違いねぇや。新しい生き方しなきゃ、やってられないな。今日は俺の奢りで酒でも飲むか」

「お! いいんですか!?」

「いいぞいいぞ。あんな怖い思いしたんだ。愚痴くらい聞くよ」

「ありがとうございますぅ~」





 第二回戦、白濱 大我vs小田 耕三



 勝者・白濱 大我

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