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#2 正夢、逆夢

あ、歌の歌詞があるかも。



二人には、もう会話という概念は残っていなかった。結露で覆われ、もう何も外の景色をうかがうこともできない、曇り切った窓を呆然と眺めながら、

エレンはそっと口を開いた。外で濛々と降り盛る雪で、エレンのか細い声は消し飛んで、ミカサには聞こえなかった。


それでもミカサは、悟ったように、エレンの瞳を見つめると、その口元に笑みを浮かべ、マフラーを摩ると、静かに頷いた。


「そう、わかった」


向こうで、エレンが紅茶を注ぐ音が聞こえる。それから少し遅れるようにして、部屋中に紅茶の香ばしい香りが広がり、二人を包み込んだ。


見飽きたほどの光景。塵や埃が無重力に散り、それを窓からの朝日が刺した。エレンの後ろ姿は何故か、孤独に感じた。


気づけば、もうエレンは目の前にいた。ティーカップ二つ乗っているお盆を持ち、どこか遠くを見るように、呆然と突っ立っている。


ティーカップが、コトンと音を立てて、ミカサの目の前に置かれた時、エレンはミカサの斜め前にサッと腰かけた。


「エレン、、、?」

ミカサは、エレンに問いかける。エレンの瘦せこけた身が、朝日に刺され、酷く濃くその身に影を付けた。


窓際にあった、花瓶が散り、掛け時計の針はとうとう、時を示す事は無くなった。雪が、突如として止み、氷柱が地面を刺す音が盛大に響いた。


エレンには、既に何処か遠くの世界に身を置いているような、奇行感があった。虚ろな目で、ミカサの手元を追っている。


「お前、その紅茶に毒が入ってるって言われたら、どうするか?」


ミカサは、瞳は酷く開き、長い沈黙を作った後、ふらっと、息の抜けた様な身で、椅子から立ち上がった後、前へ逃げようとし、とっさに地面に崩れ落ちた。


「ちょっと、そ、外の空気吸ってくる」

それから、また頼りない足腰で、地面を蹴り上げると、凍った扉を目一杯に押し込んで、開いた扉から盛大に飛び出すと、扉を閉めるのも忘れて、その場を去った。



扉から限りなく注ぎ込んでくる風は、エレンの髪を乱れさせ、その隙間だらけの身を突き刺した。気づけば、ミカサが倒れた衝撃で、ティーカップがエレンの分

だけ倒れている。そこから、残りの紅茶が流れ込み、エレンの足元で止まった。カーテンが、荒々しく頻りに揺れるも、すぐに収まり、静かに花瓶の花に触れた。


「あ、、、」

気づけば、視界が傾き、エレンは一人山小屋の中で、倒れていた。地面の塵が、細かく続いている。

エレンの影は、扉からの日差しで角度を変え、その時その時の、時刻で影は短くなったり、長くなったりした。地面に落ちる花弁は、エレンの頬を伝った。


随分焚いていなかった薪ストーブの灰が、風で宙に舞い、無重力に空中を旅した後、一瞬にして塵と共に、地面に散り果てた。消えかけた視界の中、声を発した。


「、、、マフラー」


エレンの背後の影に重なる様に、色はせたマフラーがぽつんと転がっている。エレンは、それを見て、目を細めると、胸を酷く押さえつけた。


その手で、その身で、マフラーに手を伸ばそうとする。身が引きちぎられる。うめき声をあげ、汗をその身に伝い、必死に床に這いつくばる。


胸が、床にこすりつけられ、痛みを上げる。その手で、マフラーを掴むと、エレンは、ふっと我に変えた様に、動かなくなった。



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