第九章 二回戦 vs小田 耕三3
監視室では、いったい何が起きたのかの特定をしていた。それと同時に、司会者と紀美代、そして耕三のスカウトマンも映像を見ていた。それは、明らかに人とは思えない動きをしていた、大我の動き。
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監視室のモニターに映っている映像では、ドローンでは追えず、途切れ途切れではあるものの3D映像にし、何が起きたのかを見た。それは、始まりと同時に走り始め――階段の壁を一度蹴って折り返しまで飛び、窓枠を蹴り反対側へ。廊下に出ずに階段の壁を蹴って斜めに向けて飛び、振り返って折り返しまで飛び――を繰り返して四階まで行き、廊下へ到着し走り始め、真上に向けて飛ぶと同時に鉄の棒で天井を破壊し、屋上へ。
着地して低い体勢で走り、何回か床を鉄の棒で叩き、そのまま一番端っこまで。そしてある地点で止まると同時に真下に向かって鉄の棒を叩いて陥没させながら真上へ飛び、思い切り叩き落し、そのまま床を破壊して真っ直ぐ耕三の元へと落ちる――、
という結果が映像として出力された。それには監視員達は固い唾を飲み込み、いったいどんな力を授かればこんな事が可能なのか考察が開始される。
「これは力の能力か?」
「だとしたら最初の、階段の壁蹴り昇りの時点で力技に持っていって、亀裂なり破損なりしているだろ? だが見ろ、この映像を。一切そんなところは見受けられない」
「だが、そうなると四階で斜め上に飛び上がって屋上に行くまでの流れや、一番端に行って床を陥没させての一撃、そしてそのままの落下の説明が出来ない。ここは力のコントロールで亀裂や破損がないよう調整して上がった――と考えるべきじゃないか?」
「だとしても、だ。どうして耕三のいる場所が分かったんだ? 鉄の棒を叩いているというこの行動にも何か意味があるんじゃないか? 屋上で何回も叩いている。これはなんだ? 一回戦の時もあった行動だ」
「確かにそうだな。なら速度系か? いや……だとしたら破壊が出来ないか」
映像には、一メートル以内に二人がいる映像が流れている。所長は何も考えず、ただ見守っているだけ。
「紀美代君は、どう見るのかな? この状況を」
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「うわヤッバ……。この子供の機動力と攻撃力えげつねぇ~」
司会者が映像を見て、やや小声で言う。これには耕三のスカウトマンも――紀美代も驚いた。まさかこんな動きをしていたなんて……。
「おい。ガキのスカウトマン」
「……なによ」
「あいつの能力はなんだ?」
「知らないわ。本人も知らないって言ってるんだから」
「そりゃ本人は、すげぇ力を手に入ったら言わないかも知れないけど……いや、普通は言うか? そんな事よりも、あんな動きを堂々と出来るのか? ただのガキが?」
ただのガキ、という言葉にカチンときたが、確かにただの子供ではない。いや、元々ただの子供ではないとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。映像を見るまでは、考えもしなかった。
こんなにも、無邪気に戦いの場を走り回っている姿を見る事になるなんて……と。
そう思った後に、行動が起きた。大我の振り被りと同時に、耕三が構えたのだ。
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「!」
耕三は、振り落としてきた鉄の棒を左手の手の平で受け止めて、横に流す。直後、流した筈の鉄の棒が、右脇腹に向かってきた。それを耕三は右手の手の平で受け止める。直後、鉄の棒が右手の手の平から消え、腹部に向けて突いてくる――ので、それを左手の手の平で受け止める。
「やっぱり、それが能力だね!」
目の前で、人ならざる動きで三連撃をしてきた。振り落とし・横薙ぎ・突き、それ等を全て、空中でやってのけた。大我は床に着地する。床には一つの陥没があり、それが鉄の棒による一撃だと、感覚で知った。
「態々それを確認する為に、身長差を活かした下半身を狙わずに上半身を狙ったね?」
「まぁね。けど、まだまだ考察は続けないと」
耕三はゆっくりと態勢を低くし、左手を下に向け、右手は拳に変えて中段に、態勢はやや斜めに。前衛的に、一撃を打つ為に。
「(と、考えるんだけど……彼が思うように動いてくれない。大胆な行動のようで、その実、こちらの能力を把握する為に行なったパフォーマンスに過ぎない。末恐ろしい事だ。ならばこちらから動くしか、ないじゃないか!)」
そう考えた時には、一歩を力強く踏み出し、右拳を大我の顔面に向けて放つ。距離はさっきの攻防で縮まり、こちらの一歩で更に縮めた。あとは当てるのみ。大我は――動かない? カウンターか? いや、一切そんなのは感じられない。大我の表情は少し見えるが、笑顔のままで――、
「ほい」
その言葉の後に、何か棘のような物が刺さる感触を肌で得た。脳裏に浮かぶのは、この少年の一回戦での勝利の仕方。手を斬り落とされて、その後のバラバラ殺人による勝利――!?
「(しまっ!?)」
斬られる。そう思った時には、能力を発動していた。
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「!?」
轟音と共に、何かが二階で砲弾でも撃ったかのように、窓ガラスや壁が破壊されるのを、紀美代は見た。
「大我君!」
すぐに映像を見るが、映像は土煙なのか崩れた瓦礫の残骸による土埃なのか分からないが、見えなくなっている。これに耕三のスカウトマンが大きな溜息を共にサングラスを掛け直した。
「お前のとこのガキ、明らかに戦い慣れしているな。自分の事も知っているし、自分の情報が向こうに行っている事も分かっているからこその、作戦を立てた」
「……何が起きたのか分かったんですか?」
「分かったも何も、瓦礫を使いやがったんだよ。それも態々、先を尖らした瓦礫をな。それを耕三の正拳に合わせて尖った部分を接触させ、ガキのやった事を知っている耕三が危機を察知して能力を発動……いや、今まで”盗んだ”もんを”使用”した。あんなの、思いついたって出来やしねぇよ」
映像が晴れていくと、右拳を振り切った耕三と、その耕三の足元に座って能力使用後の先を見ている大我が映し出される。大我はその場で笑顔になり、立ち上がって少しだけ歩き、振り返る。
「よかった……。無事だったみたい……」
「こっちは良くねぇよ。これであのガキに手の内がバレた……てか、元々バレてた可能性があるな。だからその能力が本当なのかの確認をする為と、溜め込んでいる力の開放を同時に果した」
「……小田 耕三の能力?」
「――”触れた箇所から力を盗み使用する”事が出来る能力だ。ただ、この触れたってのは手の平だけしか作用されないから、接近戦限定になるが……勝てる見込みはあった筈なんだよ。なんせ、手の平に触れたのならば、殴りだろうが斬撃だろうが大砲だろうが、全て”盗む”事が出来たんだからな。それを、あのガキに見破られちまったわけだ。嫌になる」
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「君は、凄いね」
耕三は、笑顔のままでいる大我を見て一言、言い放つ。凄いの一言に尽きる。
「(どうやら戦う前から、どういう能力なのか選択肢を作り、あの天井からの一撃で一気に絞り込んだ。そして前の戦いで、何かに起因しているのではないか? と確認をする為に、わざと三連撃を手の平で受けさせて、こちらが動くまで絶対に動かないという意思を見せ、こっちが攻撃をすると同時に、隠していた石なのか尖った何かを当てて、こちらの持っている情報を思い出させて能力を使わせた。ただの子供とは思えない、この子は……悪魔か)」
笑顔のままというのが怖く、それを見せない様にするが……冷や汗が出て来る。
右拳を引っ込め、その場で立ち深呼吸をする。隙だらけだが構わない。向こうはこちらを待っているんだから。
「これから、能力と私なりの空手で、君を攻撃させてもらう。いいかい?」
「いいよ~~。こっちも――」
喋っている最中だが、左の正拳突きを顔面に叩き込む――が、真横に避けられた。
「勝手にやるから」
「きぃぃぃぃぃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!!」
右肘、上からの右拳による裏拳、左肘、右蹴り、右足踵蹴り、左足による薙ぎ――からの踵蹴り、右手の手刀からの左突き、回し蹴り、空手チョップ、突き、正拳、蹴り、裏拳、手刀、肘、裏拳、チョップ、正拳、蹴り、正拳、蹴り、手刀――――――…………
あれから何分経っただろうか。いや、何十分なのだろうか。私は今、何を誇りに戦っているのだろうか。一人の子供に全て回避され、攻撃もされず防御もされず、ただ一人舞っているだけ。
これは、戦いではない。ましてや、格式ある行事でもない。殺し合い? コロシアム?
ははは……そんな、事も……なかったなぁ……




