#5 シナリオ
「っつは!、、、、、あれ、、、ゆ、め、、?」
ミカサはベッドから立ち上がる。よほど苦しんでいたのか、ベットのシーツは歪んでいた。ミカサは、我に返り、ベッドの横にで畳んで
あったマフラーを掴み上げ、自分の首に巻き付けた。何気ない日々、何気ない生活、そのすべてが何故が今なら歪んで見えた。
一階に降りると、エレンが何故かいなかった。ミカサは困惑した。胸騒ぎがして、まるで体の中の隙間を風が通ってゆくかのような感覚がした。
手足がぶるぶると震え、この現実を疑った。自分が、シナリオの上で踊らされいるような、何か見えない何かの上に立っているような気分になった。
「あ、エレン、、、」
気づけば、エレンはテーブルの隣で倒れていた。
世界の隅っこで、朝の隅っこで、丘の隅っこで、ミカサはエレンの鼓動の音を聞いた。ミカサは、大粒の涙をその身に宿し、流した。体の中に吹き抜けていった風は突如として止み、ミカサの胸の中に一つ灯が浮かび上がった。
エレンが目を覚ましたのは、その数時間後だった。エレンはその重い瞼を退け、静かにミカサの瞳をそっと見た。淡い昼光が二人の背中を撫でた。
枯れかけの花が、カーテンにそっと触れた。止まっていた音、時をも動き出し、時計が静かに時を知らせた。エレンは、ミカサの瞳を覗いたまま、
動かなかった。そのあと、そっとミカサのマフラーに目をやり、また、ミカサの顔を見つめると、そっと微笑んだ。二人の間に、以前のような
空気間が、静かに芽生えた。しかし、ミカサが本心から笑っているかどうかは、定かではなかった。エレンも同様だった。
「エレン、本当にこのままでいいと思う?」
ミカサには、何をあきらめるべきかよくわかっていた。エレンは、さよならの速さで顔を上げた。そっと、エレンの瞳に光という名の何かが差し込んだ。
二人はもう、しばらく何も食べていないようで、やつれ果て、どこか違う世界に身を置いていた。この世界の片隅で、この山小屋だけが
時間が進んでいないようだった。舞っていた塵が、とうとう地面に朽ち果てたが、二人は見もしなかった。もう、二人は現世には
立っていなかった。ミカサはの瞳から、水滴が落ち、エレンの指先にポツンと落ちた。ミカサは、そっと口を開く。何かを訴えるような瞳をしながら。
「あなたは、どうして私に心をくれたの、、、?」
エレンは微かに目を細め、どこか遠くを見た。窓からの風が二人の背中をさすった。もう、何も見えなかった。
「、、、少し、寂しい」
白いカーテンがそっと二人に振れた。雲の影が流れてゆく。ミカサは、そっと顔を上げた。エレンは俯いたまま、何も言わなかった。
過去のことを思い出し、秋惜しむまま、冬に落ちる。二人とも、何も言わず、そのまま沈黙が続いた。
「あなたは、ゆっくりと変わっていった」
長い迷路の先を恐れないようにするために。その運命を直視できず、遠ざかろうとしながらも、吸い込まれるように近づいて行っている。
そのことに気づくたびに、頭の真ん中に育っていく大きな木の根元をゆっくりと歩いていく。同じところを、グルグルと永遠に回るように。
「、、、お前も、変わったな」
エレンは、聞き取れるかどうかもわからないくらい小さな声でポツンと呟いた。もうすっかり色褪せて、元の色がどんな色かも忘れてしまった
マフラーを強く握りしめ、ミカサはそっと、エレンに問うた。遠くの雲が流れる。
「、、、どういう事?」
エレンは、建前よりも綺麗なものを探すように、そっとミカサを見た。
「ミカサ、お前は生きている意味を考えた事はあるか?」
エレンの胸につっかえて離れない、届かぬ声を風がさらっていく感覚が心の中で大きく面積を広げていった。ミカサの瞳が揺れる。
丘の上で、山小屋の中で、ミカサの心は真っ暗な闇夜に襲われていた。
「エレンは、何を思って私をどこに連れて行こうとしてるの?」
エレンはだんまりとして、何も答えなかった。ミカサはそういいながらも、わからなくても良かった。むしろその方がよかった。
ミカサだけを呪うように、叶わない夢を見てるミカサに何かを突き付けるように、エレンは言葉を選ばす、こう言い放った。
「ミカサ、俺はお前とここで終わりたい」
色がついた様に、色が褪せた様に。繰り返さないように、初めてのフリをしよう。ミカサは、狂気に満ちたような、
包容感のあるような、何とも言えない笑顔をエレンに向けると、こう言った。
「もう、何もいらない、貴方がいるから」
〝このままの速さで今日を泳いで、君にやっと手が触れたらもう目を覚まして、見て、寝ぼけ眼の君を忘れたって覚えているから。”
エレンは、一つ笑うと、最期にこう言った。
「最期くらいは、本音を言って」
「あなたに、出会えてよかった」
きゅっと、胸が締め付けれそうになる痛みも感じずに、何も感じずに、
「もう一つの約束していいか?」
「俺が死んだらこのマフラーを捨ててくれ、、、」
「お前は、この先も長生きするんだから、、、」
「オレのことは忘れて、自由になってくれ、、、頼むよミカサ、忘れてくれ」
『ごめん、できない』
「エレンは口の中にいる!私がやる!皆、協力して!」
ミカサは大声を張り上げる。
「了解だ!ミカサ」
リヴァイが雷槍で終尾の巨人の歯に穴をあけ、ミカサが立体起動でその中に入っていく。地面に着地すると、素早くエレンの方を向き、
エレンの首を切った。エレンは顔を上げ、瞳の中にミカサを映し出した。
ミカサは、山小屋で俯いたまま、動かないエレンを見ていた。もうエレンの短髪が風に揺れることはなかった。ミカサは、窓の外から
山小屋の中を見た。つい、最近までそこで誰かが過ごしていたかのような、ぬくもりが微かにした。ランプは揺れ、薪ストーブには、
灰の中に一つの灯が根強く残っていた。引き出しは開いたままで、瓶と二丁の包丁が床に置かれていた。
『いってらっしゃい、エレン』
“サヨナラの速さで、顔を上げて、いつかやっと、夜が明けたらもう、目を覚まして見て、寝ぼけ眼の君を何度だって描いているから”
“丘の前には君がいて、随分久しいねって、笑いながら顔を寄せて、さあ二人で行こうっていうんだ”
「エレン、エレン起きて、もう帰らないと日が暮れる」
「、、、?あれ、、、?ミカサ、、、お前、、、髪が伸びてないか?」
「そんなに寝ぼけるまで、熟睡してたの?」
「イヤッ、、、なんかすっげー長い夢を見てた気がするんだけど、、、何だったっけ、思い出せねえな」
「エレン?どうして、泣いてるの?」
「、、、、、、、え!?」




